あなたとよむ短歌 vol.41 テーマ詠「おもちゃ」結果発表 ~定型は窮屈なものではない~
テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。
(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「おもちゃ」結果発表
~定型は窮屈なものではない~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「おもちゃ」の結果発表です。
抱っこちゃん、キン肉マン消しゴム、リカちゃん、人生ゲーム、たまごっち、ファービー、DS、Switch。
時代の雰囲気や、個人的な思い出が反映される題材です。買ってもらえたり、もらえなかったり、プレゼントしたり、壊れてしまったり。よろこびやかなしみ、人間関係も、おもちゃを通じて見つめられそうですね。
毎回、最後にワンポイントアドバイスも載せていますので、ぜひ入賞作品とあわせてお読みください。
それでは、最優秀賞の発表です!
夢の中ではレゴを取り合う
結婚する際、女性側が姓を変えるケースが多いのが現状です。私自身もそうですが、結婚などによって親、私、妹、みな苗字が違います。自分は自分であることに変わりないのに、なんだか奇妙な気持ちです。
「別々の苗字となりし妹」というのは、こうした結婚での改姓だろうと思われます(もちろん、両親の離婚や養子などの可能性もありますが、情報の限られる短歌では、ある程度は読み手側で判断しなければなりません)。
お互いに大人になり、自立している状況でしょう。おそらくもう一緒に住んでいませんし、ましてや大人なのでLEGOを取り合うことはありません。
それでも「夢の中ではレゴを取り合う」のです。共に育った記憶や、きょうだいという関係性は、消えることなく心の奥底に生きつづけます。微妙なさみしさや違和感が、淡々とした表現からにじみでています。
続いて、優秀賞2首です。
LEGOのおうちは夜を越さない
応募作のなかにはLEGOとシルバニアを詠んだ作品が目立って多くありました。さすが、幅広い世代に愛されるロングセラーです。
さて、こちらの作品。寝る前にはLEGOはバラバラに戻してしまっておきましょう、というルールなのでしょう。それを「また作るために壊しておくきまり」と表現しているのが秀逸です。合理的なのは理解できますが、むなしさも感じます。
せっかく建てた「おうち」も夜を越すことはないのです。「おうち」というワードチョイスに、自分で自分を傷つけるような暴力性も微かに感じられます。単純にLEGOの話をしているだけでなく、なにかのメタファーのようにも読めそうです。
何も言わないくますけを抱く
「くますけ」という固有名詞が出てきました。「くま」と入っていることと「抱く」という動詞から、熊のぬいぐるみであることが想像できます。おそらく、くますけを抱きながら眠るのでしょう。
くますけは(リビングや玄関ではなく)いつも枕元にいるような感じがします。
寝室という極めてプライベートな場所に訪れる男性たちを、くますけはこれまで黙って見てきました。
ぬいぐるみなので喋らないのは当然ですが、なんやらかんやら、涙にも修羅場にも立ち会いながら「何も言わない」で抱かれるくますけは、誰よりも優しい気がします。
それでは、佳作のご紹介です!
最後に、こちらの作品を読んでみましょう。
結句の「永久に老いたい」は、「えいきゅうに」ではなく、「とわに」と読むと7音になります。永遠の命や若さ、美貌を求める物語は多く存在しますが、「永久(とわ)に老いたい」という欲求には凄みを感じました。
孫が「ゲームよりばぁばがいい」と自分を選んでくれるのは、自分がお婆ちゃんだから。若返りたいわけではなく、永遠にこの子のお婆ちゃんでいたい、という願望は独特かつリアルです。
今回、少し気になるのは「駆けてく姿」という部分。「駆けてく」は「駆けていく」が正しい表記です。しかし「駆けていく姿」とすると8音になり、57577の短歌の定型からは外れてしまいますね。そこで「駆けてく」としたのかな、と感じました。
定型を守らんとするために、言葉のチョイスを甘く・ゆるくするのは、あまり良いことではありません。あくまで定型は作者が生かすもので、窮屈に殺されるものではないはずです。
「永久に老いたい」の前のスペース以外、すべてスペースをなくして(分かち書きをやめて)「駆けてく姿」を「駆けていく姿」にしてみました。
声に出して読んでみるとわかりますが「かけていくすがた」と8音を詰め込んだことで自然と早口になり、いかにも走っているような雰囲気がでます。
また「駆けていく姿」のあとにだけスペースが空くことで、音読する際にも間が生まれます。 かけていくすがたの8音で一気にスピードを出し、ふと気づいたような間、そして「永久に老いたい」という究極的な結論。無理に「駆けてく」として定型におさめるよりは、躍動感が出た気がします。
いかがでしょうか? 「定型」に対して、定型から逸脱した短歌を「破調」と言います。 破調は必ずしも悪いものではありません。破調をしてもいいんです。けれども、破調を成功させるためには、しっかり定型を意識するのが重要だろうと個人的には考えています。 定型を意識しつつ、破る選択肢も頭に入れて推敲してみましょう!
作品のご投稿ありがとうございました。引き続き、テーマ詠「家電」を募集しています。
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。
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応募規定 | 短歌(57577)を募集します。 テーマは「家電」。 応募点数制限なし。 |
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賞 | 最優秀賞1点=Amazonギフト券3000円分 優秀賞2点=Amazonギフト券1000円分 佳作数点=ウェブ掲載 ※該当作品なしの場合があります。 ※作品を記事内で推敲する場合があります。 ※発送は発表月末を予定しております。 |
締切 | 2023年8月31日 |
発表 | 2023年10月1日 |