公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

福島の「食」を通じて描く新たな生活史 - 川内有緒氏がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞

タグ
報道発表
プレスリリースより

第35回Bunkamuraドゥマゴ文学賞の受賞作が発表された。今年の栄誉に輝いたのは、ノンフィクション作家の川内有緒氏による『ロッコク・キッチン 浜通りでメシを食う』だ。選考委員を務めた最相葉月氏は、川内氏の作品を「あつかましい」と評しながらも、その独自の視点と丁寧な取材を高く評価した。

『ロッコク・キッチン』は、福島第一原発事故から13年が経過した福島県浜通りを舞台に、「食」を通じて人々の暮らしや人生を描き出す新しい生活史だ。川内氏は、国道6号線(通称ロッコク)を旅しながら、地域の人々のキッチンを訪れ、彼らが作り、食べるものを通して、震災後の生活の変化や復興の様子を丁寧に記録している。

受賞の言葉で川内氏は、「浜通りは、もともと海の幸も山の幸も豊かで、農業や酪農、漁業も盛んだった地域です。しかし、2011年の震災直後から、地域は食の問題で大いに揺れ続けてきました」と語り、放射能汚染や風評被害、ALPS処理水の海洋放出問題など、複雑に絡み合う課題に触れている。

作品の特徴は、単なる被災地のルポルタージュにとどまらない点だ。川内氏は「様々な体験や価値観が行き交う地だからこそ、私にできることは、ただ、今日もその地で暮らしている人たちをそのまま肯定することだった」と述べ、多様な背景を持つ人々の日常を、食卓を通して描き出すことに成功している。

Bunkamuraドゥマゴ文学賞は、毎年交代する「ひとりの選考委員」によって受賞作が選ばれる独特の選考方式で知られている。今回の選考委員である最相葉月氏は、川内氏の作品を「美味しいスープを煮込んでいる」と評し、その丁寧な取材と描写を高く評価した。

『ロッコク・キッチン』は、2025年11月20日頃に単行本として講談社から刊行される予定だ。また、同名のドキュメンタリー映画も制作され、2025年10月12日に山形国際ドキュメンタリー映画祭でプレミア上映される。食を通じて描かれる福島の今と、そこに生きる人々の姿に、多くの読者の関心が集まりそうだ。

出典: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000252.000031037.html