第50回「小説でもどうぞ」選外佳作 記憶のまちがい探し 岡本武士


第50回結果発表
課 題
まちがい
※応募数309編
選外佳作
記憶のまちがい探し 岡本武士
記憶のまちがい探し 岡本武士
「ねえ聞いて。今、夢の中で、記憶のまちがい探しをさせられたの」
ベッドであおむけになったまま、彼女がそう声をかけてきた。
彼女を見つめながら、うつらうつらしていた僕は、彼女と同様大きく目を見開いて、彼女のその目を見つめた。
「……どんな風に?」
しばらくしても、彼女が話を続けなかったので、僕からの彼女を促すように問いかけた。
ゆっくりと彼女が頭を傾けて、僕を見つめた。
「ジャカジャカジャーン! 記憶のまちがい探しー!」
「……んっ?」
「って感じで、司会者が現れたの」
「ああ……、なるほど」
急にキャラクターが変わったので、まだ寝ぼけているのかなと思ったけど、逆だ、鮮明に覚えている状況を、そっくりそのまま僕に再現して見せてくれているんだ。
「司会者は……」
「動物。カバのような、豚のような……」
「……、バク、だね」
「何それ?」
知らない人の頭の中にもそんな風なイメージで現れるとは、もしかしたらバクは本当にいるのかもしれない。
「現れた後は?」
「なんか勝手に進行されるのがとても嫌だったので、私、矢継ぎ早に質問したの。ここはどこで、あなた何で、どんな目的で、いつからここにいて、どうしたら帰れるのか、商品は何か、好きな食べ物は、恋人は、何歳か、どこに住んでいるのか……、もうちょっと続けたかな?」
「答えは?」
「全部無視された」
「同じシチュエーションになったら、僕も慌てず同じように接するようにしよう」
「もしあなたが同じような態度をとったら、う~ん、別れるかな」
僕の目を見返して、心を読んだかのように語り掛けてきた。にっこりと笑って。
「最初から最後まで、全部答えるね、僕なら」
そう当たり障りない回答をしながら、これはいつになったら、まちがい探しにたどり着けるのか不安になってきた。
「相手が無視するなら私も無視しようかと思ったんだけど、なんかこう急に目の前に、大きなモニターが二つ現れたの。じゃあもう聞くしかないじゃない、これなに? って」
「うん、うん」
大きくうなずく僕。
下手に言葉を挟んで彼女の話の流れを止めたくはなかった。
「そこにね、遊園地でジェットコースターに乗ろうとしている私が映っているの。小学校の6年生だったと思うの。確か連れて行ってもらったのを思い出したの。でね、その二つの画像が途中まで同じなのに、乗り終わったと、一つが楽しそうにジェットコースターから降りてもう一回乗りたいって言いだすの。でも、もう一つが泣き出してジェットコースターから降りた後も泣き止まずに号泣しているのよ」
「楽しい思い出と、嫌な思い出……」
「わたし、どっちなのか思いだせないの」
「それが、まちがい探し……?」
「繰り返し繰り返し、目の前で笑っている私と泣いている私を見ていると、どっちも自分の過去のような気がして、訳が分からなくなるの」
彼女がその様子を再現するかのように、目の前にあたかもモニターがあるかのように左右に頭を動かしていた。
「今、思い返して、どっちの記憶が正しいの?」
考え込む彼女。眉間のしわ、突き出した唇、大きく膨らませるほっぺ。
すごく考え込む彼女の姿は、かわいらしくて少し滑稽だった。
「夢でも同じことを聞かれたの。どっちがまちがいかって」
「どっち?」
「思い出せないの」
「どっちが本当か?」
大きく首を横に振る彼女。
「どっちって答えたのか。こっちって、指さしたの。そしたらそこで目が覚めたの」
「まあ、夢だし、どちらでもいいんじゃない?」
「そうよね、そのはずよね。でもね、それじゃあダメなの」
「どうして?」
「半分きえるよって、言われたの」
彼女が自分の腕で自分を抱きしめた。
そう、怯えている。
「大丈夫だよ。夢だから」
「違うのよ、そのまちがいは、どっちかしか存在してはいけないの」
どんどん震えを大きくする彼女を僕は抱きしめるしかできない。
「落ち着いて、大丈夫。じゃあ、どっちなのかゆっくり思い出そう。きっと、笑っているほうじゃない? ジェットコースターがにがてって、聞いたことないし」
「大好きだって言ったこともないわよ……」
そういえば、まだ彼女と遊園地やテーマパークに行ったことはなかった。
「どうして、まちがえるといけないのかな? 記憶って、別に曖昧でもいいじゃない」
彼女の震えが止まった。そして上半身を勢いよく起こしていた。
「あなたはどっちの私が好きなの!」
その言葉で僕は諦めた。彼女を抱きしめて、首筋の肩甲骨辺りの背骨をなぞり、決められた手順で三つのボタンを押した。
カクン、と彼女が首を垂れて、その動きを止めていた。
「まさか二つの記憶が混じるとは思わなかった……。インストールミスか……、前のデータ消去を忘れてしまったか……」
メンテナンスに出す前に、僕はどう言い訳して修繕費を安くしようか、その事ばかりを考えてしまっていた。
(了)