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あなたとよむ短歌 vol.44 テーマ詠「くだもの」結果発表 ~景をイメージさせるには~

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川柳・俳句・短歌・詩
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あなたとよむ短歌
結果発表

テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
■作品
プリキュアになるならわたしはキュアおでん熱いハートのキュアおでんだよ
(『母の愛、僕のラブ』より)
vol.44
テーマ詠「くだもの」結果発表
~景をイメージさせるには~

短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「くだもの」の結果発表です。
季節が現れやすい題材ですね。色や形もさまざまですが、食感や香りも想起させることができるので、五感に響く短歌がつくれそうです。
短歌は短いぶん、つい視覚情報だけで完結してしまいがちですが、視覚以外の感覚も積極的に取り入れると作品の幅が広がるかもしれません。
毎回、最後にワンポイントアドバイスも載せていますので、ぜひ入賞作品とあわせてお読みください。

それでは、最優秀賞の発表です!


桃缶のぬるい音色は高熱と
氷枕のまんなかの音
(矢入えいどさん)

熱を出して寝込んでいる様子です。子どものころの思い出を詠んだ歌かもしれません。きっとお母さんやお父さん、祖父母、兄姉など、大人が看病してくれているのでしょう。ごろごろとした氷の音、ひんやりとした枕、熱をもった体、布団。そんな様子が浮かびます。
そこに聞こえてきた「桃缶のぬるい音色」高い低い、大きい小さいなどと表現する「音」について「ぬるい」という修飾語を持ってきたことがなんとも見事です。

熱で食欲がない子に、買い置きしていた桃缶を出してくる。常温で、ごろんとしていて、甘いシロップがたっぷり詰まった桃缶。発熱のさなかのちょっとした安らぎ、うれしさが伝わってきます。



続いて、優秀賞2首です。

風呂上がり裸で林檎食んでみる
足に絡まり蛇めくタオル
(宇井モナミさん)

この姿を想像すると、滑稽なのに妙に絵画的です。 風呂上がりの裸の自分、そのまま林檎を食べていて、足元にはタオルがまるまったまま。裸で生きていたアダムとイブに、知恵の実である林檎を食べさせた蛇の構図です。
この短歌の主人公(主体)がなぜ裸のまま林檎を食べたのかは謎ですが、なんだかちょっと悪いことをしているような面白さがあります。林檎、すごくおいしそうですね。

受取人もういないのだと思い出す
それでも紅く熟むさくらんぼ
(もりりさん)

毎年さくらんぼを贈っていた相手がいたのでしょう。もしかしたら、亡くなってしまったのかもしれません。受取人のことなど関係なしに、さくらんぼは今年も紅く美しく熟していきます。
音読するとよくわかるのですが、下句が「それでも」と始まるところで、ぐっとアクセルを踏み込んだような勢いがついています。受取人がもういないという悲しさが、さくらんぼの美しさと対比されて際立つ一首です。


それでは、佳作のご紹介です!



葡萄棚見上げて稚児は手を伸ばす言葉は無くも想ひは見えて
(安田蝸牛さん)

食べられぬとわかっていても妹は死にゆく母へと林檎を剥けり
(海神瑠珂さん)

もう無理だ助けてくれよギリギリの力で搾るグレープフルーツ
(もめんさん)

職場から五分の更地売っているジュースバーでも建てばいいのに
(佐藤橙さん)

やわらかいというよりはあやふやなはじめて食べたなまの無花果
(伽戸ミナさん)





最後に、今回はこちらの2作品をご紹介します。


ガラス皿西瓜をのせてこの夏ももう終わりねとあの人が言う
(ふでさん)

ため息で空気黒ずむリビングを瞬時に換気 旬のくだもの
(汐海岬さん)

1首め、ふでさんの作品は「ガラス皿」の存在が効果的です。ガラスの皿は夏らしく清涼感がある反面、ずっしり重いもの。それに西瓜をのせたら相当重いでしょうね。そんな重みが、夏の終わりにさまざまな含みを持たせているようです。


2首め、汐海さんの作品。なんといっても「ため息で空気黒ずむ」という描写にインパクトがあります。実際に息で空気が黒ずむことはありませんが、重苦しく嫌な雰囲気がひりひりと伝わってきます。


両方の短歌とも、共通して「ここを推敲したらどうだろう」と提案してみたい点があります。どこだかおわかりでしょうか?


1首めの「あの人」、2首めの「旬のくだもの」です。いずれの言葉も、読んだ人には具体的な姿形を想起させることができません。
試しに、具体的な名詞をいれて、風景(短歌の評ではよく「景」といいます)を思い浮かべられるようにしてみましょう。



1)ガラス皿西瓜をのせてこの夏ももう終わりねと母さんが言う

2)ガラス皿西瓜をのせてこの夏ももう終わりねと恋人が言う


3)ため息で空気黒ずむリビングを瞬時に換気するマスカット

4)ため息で空気黒ずむリビングを瞬時に換気する富有柿

1と2を比較してみましょう。「あの人」を「母さん」にすると、実家に昔からあるカラス皿、変わらない西瓜の切り方、老いていく母、という郷愁を感じます。一方、「恋人」にすると、すてきなガラス皿で丁寧な暮らしをする恋人が思い浮かび、その先になんとなく「別れ」の予感がしてきます。

3と4はくだものの種類が違うだけです。あかるい緑のマスカットと、しっとり艶やかなオレンジ色の富有柿では、だいぶ印象が変わるのではないでしょうか。


いかがでしょうか。「あえて隠したい」「イメージさせたくない」という意図があるならば、具体的な名称を出さない手法もおおいにOKです。けれども、特にそのような意図がないのであれば、しっかりと描きたいものを描くようにしたほうが魅力的な歌になります。


作品のご投稿ありがとうございました。引き続き、テーマ詠「あいさつ」を募集しています。
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。 どこかに応募した作品も、未発表も作品もぜひご投稿ください。(著作権がご自身にある作品に限ります)

 
応募要項
応募規定 短歌(57577)を募集します。
テーマは「あいさつ」
応募点数制限なし。
また、今回から応募フォームに柴田さんへの質問欄を設けています。短歌のことや、作品づくりについて選者:柴田葵さんに質問があればご自由にお書きください。匿名で質問内容とその回答を記事に掲載させていただく場合があります。必ずしも回答があるわけではございませんので、ご了承ください。
応募方法 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌あいさつ」をつけてツイートしてください。
※応募者には、弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。
最優秀賞1点=Amazonギフト券3000円分
優秀賞2点=Amazonギフト券1000円分
佳作数点=ウェブ掲載

※該当作品なしの場合があります。
※作品を記事内で推敲する場合があります。
※発送は発表月末を予定しております。
締切 2023年11月30日
発表 2023年1月5日