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第9回W選考委員版「小説でもどうぞ」佳作 マッチングフレンド 長崎かすてら

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第9回結果発表
課 題

友だち

※応募数343編
 マッチングフレンド 
長崎かすてら

 友子は友だちがいない。
「友だちがたくさんできますように」というありきたりかつ実現可能な範疇はんちゅうの願いのもと付けられた名前だが、今のところ、名前負けを喫している。
 友だちがいなくても、今まで特に大きな支障はなかったが、官僚になって五年、上司との雑談や仕事関連の会食で交友関係を聞かれることがままある。その際に「友だちはいませんが」と言うたびにぎょっとされるので、友だちがいた方が社会的な信頼も厚くなるのでは、と薄々感じ始めていた。
 同じく恋愛も特段必要性を感じていないが、各種控除など社会制度の恩恵に預かるためにいずれお見合いで結婚はする予定だ。
「人と話す時、話題に出して恥ずかしくない友だちが見つかればいいんですけど」
 打算に満ち溢れた私見及び悩みを、職場の更衣室で、ロッカーが隣の明子さんに話した。
「さすが友子ちゃん。あけすけによく話してくれたね」
 やや驚いた表情で明子さんはそう言ったが、あっ、と小さく声を漏らしてバッグからスマートフォンを取り出す。
「マッチングアプリの友だちバージョンがあるんだよ」
 それはいい、と友子も興味を示す。希望条件等を提示し、お互いの需要と供給が合致したら面談するシステムは非常に合理的と感じたのである。
 その日の夜、明子さんに教えてもらったアプリ『ズットモ』を早速試してみる。『ズットモ』は、希望条件を入力すると担当のコンシェルジュがチャットで候補者を教えてくれる仕組みだ。
 希望の条件が同年代同性以外に思いつかなかったので、その旨をコンシェルジュに送信すると、すぐに回答が来た。
「では、まずともちん★さんと似た属性の方と会ってみるのはいかがでしょうか」
 紹介されたのは、同年代の女性で、友だちのいない国家公務員だった。話が合うかもしれないと期待して待ち合わせのカフェに行くと、友子と似たような雰囲気の無表情の女性が待っていて、簡単な自己紹介の後は、お互い注文した飲み物をすすり続けた。
「……」
 十五分ほど経過した頃、これ以上無為な時間を過ごすのは御免だと思い、解散を提案し散会となった。
 自分と似た属性は避けたい、と伝えると、コンシェルジュは「では、同い年ですが、フリーターで陽気な性格の男性をご紹介します」と答えた。
 待ち合わせのカフェに現れたのは、長めの髪をツンツンにセットした男性だった。いわゆるギャル男ってやつかしら、と思いながら眺める。
 男性はずっと楽しそうに話し続けてくれるので、話題を振る負担がない点は楽だった。
「さっきも同じ話をしていましたね」とか「うる覚えではなく、うろ覚えが正しいです」と適宜相槌を打ってやると、男性は「友子ちゃんっておもしろいね」と手を叩きながら笑う。
 おそらく盛り上がるとはこういった状況を指すのだろう、友だち候補に加えられるかもしれない、と思った矢先に男性が友子の両手を握り、「この後どう?」と微笑んできたので、警察に通報してその場を辞した。
「性的な関係を狙っている人は論外です」
 友子がことの顛末を報告すると、コンシェルジュは懇切丁寧に謝罪の言葉を述べた。
「同年代にこだわらなくてもいいかもしれません。話し上手な人は気楽だったようなのでその条件で探します」
 紹介されたのは、六十代の総菜屋を営んでいる女性で割烹着で現れた。会うなり、出身や両親のことを根ほり葉ほり聞かれた。
「あなた、ちょっとはお料理しないと。行き遅れちゃうわよ」と言ってカラカラと笑う。
「明るくても、無礼で時代錯誤な人は困ります」
 その後も、コンシェルジュはめげずに次々と紹介してくれたが、友子のお眼鏡に適う人物は現れず、万策尽きたのか、「これ以上、ともちん★さんにご紹介できる人はいません」と音を上げた。
「それで最後に送られてきたのがこちらです」
 スマートフォンの画面を見せると、明子さんが「何これ?」とぽかんとしている。
「友だちの代わりに、すごい、さすが等の相槌を一定の間隔で繰り返す音声データです」
 明子さんは、まぁ……と絶句していたが、ふと我に返りこう言った。
「ところで、私って十分友子ちゃんの友達だよね?」
 友子は正に青天の霹靂へきれきといった風に、スマートフォンをぼとっと落とした。
(了)