第9回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 友だちサプリ 毒島愛倫
第9回結果発表
課 題
友だち
※応募数343編
選外佳作
友だちサプリ 毒島愛倫
友だちサプリ 毒島愛倫
俺はコミュ障だから、友だちが少ない。友だちが少ないのは、生まれ持った資質だと諦めている。でも、本当はたくさん友だちが欲しいんだ――。
昼飯を食べに学内の食堂へ行くと、唯一の友だち、シュンがカレーを食べていた。
シュンは俺を見つけると、手招きした。
「よお、カズマ。どうした、浮かない顔して」
シュンは心配している素振りを見せつつも、カレーにがっつく。
「実は俺、友だちが欲しいのになかなかできなくて――」
俺が話していると、シュンの友だちが数人やってきた。
「おいシュン、この日、空いてるか?」
「シュン、このあとカラオケとかどう?」
みんなシュンと話したくて必死だ。
「はいよ、いま飯食ってるから、あとでな」
シュンがそう言うと、みんな「あとでな」と、帰っていった。
「どうしてシュンはたくさん友だちがいるんだ? コツとかあれば教えてくれよ」
「そう言われてもなあ……まあ、カズマにだけ特別に教えてやるよ。ほらよ」
シュンはスプーンを置くと、鞄の中からカプセルの入った瓶を取り出した。
「これは友だち(・・・)サプリ(・・・)と言って、友だちを作るのに必要な栄養が入っている。現代人は友だちを作りにくい体質の人が多くて、それを改善させるために開発されたサプリなのさ」
「待て待て、情報が追いつかない。友だちを作るのに必要な栄養なんてあるのか? そもそも体質の問題なのか?」
「まあ、信じ難いが、そういうことだ。とりあえず、このサプリを飲んで体質改善しちまえば、友だちなんて簡単に作れちゃうんだぜ。まあ騙されたと思って、飲んでみろよ。じゃ、俺はこのあと友だちと約束があるから」
シュンはカレーをかきこむと、サプリを一錠テーブルに置いて去っていった。
俺はサプリを持って、しばらく考えた。
――これ、大丈夫だよな? やばい成分でも入ってるんじゃないのか? でも、シュンにはたくさん友だちがいるしなあ……。
俺は意を決し、サプリを飲んだ――。
次の日、講義室に入った途端、俺の身体が
「みんなあ! おっはよお!」
普段の俺とは思えないハイテンションな挨拶をして、顔が赤くなった。
「なんだよ、お前。そんなキャラだったかあ?」
「てゆーか、朝からテンション高すぎ」
思いのほか、盛り上がった。恥ずかしい気持ちが一転、俺は有頂天になった。
「みなさーん、元気ですかあ! 朝から盛り上がっていきましょーう!」
俺は人が変わったかのように明るくなり、講義中に冗談を言ったり、自分から人の輪に入ったり、遊ぶ約束をしたりと、積極的に人と関われるようになった。
――俺が変わったのはサプリのおかげだ。シュンに会ったらもう少しわけてもらおう。
俺は食堂でシュンを見ると、声をかけた。
「シュン、昨日のサプリよかったぞ! もう少しだけわけてくれないか――ん?」
シュンの隣には、留学生らしき金髪の白人が座っていた。
「カズマ、紹介するよ。友だちのエディだ」
「ハジメマシテ、ヨロシクデス」
エディのカタコトの日本語に最初は戸惑ったが、すぐに打ち解けた。
「エディは友だちサプリで作った友だちなんだ。外国人の友だちがいると、映えるだろ?」
シュンは自信満々にそう言うと、テーブルにサプリをばら撒いた。
「これがエディと友だちになったときに飲んだ外国人の友だちサプリな。それとこれは親友サプリで、これがズッ友サプリで――」
シュンはテーブルにサプリを並べて、一通り説明した。
「欲しい! 俺に全部売ってくれ!」
俺は有り金を全部出して、シュンの持っているサプリを買えるだけ買った。
次の日、学内に入ると全学生に囲まれた。
「カズマは俺の友だちだ!」
「ミーノトモダチデース!」
「カズマは俺の親友だよな? な?」
ゾンビのように迫る学生。俺は怖くなり、全速力で逃げ出したが、誰もついてこない。振り返ると、殴り合いの喧嘩が始まっていた。
ぽん、と肩を叩かれた――シュンだ。
「言い忘れてたけど、複数の友だちサプリを併用すると、副作用が起こるんだぜ」
「それを早く言えよ! おい、おーい!」
俺から逃げるように、シュンはそそくさと去っていった。
数時間後、喧嘩は殺し合いに発展し、全員死んだ。
これで、俺の友だちはいなくなった。
(了)