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あなたとよむ短歌 vol.40 テーマ詠「地名」結果発表 ~たった1文字のこと~

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あなたとよむ短歌
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結果発表

テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
■作品
プリキュアになるならわたしはキュアおでん熱いハートのキュアおでんだよ
(『母の愛、僕のラブ』より)
vol.40
テーマ詠「地名」結果発表
~たった1文字のこと~

短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「地名」の結果発表です。
地名には人それぞれの思い出があるはず。だからこそオリジナリティのある短歌が生まれそうですね。
一方で、その地名を知らない人にも「よさ」が伝わるようにしたいものです。
毎回、最後にワンポイントアドバイスも載せていますので、ぜひ入賞作品とあわせてお読みください。

それでは、最優秀賞の発表です!


じいちゃんが生まれ育った町の名は
「イオンのところ」になってしまった
(えぺさん)

「地名」というテーマで集まった作品のなかで異彩を放っていた一首。そして、地名そのものを真正面からとらえた一首だと感じました。

「じいちゃんが生まれ育った町の名」は消えたわけでなないのかもしれません。けれども、イオンができてから「イオンのところ」と呼ばれるようになってしまった。たとえば地元企業に就職して「出身はどこなの?」と聞かれ、〇〇町と答えると、「ああ、イオンのところね」と言われるように。
人が呼んでこその「地名」です。住んでいる人々も、じいちゃんも、建物も、地名も、ずっと変わらないようで確実に変化する、いつかは失われる、そんな切なさが伝わってきます。



続いて、優秀賞2首です。

東京はお隣と距離が近いから
寂しくないと母には話す
(泰源さん)

この一首の肝は「母には」の「には」ではないでしょうか。「母に話す」ではなく「母には話す」。この一字で意味が大きく異なります。

「東京は人が多いからさ、マンションの壁も薄くて。どこにいっても人がいるし、気配もするし、全然寂しくないよ」などと母【には】話す。ということは、裏を返せば、母以外の人……たとえば恋人やペット、SNSには「東京は寂しい」という気持ちを吐露しているのかもしれません。

母には心配をかけたくないという心情が「には」に表れています。音数が限られている短歌では、こうした細部へのこだわりが大きなパンチになるのが面白いところです。


難読の地名ばかりの古都に住む
 烏丸 御陵 天使突抜(からすま・みささぎ・てんしつきぬけ)
(藻下いのりさん)

難読地名について詠んだ作品は多く寄せられました。地名を複数組み合わせた歌もさまざまにありました。そのなかでも目立っていたのがこちらの一首です。京都は難読の地名がたくさんありますね。さすが古都。天使突抜という地名は初めて知りました。

この一首は声に出して読むと非常にリズムがよく、心地いい構成になっています。まるで、京都を散策しているような楽しさです。地名の並べ方も、たとえば逆から「てんしつきぬけ・からすま・みささぎ」とすることもできそうですし、最初の2つを入れ替えて「みささぎ・からすま・てんしつきぬけ」ともできそうですが、元の語順がもっともしっくりきます。ぜひ音読してみてください。



それでは、佳作のご紹介です!



海をまだ見たことのない少年が 「海渡(うと)」という地に着陸をする
(藤井ももさん)

地図出して旅先なぞり再訪問白髪頭に思いで浸る
(てつままさん)

ラジオから流れるジャズがあの人と出会った街の名を香らせる
(汐海岬さん)

古都奈良の文化遺産を横切るは自転車を漕ぐ少年の群
(おみそさん)

宇治川はたまに鴨川演じてる京都で人が死ぬドラマにて
(芝々さん)





最後に、こちらの作品を読んでみましょう。


亡き父が 教えてくれた 読み方を 南京終(みなみきょうばて) 忘れられへん
(朱々凪さん)

奈良県にある南京終。こちらも難読地名ですね。亡くなった父との思い出を詠んだ一首です。父の死と、地名の中にある「終」という文字が響きあうように、二度と戻らない時間の流れを感じさせます。最後の「忘れられへん」という方言も、ふと出た独り言のような響です。

一旦、分かち書き(句の間の空白)を詰めてみましょう。公募に短歌を出す場合には、分かち書きにする必要はありません。

亡き父が教えてくれた読み方を南京終忘れられへん

「亡き父が教えてくれた読み方を」は倒置法です。意味としては「亡き父が読み方を教えてくれた」ということでしょう。分かち書きをやめると切れ目がわからなくなり、「読み方を南京終」?と、倒置法だということが伝わりづらくなります。
この解決策としては、まず、意味に従って適切にスペース、あるいは「」を入れる方法があります。


亡き父が教えてくれた読み方を 南京終 忘れられへん
亡き父が教えてくれた読み方を「南京終」忘れられへん

もしくは、助詞を1文字変えることで解決しそうです。


亡き父が教えてくれた読み方の南京終忘れられへん

「の」にすると「みなみきょうばて」という読み方だけでなく、南京終での思い出そのものが忘れられないという意味になりそうです。
うーん、「忘れられへん」の前に空白があったほうが、独り言っぽさが高まりそうですね。


亡き父が教えてくれた読み方の南京終 忘れられへん

いかがでしょうか? 読みやすさや、助詞1文字の違い、空白1つの違いをぜひ楽しみましょう!


作品のご投稿ありがとうございました。引き続き、テーマ詠「記念日」を募集しています。
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。 どこかに応募した作品も、未発表も作品もぜひご投稿ください。(著作権がご自身にある作品に限ります)

 
応募要項
応募規定 短歌(57577)を募集します。
テーマは「記念日」
応募点数制限なし。
応募方法 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌記念日」をつけてツイートしてください。
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最優秀賞1点=Amazonギフト券3000円分
優秀賞2点=Amazonギフト券1000円分
佳作数点=ウェブ掲載

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※作品を記事内で推敲する場合があります。
※発送は発表月末を予定しております。
締切 2023年7月31日
発表 2023年9月1日