笑いを知れば、もっと小説は上手くなる⑤:なんでもない話を面白くせよ!


ここでは、なんということもない話を面白く変えてしまうテクニックを紹介します。
ごく普通の日常を笑い話にする、面白くなかった話をリメイクするときに使えます。
持ち上げておいて一気に落とす
まったく同じ体験をしても、どう書くか、どのような組み立てにするかによって、話の面白さは全然違ってきます。
その実例として、ひとつ皆さんに練習問題をやってもらうとしましょう。
当博物館の訪問者数はあまりにも少ない。世界的にも稀有な歴史的遺構や遺物を数多く展示しているというのに、もったいないことです。
これでは面白くない。この話を面白くしてください。
当博物館は世界的にも大変貴重な、稀有とも言える歴史的遺構や遺物の宝庫である。なかでももっとも珍しいのは、訪問者である。
一種の自虐ネタですが、ニヤリとなりますね。では、もう一問。
劇評論家が演出家に嫌味を言う。「昨晩は君が演出した舞台を見たけれど、退屈で居眠りしちまったよ。おかげで夜は一睡もできなかったよ」
これでは単なる愚痴ですね。こちらも面白くしてください。
劇評論家が演出家に言った。
「昨晩は君の演出した舞台を見たせいで、夜は一睡もできなかったよ」
「そんなに興奮したかい」
「いやあ、単に劇場でぐっすり眠れたおかげなんだけどね」
落とすためには、その前にいったん持ち上げる。それがコツ。
次のなんでもない話を面白く作りかえて!
昨日、シャックリを直してやったんだ、一発で。八十を過ぎた女性なんだけどね、「オメデタですね」って言ってやったら、泡を食って。たちまちシャックリが止まっちゃったよ。ハハハハ。
主人公は、産婦人科医の亀田先生。彼のもとにシャックリが止まらないという人が来て、治してあげたわけです。
この自慢話を読んで、面白く書きかえてください。字数は600字程度とします。解答例は下記をご覧ください。
【模範解答】
今年八十一歳になる院長夫人が、せっぱ詰まった顔で夫の病院に飛び込んできた。
夫である院長は病院内の庭にいたのだが、夫人の様子が気になったので診察室のほうに向かった。
と、診察室のドアが開き、夫人が飛び出してきた。
「あなた、あの亀田って先生、どうしようもない藪医者よ。とっととクビにしてちょうだい」
「いったい藪から棒になんだっていうんだ。亀田くんは確かに性格的には問題があるが、産婦人科医としての腕は確かだよ」
「冗談じゃない、あの人、ろくに診察もしないで、私が妊娠しているって言ったのよ」
「なんだって? 君はもう八十一だし、そもそもオレのアレは……いや、それはいい。ともかく、ちょっと注意してきてやろう」
院長は早速、亀田医師のいる診察室のドアを開けた。
「亀田くん、いったいどうしたことだね。ろくに検査もせず、ひ孫もいる家内に妊娠しているって。そんな診断をしたと世間に知れたら病院の信用問題だよ」
ふだんは穏やかな院長が口角泡を飛ばしているというのに、亀田医師は涼しい顔、いや得意げな顔をしている。
「治療の結果は上々です。なぜって、奥様は「誰でもいいから、早く私のシャックリを止めて」と言って駆け込んできたんです。止まりましたよね、シャックリ」
隣で夫人が目をむいた。
※本記事は「公募ガイド2017年6月号」の記事を再掲載したものです。