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第9回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 僕の友だち 田辺ふみ

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第9回結果発表
課 題

友だち

※応募数343編
選外佳作
 僕の友だち 田辺ふみ

「じゃあ、おトモダチを作っておいてね」
 先生は急用ができたと教室を出ていった。
 僕とユージは机の上の粘土をこね始めた。
 子どもが少なくなって、自然に友だちを作るのは難しいから、学校で作るしかない。
 でも、ユージなんてつまらない。
「サボってはいけません」
 ユージはそんな注意ばかりしてくる。
 僕は力いっぱい粘土を叩いた。それから、立たせてある人形の骨組みに粘土で肉付け始めた。
 トモダチに魂を入れるのは先生だから、どんな性格になるのかはわからない。でも、今までできたトモダチはみんなユージと同じつまらない子だった。
 ユージも骨組みに粘土を付け始めた。
 トモダチのトモダチ。つまらないトモダチが増えていく。
「何してるの?」
 聞いたことのない声に飛び上がった。
 先生が開けっ放しで行ったドアから男の子がのぞきこんでいる。初めて見る子だ。
「トモダチを作ってる。入っておいでよ」
 そう言うと、男の子はおそるおそる入ってきた。
「僕、タクミって言うんだ。こっちは僕のトモダチのユージ」
「僕はマコト」
 マコトの髪の毛は茶色でくるくるしている。
「マコトって、女の子みたいだな」
「どこがだよ」
「髪の毛とか」
 僕はマコトの髪を引っ張った。僕を振り払おうとして、マコトはバランスを崩して倒れた。僕は髪をつかんだままだったので、一緒に倒れてしまう。
「何するんだよ」
 上からのしかかると、マコトがひっくり返す。しばらく、二人でゴロゴロと転がった。何だか楽しい。教室の隅まで、転がり、それから、逆向きに回って、反対の隅まで転がる。
「サボってはいけません」
 楽しかったのにユージの一声で台なしだ。でも、僕とマコトは笑って立ち上がった。ユージは無表情にこちらを見ている。
「動くな」
 そう言って、僕はユージの粘土を奪うと、マコトに渡した。
「一緒に作ろう」
「いいの?」
「もちろん。どっちが上手いか競争だ」
 マコトは真剣な顔でユージの作りかけの続きを始めた。僕は隣のマコトを見ながら、トモダチの顔をマコトのように直し始めた。モデルがいるせいか、なかなか、そっくりにできた気がする。
「マコト、見ろよ。お前、そっくりだろ」
 マコトが目を丸くした。それから、ニヤリと笑った。
「僕と同じことを考えていたんだ」
 マコトの作っているトモダチは僕にそっくりだった。僕より上手かもしれない。でも、嫌な気はしなかった。同じことを考えるなんて、僕たちは気が合うのだろう。こういうの、ドラマで見たことがある。喧嘩して、一緒に遊んで、そして、親友になるんだ。本物の友だち。マコトの方に手を差し出すと、すぐに握り返してきた。ユージは横で突っ立ったままだ。
「こちらです。いました!」
 先生の声と共に急に大勢の人が入ってきた。警察官や先生たちの中に一人、男の子が混じっている。すごくカッコいい服を着ている。
 もう一人、友だちができるかも。
 でも、その子は僕に見向きもせず、叫んだ。
「マコト、ごめん。出ていけって本気じゃなかったんだ。帰ってきて」
「いいの?」
 マコトが駆け寄って、男の子に抱きつく。
「よかったね」
 警官が声をかけ、二人を連れて帰っていく。仲良く手をつないだマコトは振り返りもしない。
「出ていけと言われたことがショックで家出するなんて、高性能なトモダチですね。まるで、本当の人間みたい」
「オーダーメイドですよ。高価で私たちじゃ、手が届きません」
 先生たちがしゃべっているのでわかった。
 マコトはあの子のトモダチだったんだ。僕の友だちじゃなかった。
 僕は自分の作っていたトモダチのところへ戻った。マコトが作った僕の顔。僕が作ったマコトの顔。さっきまではすごいと思っていたのに、安っぽい気がした。
 その横でユージはじっと立っている。僕のトモダチ。
「動いていいよ」
 声をかけても命令じゃないせいか、ユージは動かなかった。
(了)