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第50回「小説でもどうぞ」選外佳作 なにかのまちがい 川畑嵐之

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小説
小説でもどうぞ
第50回結果発表
課 題

まちがい

※応募数309編
選外佳作 

なにかのまちがい 
川畑嵐之

 今夜も疲れていた。
 毎日残業で、帰りに飲食店に寄る気力もなく、自宅ハイツの近くのコンビニで弁当とビールを買って、二階の一番奥の自分の部屋に着いた。
 ドア前に四角い段ボールの荷物が置かれていた。
 そういえば古本十冊とか注文したっけな。
 テープを剥がして中を見て、はっと思った。
 あれっ、ちがう。本じゃない。
 なんだか電子機器らしい黒い箱が入っていた。
 なんだこれは?
 間違えているじゃないか!
 はじめて宛名を確認する。
 俺宛てじゃない。
 俺は鈴木雅人だが、宛名は鈴木雅也だった。
 こんなややこしい名前が近くに住んでいやがったのか?
 くそう、もう開けちまったじゃないか。
 しかしなんだこれ?
 いろいろボタンがついている。妙に重い。
 もしネットオークションで売ったらどれくらいになるのだろうか。
 それからの行動は早かった。
 元値は二、三万の物らしくさっさと出品した。
 稀少なのか、倍近くの値で落札された。
 翌朝には素早く梱包してコンビニから宅配で送ってしまった。もう後戻りはできない。
 翌日は土曜で休日だった。
 また午前中は疲れをとるために惰眠をむさぼっていると、ピンポンが鳴った。
 ドアスコープを覗くと配達員らしい。
 どうやら本が来たか。
 ドアを開けると配達員は何も持っていなかった。
「あのう、すみませんが、昨日、ここに配達物が置かれていませんでしたか」
 あっと思ったけど、それは表面にださないよう心がけた。
「いえ、知りませんよ。そんな物なかったです」
「おかしいなぁ。間違えて、ここの前に置いたはずなんですけど」
 と配達員はいかにも間抜けな感じで帽子の上から頭を掻いている。
「とにかく知りませんよ。なにかの間違いじゃないですか」
 とドアを閉めた。
 やばかった。でもこういうことにしたらバレることはないだろう。
 翌日も休みで午前中、また惰眠をむさぼっているとピンポンが鳴る。
 ドアスコープで、あの配達員とわかった。
 このまま居留守を使ってやろうかと後退る。
 でもまたピンポンを押してくる。
 しつこくされるのも面倒だ。
 とにかく追っ払ってやろう。
 ドアを開けて、「なんですか?」と切れ気味に言ってやる。
「あのう、横の部屋の方がここの前に荷物が置いてあるのを見たというんですよぉ。置いてあったんじゃないですかぁ」
「知りませんよ。そんな物。だから何かの間違いじゃないですかって言っているじゃないですか。もう勘弁してくださいよっ」
 ドアをバタンと閉めてやった。
 またピンポンを押されるのではないかと心配したが、それはなくほっとした。
 翌週、また忙しい会社生活でほとほと疲れて、やっとのことで休みとなった。
 また午前中、惰眠をむさぼりつくしているとピンポンと鳴る。
 またあの配達員だ。
 今度はすぐ怒鳴ってでも追い払ってやる。
「なんですか!」ドアを開けて先制攻撃だ。
「あのう。ネットオークションでこういうのを見つけたんです」さっとスマホの画面を見せてくる。
 それは雅人が出品したあの品物のページだった。
「これって、あなたの出品ですよね。これって、ここに置かれてあった物じゃないですか。どうなんです?」
「いえ、それは……」
 正直、この配達員を甘くみていたが、そこまでするとは。
 あまりにもしつこくって蛇のようにぞっとした。
「これね、もしそうだとしたら立派な窃盗罪ですよ。窃盗罪って、どんな罰があるか知っていますか」と畳み込んでくる。
 雅人はうろたえて首を振った。
「十年以下の懲役か、五十万円以下の罰金ですよ。十年って長いですよ。いいんですか」
 目の奥を覗き込んでくる。
「どうすれば……」蚊が蚊取り線香で落ちる寸前のような声で呟いた。
「警察へって言いたいところですけど、元はといえば、間違えたのはこちらのほうですからね。今回のところはおおめにみますよ。でも、タダというわけにはいきませんよ。私は弁償させられてんですから」
「いくらほどで……」
「そうですね。あれ、どれくらいで売れましたっけ。弁償っていうのは、その代金だけじゃ済まないんですよ。信用も失うし。十倍ぐらいのお金はだしてもらわないと」
 そんな金はなかった。
 あるとしたらネットで手に入れた高級時計ぐらい。
 雅人はキャビネットからその時計が入ったケースをとってきて、
「これで勘弁してください。三十万ぐらいにはなると思いますから」と差し出した。
「たった三十万ですか」と不満そうに受け取る。
 配達員は中身を確認すると、「まあ、今回のところはいいです。警察には行きませんよ。これでなかったことにしてあげます」
 配達はドアを閉めて帰っていった。
 雅人はこれで済んで良かったと心の底から安堵の息を吐いたのだった。

 数週間後のことだ。
 またコンビニで弁当とビールを買って、弁当をかきこみながら、なんとなくテレビのニュースを目に入れていると、見知った男の顔写真が出て、あっと驚いた。
 それはあの配達員だった。
 配達員を装って、わざとニセの配達物を置き配して、その部屋の人が間違えて開封したりすると、因縁をつけて、金を騙し取るという犯罪を繰り返し、逮捕されたということだった。
 雅人はまんまと箱罠にハマったのだと気づいた。
 かといってあの時計は帰ってはこない。
 誰にも言えない失敗で、はらわたがどろどろに煮えくり返り、ベッドのマットレスをこれでもかとどつきまくるのであった。
(了)