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第47回「小説でもどうぞ」佳作  魔法のランプ 桜坂あきら

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小説
小説でもどうぞ
第47回結果発表
課 題

逆転

※応募数347編
魔法のランプ 
桜坂あきら

 夜も更けた。いよいよ明日は知事選の投票日だ。
 候補者五名で争う今回の知事選は、実質的に私と現職知事の一騎打ちであった。公示前の予想では、私がやや有利とも言われていたが、実際に選挙戦が始まると現役知事は予想以上に手ごわかった。そして残念なことに、中盤以降形勢は逆転し、現状分析では私にかなり不利な様相となってしまった。結果はまだわからないが、部屋にいても何だか落ち着かないのでぶらりと街へ出た。駅前まで来ると、こんな夜更けに見慣れぬ露店があり、私はそこで面白いものを見つけた。
「魔法のランプ」〈もう魔人は出ません〉と書いた紙が貼ってある。
 魔人が出ない魔法のランプほど役に立たないモノはないが、何だか今の自分と重なって思わず買ってしまった。家に持ち帰り、テーブルの上に置いてじっくり見ると、ところどころに錆が浮いて相当な年代物に見える。その昔は本当に魔人が出たのかも知れないと思わせる雰囲気が確かにある。私はランプをこすってみた。

 すりすり、すりすり。ゆっくり擦った。
 すりすり、すりすり。何も起こらない。
 すりすり、すりすり。少し暖かくなったようだが、やはり何事もない。
「まあ、そんなものだ」
 投票日の前夜である。いったい何をしているのかと、我ながら呆れる思いでランプをテーブルに置いた。だがその途端に、ランプがカタコトと小さく揺れた。
 ぷっぷぷ、ぷっぷぷ。ランプの口から白い煙のようなものが、ほんの少し出た。
 ぷっぷぷ、ぷっぷぷ。つっかえながらも、煙らしきものが次々と出てきた。
 ぷっぷぷ、ぷっぷぷ。もやもや~。
 ようやく勢いを増した煙の中から、現れたのは魔人であろうか? どうにも貫禄のない男が周囲を見回し、おずおずという様子で私に声をかけてきた。
「あの~、お呼びでしょうか?」
 見た目が若いだけでなく、何だか、びくびく、おどおどしているように見える。
「擦ったのだから、呼んだといえば呼んだのかな? で、お前は魔人なのか?」
「はい。ええ、いや、あの魔人と言うか、まだ見習いで……」
「見習い? 魔人に見習いなんてあるのか?」
「はい、あります。このランプは私の師匠のランプなのですが、師匠はもうご高齢でお出ましにはなれません。ランプが朽ち果てるのも忍びないと思われた師匠は、最近になって私を弟子にされたのです。ゆくゆくは私にこのランプを継がせるつもりだとおっしゃってくださり、それはもう大変にありがたいことです」
「なんだ、まだ修行中なのか?」
「はい、すみません」
「まあいい。ならば、どうして出て来たのだ?」
「ついうっかり」
 そう言うと、見習い魔人は可愛そうなくらい小さくなってしまった。
「ははは、みっともない話だな。まあ仕方ない。間違いなら、さっさと帰れ」
「それがこのままでは帰れないのです」
「どうして?」
「あなた様の願いを一つ叶えないと、ランプには戻れない決まりでして」
「なんだか、めんどうな決まりだな。だが、見習い魔人に何が出来るのだ?」
「さあなんでしょう」
「お前がわからないでどうするのだ」
「誠に申し訳ございません。まだあまり難しいことは出来ないかもです」
「中途半端な魔人だな。しかし、このまま帰れないのも気の毒な話だ。人助けは政治家の仕事でもあるし。ああ、人ではないな。まあいい、ひとつ考えてやろう」
「ありがとうございます。どうか簡単なのでお願いします」
「わかっている、ちょっと待て」
 私はおっちょこちょいで頼りない見習い魔人のために、願い事を考えてやった。
「明日の投票で、私と現職知事の名前を、そっくり入れ替えてくれ」

 翌日。夜半になって結果が判明した。私は勝利した。まさに大逆転勝利だ。私はこれでようやく念願の知事になれる。選挙事務所で支持者と一緒に万歳三唱をしていると、これまでの苦労が次々と思い出されて、涙が溢れた。もちろん、これから住民のために働こうと思う気持ちはある。だが、それと同時に、これまでいろいろ苦労させた妻や家族に、少しはよい思いもさせてやりたいと思う。大きな声では言えないが、知事になれば、きっといろいろといいことがあるに決まっている。でないと、誰も知事になんてなりたがらない。みんなが必死になりたがるのだから、知事にはきっとかなりのうま味があるに決まっている。私もようやくそういう地位になったかと思うと、また新たな涙が出てくるのだ。
 
 いよいよこれから初登庁という、今朝。
 突然、警察が我が家にやってきた。同時に事務所にも警察が押し寄せたらしい。
「署までご同行願います。家宅捜索もさせていただきます」
 公職選挙法違反。知事選のネット投票分で、大規模な不正が発覚したという。私が得た票のうち、かなりの数が不正に捏造された票であったというのだ。
 何と言うことだ。とんでもない冤罪だ。その罪は本来、前知事が負うべきものだ。
 だが、どうにも証明のしようがない。このままでは、次点の前知事が知事に返り咲いてしまう。あまりにも理不尽で悔しいが、私と前知事の立場はまたも逆転してしまった。
 まあ仕方ない。もう一度、魔人にひっくり返してもらおう。
 ん? やつの修行はいつ終わるのだろう?
(了)