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あなたとよむ短歌 vol.43 テーマ詠「家電」結果発表 ~「字あまり」どこまでOK?~

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川柳・俳句・短歌・詩
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あなたとよむ短歌
結果発表

テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
■作品
プリキュアになるならわたしはキュアおでん熱いハートのキュアおでんだよ
(『母の愛、僕のラブ』より)
vol.43
テーマ詠「家電」結果発表
~「字あまり」どこまでOK?~

短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「家電」の結果発表です。
洗濯機や冷蔵庫、電子レンジ、クーラーなど、さまざまな家電を詠んだ作品がよせられました。家電に頼らずに生きている人はいないでしょうし、日々の様子を詠むのにぴったりな題材と思います。
ただ、家電そのものは無機物で無骨な印象があるせいか、短歌にするのに苦労していた方も多かった印象でした。でも、苦手な題材にもぜひ挑戦してみてくださいね。これまでの自分にはなかった、めずらしい作品が生まれるかもしれません。

毎回、最後にワンポイントアドバイスも載せていますので、ぜひ入賞作品とあわせてお読みください。

それでは、最優秀賞の発表です!


右奥のからあげだけがまた冷たい
抱きしめるように食べてあげたい
(はっちさん)

これは電子レンジを詠んだものでしょう。電子レンジという言葉を出さずとも、それと分かる表現である点も面白い一首です。
電子レンジは古くなってくると温め方にムラが出てきますよね。冷凍か、それともスーパーや自宅の冷蔵庫で冷えていたものかわかりませんが、複数の唐揚げを並べてチンしたときに、右奥の1つだけが温まりきらなかった。食べる前に気づけば追加で加熱すればいい気がします。でもこの一首では、どうやら冷たいまま食べています。食べた瞬間に口のなかで冷たさに気づいたのかもしれません。

「食べる」という行為は自分自身が生きるために必要なものですが、食べられる側にとっては暴力的な側面もあります。温まりきらず、仲間外れのように冷たい唐揚げを「抱きしめるように~あげたい」と優しく受け入れるそぶりをしつつ、歯や舌や口まで想像させるような「食べてあげたい」という言葉づかい。「赤ずきんちゃん」の狼のようです。



続いて、優秀賞2首です。

10年後買い替えるときまたきみと
選ぶ気がする家電売り場で
(真朱さん)

なんの家電かわかりませんが、10年くらいで買い替えそうなものと言ったら、冷蔵庫やクーラーでしょうか。「きみ」と一緒に新生活を始めるために新しい家電を買ったのでしょう。この先どんなことがあるかわからない2人ですが、 でも10年後「壊れちゃったね」「もう10年だもんね」と言いながら、また2人で買い替えにくる気がするな、という予感は、 未来から漏れてきた爽やかな光のようです。

僕たちがきれいにすべきものはなに
空気清浄機は赤ランプ
(高橋泰源さん)

空気清浄機が赤ランプなら、空気清浄機のフィルターかなにかをきれいにする必要があるのかもしれませんね。文字通りに読むならそうですが、おそらくこの一首は別のことを暗示しています。 「僕たち」は一緒に暮らしているのかもしれません。その「僕たち」の空気は最近、重くよどんでいて「赤ランプ」のようです。「僕たち」が「きれいにすべきもの」は、ふたりの関係性なのかも。清算して、新しい空気を吸わないといけない時期にきているのかもしれません。


それでは、佳作のご紹介です!



洗濯機どかした裏にブラジャーが昔は勝負していた私
(いなむさん)

不動産相続書類入れられてふーんと唸る冷凍庫です
(高瀬昌久さん)

クーラーが身体を冷やしてくれたけど胸の中にはまだ夏がいる
(めいさん)

エアコンの操作分からぬ母のためここだけ押せと印打つ夏
(彩太さん)

一気に壊れて家電なき生活炊飯器だけ買い直そうか
(遠藤玲奈さん)





最後に、こちらの作品を読んでみましょう。


こぽこぽと深夜を潜る音がして私と冷蔵庫だけが息づく
(宇井モナミさん)

「深夜を潜る音」という表現がすごくいいですね。。夜はその暗さや静けさからしばしば海にたとえられますが、夜の海でも生き物たちは生きているわけで、泡がのぼったり、海底の石が転がったりもするでしょう。冷蔵庫のコンプレッサー音や、中のものの微振動に囲まれている一人きりの深夜は、まるで深海のようです。


少し気になったのは四句。「私と冷蔵庫/だけが息づく」となり、結句は7音ですが、四句は9音になっています。つまり句単位で見ると2音ほど字あまりです(あるいは、調子を破るので「破調」ともいいます)。


以前から書いている通り短歌の定型は57577ですが「これを守らないと短歌ではない」ということではありません。ただし、定型のチカラはあなどれません。 定型リズムに乗ると短い「歌」として成立しやすくなります。つまり愛唱性が増します。

その大きなメリットを手放すからには、定型を外すなら外すなりの意図があったほうがよさそうです。静かな深夜を表現するのであれば、大胆な破調をするより定型にそった方がいいかもしれません。



こぽこぽと深夜を潜る音がして私と冷蔵庫だけが生きる

たとえば上記のようにするといかがでしょうか? 「私と冷蔵/庫だけが生きる」の部分は「句またがり(句をまたいで単語などを続けること)」になっています。
「私と冷蔵」は8音ですが、「ぞう」は実際に音読すると「ぞー」となり、実質1.5音分程度の長さしかありません。そのため、ほぼ定型として読める構造になっています。
元の作品と修正案をそれぞれ音読してみてください。修正案が正解というわけでは決してありませんが、歌として「歌いやすく」なっているかと思います。 作品は応募前に何度でも音読してみましょう!


作品のご投稿ありがとうございました。引き続き、テーマ詠「健康」を募集しています。
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。 どこかに応募した作品も、未発表も作品もぜひご投稿ください。(著作権がご自身にある作品に限ります)

 
応募要項
応募規定 短歌(57577)を募集します。
テーマは「健康」
応募点数制限なし。
応募方法 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌健康」をつけてツイートしてください。
※応募者には、弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。
最優秀賞1点=Amazonギフト券3000円分
優秀賞2点=Amazonギフト券1000円分
佳作数点=ウェブ掲載

※該当作品なしの場合があります。
※作品を記事内で推敲する場合があります。
※発送は発表月末を予定しております。
締切 2023年10月30日
発表 2023年12月1日