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第8回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 ジレンマ にわ冬莉

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第8回結果発表
課 題

悩み

※応募数323編
選外佳作
 ジレンマ にわ冬莉

 生きていれば、選択の繰り返しであり、そしてそこには、悩みがつきものである。
 初めて真剣に悩んだのは中学生の時だったろうか。俺は、運動部に入るか文化部に入るかで、迷っていた。
 小学校では野球をやっていたのだ。だが、俺の進んだ中学の野球部はクラブチームあがりが集まるガチなやつ。俺は仲間と楽しくやる野球が好きだったから、あんまりガチなやつは御免被りたかった。
 その頃俺が仲良くしていた友人が『美術部に入る』などと抜かしていたこともあり、このままゆる~く文化部で過ごすのもいいんじゃないかって気になっていたのだ。
 結局俺は美術部へ。親には驚かれたが、部活は緩かったし、女子とは仲良くなれたし、何気に絵が上手くなったりもして、それはそれでよかった気がする。
 次に迷ったのは高校受験。進路だ。
 俺には当時、好きな子がいて、付き合ってはいなかったけれど、両想いであることは明らかだった。このまま同じ高校に進めれば、高校生活スタートと同時に付き合うことになるだろうな、なんてことを考えていた。
 が、彼女はとんでもなく頭が良かったのだ。
 俺の成績は中の上。彼女は常に、学年トップテンに入るくらいの秀才だった。そんな彼女と同じ高校に? 誰がどう見ても、無理な話だ。
 しかし、人間という生き物はよこしまな動機である方が力を発揮するものだ(と思う)。俺は中三の夏から通い始めた塾でメキメキと力を付け、ギリギリ合格圏内に入るほどの成績を取るようになっていた。
 とはいえ、元々秀才だった彼女と、付け焼刃の俺。親や先生は、高望みはやめてもう一つ下を受けろと言ってくる。
 迷った俺は……自分の行きたい道を進んだ。彼女と同じ高校を受けたのだ。そして見事合格を勝ち取った!
 それなのに……。
 受かったのは俺だけだった。彼女は、常に合格圏内にいたはずなのに受からなかった。
 結果的に二人は離れ離れ。付き合うこともないまま、疎遠になってしまった。
 高校では苦労の連続だ。なにしろ俺は付け焼刃の成績で入っている。ずっと頭のよかったやつとは出来が違う。入学したはいいが、勉強についていくのがやっとの状態で、とても『高校生活を楽しむ』なんてことにはならない。しかもこんなに勉強しても、落ちこぼれなのだから救いがない。俺はすっかり学校が嫌いな根暗男になっていた。
 それから迎える大学受験。
 落ちこぼれているとはいえ進学校にいた俺は、そこそこの大学へと入ることが出来た。
 気を取り直して学校生活を楽しむときだ!
 サークルに入り、バイトをして、彼女も作った。大学生の恋愛なんてのは、ファッションと同じだ。飽きたらすぐに捨てられる。いちいち気にする必要もないほど、フッたり、フラレたりを繰り返していった。
 そうこうしているうち、今度は就職活動が始まり、給料はいいが、リスクの高い会社か、給料は低いが、将来性のある会社を選ぶこととなる。だが、そんなもん、簡単だろ? 俺は選んだ。世の中、金が大事だ。
 俺は派手に稼いだ。稼いで、そして使った。これが『金を回す』ってことだ、などと心の中でほくそ笑む。同期と比べても俺は華やかな生活を送っていたはずだ。
 そして結婚を考えるようになる。
 付き合っていた彼女は仕事先の専務の娘。いわゆるお嬢様であり、俺の将来は約束されたも同然だった。
 しかし、ここにきて運命は俺を試そうとしているのか、事態は急変する。同窓会の知らせが届いたのだ。
 中学時代の懐かしい面々が集まる。両想いであると確信していながらも、付き合うことなく別れてしまった彼女。再会は、俺の心をざわつかせるに充分なほどの魅力があり、本当に迷った。どうするのが、正しい道なのか。どっちを、選ぶべきなのか。
 俺はいつも正しい道を選んできたつもりだ。
 だから今も最大限頭を働かせ、考える。同窓会の後、ホテルで結ばれた俺と彼女の元に突如現れた婚約者。大乱闘の結果、突き飛ばした先にあるテーブルに頭をぶつけて動かなくなってしまった婚約者。怯え、泣いている彼女。
 俺は窓を開けると、ベランダから彼女を投げ落とすことにした。俺をめぐって女二人で争った結果、彼女は婚約者を事故死させ、それを悔いて飛び降りるのだ。
 しかし、そうなると俺は誰と結婚すればいいのだろう?
 生きることはなかなかに難しく、悩ましいものである。
(了)