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第47回「小説でもどうぞ」佳作  閻魔大王 苗育果来

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小説
小説でもどうぞ
第47回結果発表
課 題

逆転

※応募数347編
閻魔大王 
苗育果来

 三十歳で地獄に堕ちた。
 悪いことなら何でもやったから当然だ。
 間近で見る閻魔大王の顔は童顔だった。
 意外というより「どこかで見た顔だ」と思った。特徴的な口元の八重歯……。
 中学の同級生か! 「おい」と呼びかけようとして、慌てて口を閉じた。
 俺がいじめて校舎の屋上から飛び降りたヤツだ。
 うつむいて前を通り過ぎた。
 俺を恨んでるヤツが地獄の親方じゃ気が抜けないと思った。
 一日目は自由行動で、二日目から地獄の修行が始まる。
 俺はまず親父に会いに行った。赤鬼に居場所を尋ねて、久々に再会した親父は小学生だった。同じ親父だから面影はあるが、「親父?」と呼んだら「は?」と返された。
 死後の世界では自由に年齢を選べるらしい。そこで親父は少年時代を選択したのだ。おそらく人生で一番幸せな頃だったのだろう。
 ワルだった親父と違い、優しい母は天国に行ったようでいなかった。
 両親は交通事故で死んだ。夜中、飲酒運転の車に追突されたのだ。
 高校生同士のケンカで俺がナイフを出さなければ、親が警察に呼ばれることはなかったのに。今でも後悔している。
 とにかく今、気になるのは閻魔大王だ。もし、本当に中学の時のアイツだとしたら?
 俺に復讐するためにアイツは地獄のボスになったのか?
 だが、死んだ俺にどうやって復讐を? 頭の中が疑問でいっぱいだ。
 こういうときは会って話すのが早い。
「おい」
 俺は閻魔大王を見上げ、声をかけた。
「ん?」と閻魔大王はじっと俺の顔を見る。
「覚えてないのか? 中学のときの」
 閻魔大王がフッと笑った。
「忘れてたまるか」
 やっぱりアイツだった。
「俺に復讐するつもりか?」
 閻魔大王は黙った。俺を待っているのは針の山か、舌抜きか? 生身のままノコギリで切られるのはイヤだな。想像するだけでゾッとする。
 まさか、死後にこんな逆転劇に遭うなんて。
「キミが来るまでまだ何十年もかかると思ってたよ」
 閻魔大王は静かに俺を見下ろした。
「銀行に立て籠もったら撃たれちまって」
 説明の必要はないと思ったが、沈黙が怖かった。
「キミ、お父さんと会ったんだって?」
 俺の行動が筒抜けでドキッとした。
「会ったけど、小学生だったよ」
 俺が苦笑いすると、アイツは意外なことを口にした。
「キミのお父さん、ここに来てすぐに僕に気づいてくれたよ。ちょうどそこで、床に額をこすりつけて土下座してくれた」
 俺は足元を見て舌打ちした。親父、こんな汚れた床の上で土下座したのかよ。
「キミのお父さんがどうして小学生に戻ったか知ってる?」
 アイツの問いに、俺は胸騒ぎを感じた。その理由を聞いてしまうと、俺が壊れてしまう気がしたからだ。
「キミの同級生になって、小学生からやり直すんだって」
 俺は意味が分からず、閻魔大王を見た。
「中学で僕と出会う前に戻ってね、キミが間違った方向へ行かないように友達になってやるんだって」
 俺は絶句した。親父がそんな理由で小学生の姿に戻っていたなんて。
「この地獄で子供に戻るのは大変なことだよ。修行は大人でも耐えがたい辛さだからね」
 俺は膝の力が抜けて床に崩れ落ちた。
 頭上で大きな剣が引き抜かれる音がした。
 視線を上げると、閻魔大王が俺に剣先を向けていた。
「殺せ!」
 俺は叫んだが、すでに死んだ身だ。
 どんな痛みが全身を駆け抜けようとも、死ぬことはないのだろう。死んだと思っても、目が覚めればまたこの地獄にいるはずだ。
「すまない! 俺は取り返しのつかないことをした。キミに申し訳ないことをした」
 俺は初めて謝罪した。
 心の底から後悔の念が湧き上がり、俺は床に額を押し当てて土下座した。
 閻魔大王は「うおおッ」と唸り声を上げ、俺の頬の真横に剣を力いっぱい突き刺した。
 床が大きく割れ、地響きが起こり、俺はすっかり死んだと思った。
「僕は……キミのお父さんの勇気に心を動かされた」
 閻魔大王は泣いていた。
「だから、キミの謝罪を受け入れる」
 俺は親父の思いと、そしてアイツのゆるしに報いるために、自分も子供の頃に戻りたいと思った。もう一度、純真な心でやり直したいと。
 すると突然、俺の年齢が逆転し始めた。
 俺はみるみる若返り、二十代からさらに高校生のニキビ面に戻り、中学生の姿になり、そして……。
「じゃあな」
 閻魔大王としてずっと復讐の機会を待っていたアイツは、心底憎んだ俺に別れを告げた。
 いつの間にか、俺は意識を失っていた。

「おい、だいじょうぶか?」
 ほっぺをたたかれ、目がさめた。
 どんなワルイことをしたのか知らないけど、おれはジゴクにいた。
 同じ年くらいのぼうず頭のヤツが、心配しておれの顔をのぞきこんでいた。
「よかった! 死んでなかった」
 ソイツはうれしそうな顔をした。
 わらった顔がおれにソックリだと思った。
 おれはこのジゴクで生きていかなければならないらしい。
 大人たちにまじって生きていくには、もっとなかまが必要だと思った。
 道ばたでポツンとさびしそうにしているチビがいた。
「おい、子分にしてやろうか?」
 おれが声をかけると、ぼうず頭がひじでっぽうを食らわしてきた。
 さびしそうなヤツは八重歯がニョキっと出ていて、オニみたいだと思った。
「ぼくとどこかで会ったことある?」
 八重歯のヤツがそんなことを聞いてきた。
「ないよ」
 おれはそう答えたけど、なぜかなつかしいヤツに会ったような気がした。
「おれたち、すぐに友だちになれそうだな」
 おれがうれしくなってそう言うと、二人もうなずいた。
 おれたち三人は肩を組んで歩きだした。
(了)