第15回W選考委員版「小説でもどうぞ」佳作 誘拐 橋本良純


第15回結果発表
課 題
勘違い
※応募数275編
橋本良純
僕は一体どこにいるのか、昨日の夜、突然何者かに捕まり、車で運ばれたこの部屋に監禁されて半日近く経とうとしている。周りにはいくつかの気配があり、僕と同じように連れてこられたと思われる。
一体何の目的で僕たちはさらわれたのだろうか、身柄を確保されたときは、何人かの人に囲まれて逃げる術もなく拘束された。どこかの犯罪組織の集団誘拐に巻き込まれたのだろうか? それにしても特に面識のない僕らを別々に誘拐して、どうしようというのか。そもそも僕は天涯孤独だ。身代金など期待できようはずもないのだ。それなのになぜ僕が標的になったのか、腑に落ちない。そんな中、同じ部屋で近くにいた奴が話しかけてくる。
「おい、お前も無理やりさらわれてこにいるのか?」
声の感じからすると年の頃は僕と同じぐらいであろうか。
「ああ、お前もそうなんだな」
僕は返事を返す。
「天涯孤独の俺なんか誘拐しても、身代金など取れないのに、なぜ俺なんだ」
僕はドキッとした。こいつも天涯孤独? い? もしかして。
「ちょっと、今この部屋にいる諸君らに聞きたいことがある。もしかして皆天涯孤独の身の上か?」
部屋の空気がちょっと止まったが、その後、次々に声があがる。
「あの~僕は天涯孤独です」「俺も」「私も」
なんと、部屋にいた全員が、天涯孤独の身だというのだ。一体どういうことだろう。もしかしてこれは誘拐などではなく、むしろ孤独な僕たちを標的にしているのだろうか。嫌な予感がよぎる中、最初に話しかけてきた奴がその予感を言語化する。
「もしかしてどこかに売り飛ばすとか?」
確かに俺たちがいなくなっても、探す者はいない。とはいえ、僕らを売り飛ばすことでどれほどのお金になるのだろうか? 今度は別の奴が発言する。
「なにか……生体実験の実験台にされるとか……、あるいは内臓を売られる……とか?」
恐ろしい想像だが、絶対違うとは言い切れない。
全員が不安になる中、突然扉が開き、一人の男が僕を別の部屋に移動させようとする。僕は必死で抵抗したがまったく歯が立たず、されるがままになっている。
「くっ! やめろー」
抵抗むなしく僕は何か薬物を投与され、力が抜けていく。薄れゆく意識の中で僕はこれまでの人生を振り返っていた。食うにも困る生活ではあったけど、自由でそれなりに楽しい暮らしだったのに。こんなことで人生が終わるなんて悔しい……畜生……。
そして僕はそのまま意識を失った。
「…………………………ん?………………あれ?……まだ生きてる」
どれくらい意識を失っていたんだろう。意識が戻った僕はさっきの部屋にいた。他の皆も全員いるが寝ているようだ。まだ頭が少しぼんやりしているが、少なくともここは天国でも地獄でもなさそうだ。自分の体のチェックをすると股間がなんかチクチクして痛い。そしてあるはずのものがない‼
「なんじゃこりゃ~⁉ 〇〇がなくなってる!」
僕が叫ぶと、僕を誘拐した男の一人がやってきた。
「お~やっと目が覚めたか、よく頑張ったな。まだちょっと痛むかもしれないけど辛抱しておくれよ」
そう言って男はいい香りのするドロッとしたものを僕の鼻に近づけてきた。ああこれだ。街で捕まったときもこのいい香りのするドロッとしたものに誘われて、気がついたら囲まれて身柄を拘束されたんだ。夢中でそれをなめる僕に男は言う。
「耳もちょっとだけ切らせてもらったけど悪く思うなよ。これから君は“街猫”として、また元の場所で生活することになるんだ」
何を言っているのか全然わからなかったが、その後、僕ら全員はまた同じ車に乗せられ、それぞれが違う場所で降ろされた。皆、頭に“?”が浮かんだまま降ろされていく。最後に僕が降ろされた場所は誘拐された場所だった。去り行く車の車体には“認定NPO法人セーフニャンコ”と書かれていた。結局何だったんだ? もしかしてあれは宇宙人で僕らは何か体にICチップでも埋めこまれたのだろうか。え? わざわざ股間に? まさかね。
とにもかくにも僕は生きている。ちょっとだけ歩く時のバランスがおかしいがすぐになれるだろう。元々ちょっと邪魔だなと思っていたし。とりあえずいつもの魚屋で魚のアラをもらいに行くとしよう。今日はサンマがあるといいな。
(了)