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第15回W選考委員版「小説でもどうぞ」佳作 毒島愛倫 監督危機一髪

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小説でもどうぞ
結果発表
第15回結果発表
課 題

勘違い

※応募数275編
監督危機一髪 
毒島愛倫

 俺は野球部の監督。いよいよ明日から三年生にとって最後の大会が始まる。今日は悩みに悩んだ背番号を発表する日だ。
 練習が終わると、部員たちが俺の周りに集まった。
「明日からいよいよ大会が始まる。三年生にとっては最後の大会だ。選ばれた者は選ばれなかった者の分まで思い切ってプレーし、選ばれなかった者は全力でサポートしてくれ。では1番、鈴木!」
「えっ、俺? よっしゃあ!」
 なんの勘違いなのか、二年でエースの鈴木ではなく、いつもメンバー外になっている三年の鈴木が声を上げた。
「え? ちょっと待っ」
「やったぞお、初めてメンバーに選ばれた! 母さんと父さん、喜ぶぞお」
「おい、ちょっと待っ」
「監督! 自分、ピッチャーやったことないですが、精一杯頑張ります!」
 こんなに喜んでいる鈴木を前に違うとは言えず、俺は無言で背番号を渡した。まあいい、二年の鈴木は背番号10にしよう。
「次、2番、永井!」
「はいっ!」
 手を上げて前に出たのは、顔と名前が一致しない、新入生だった。体格が華奢だから、おそらくキャッチャーなんてやったことないだろう。
「すまんがキミじゃなくて」
「ありがとうございます。病気で寝込んでいるおばあちゃんに良い報告ができます。キャッチャーやったことないですが、精一杯チームのために頑張ります!」
 そんなこと言われたら渡さないわけにはいかないだろうと、俺は無言で背番号を渡した。
「次、3番は加藤!」
「ういっす!」
 手を上げて前に出たのは、ロン毛で半袖短パンの、どっからどう見てもサッカー部の生徒だった。
「キミはあ……」
「ういっす! 背番号いただきっす!」
 チャラいノリにめんどくさくなった俺は、無言で背番号を渡した。
「次、4番、飯塚」
「はいっ」
「次、5番、二宮」
「へいへーい!」
 その後、普段試合に出ていないような部員や、野球部なのか怪しい部員が次々と手を上げ、気づいたときには背番号を渡し終えていた。
 解散すると、俺は嘆いた。
「はあ、いったい何が起こっているんだ。こんな無茶苦茶なメンバーで勝てるのか?」
 校舎に向かいトボトボ歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
「監督、そろそろ始めるので、こちらに入ってください」
 肩を叩いたのは、背番号を受け取った部員だった。正直、誰なのか覚えていない。
「入れって、どういうことだ?」
「ここです!」
 部員が指差した先に、大きな樽があった。
「おい、ここへ入れって……おおい!」
 部員たちは俺を担ぐと、樽の中に押し込んだ。
「おい、何するんだ! お、おーい!」
 俺の頭だけが、かろうじて樽の外に出ている。部員たちは俺の帽子を取ると、頭にバンダナを巻き、黒いペンキで口周りをベッタリと髭を書いた。背番号をもらった部員たちは、ナイフを持って樽の前に並んでいる。
「それでは1番鈴木、いっきまあす!」
「おい、俺が何したってんだ! やめろおお!」
「俺を試合に出さなかったバツだ! くらええ!」
 鈴木は勢いよく樽にナイフを刺したが、何も起こらなかった。
「次、2番、永井いきます!」
「やめろやめろ! お前らみたいな補欠は、まずは雑用って相場が決まってるんだ!」
「うるせえ、俺に草むしりばかりやらせやがって、くらええ!」
 永井も勢いよく樽にナイフを刺したが、何も起こらなかった。
「3番、加藤っす! 死んだ母ちゃんの仇だ、くらええ!」
「ま、待て! それは俺じゃなああい!」
 加藤がナイフを刺した、そのときだった。
 ——カチッ……ビヨーン!
 樽の底にあるバネが反応し、俺は飛んだ。
「た、助けてくれ! た、頼む……あああ!」
 俺は木に引っかり、なんとか助かった。
「うえーい! 俺の勝ちいい!」
「くそお、もう一回だ!」
「なあ、今度は順番変えてやろうぜ」
 俺は木から引き摺り下ろされると、再び樽に入れられた。
(了)