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第15回W選考委員版「小説でもどうぞ」佳作 宝石 高橋菜穂子

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小説でもどうぞ
結果発表
第15回結果発表
課 題

勘違い

※応募数275編
宝石 
高橋菜穂子

「豪君、昨日パパに凄いこと訊かれたの」
 五年の二学期、俺はクラスで一番可愛くて人気者の愛梨と一緒に学級委員を務めることになり、急速に仲が良くなったことを密かに喜んでいた。俺の家は両親が離婚して母子家庭、愛梨の家は母親が数年前に亡くなって父子家庭だ。お互いに家庭環境が似ていたということもあって、愛梨とは打ち解けて話をすることができたのだ。
 放課後、学校を出て一緒に肩を並べて歩いていると、愛梨が俯いたまま言った。
「再婚してもいいか、だって」
「再婚? 相手の人って?」
「昨日はママの月命日だったから、いつものようにパパは豪君ちの花屋さんでバラを買って帰ったの。私、思うんだけど、もしかしてパパのお相手って豪君のママなんじゃないかなあ」
 確かに、愛梨のパパとうちの母親は良い感じに見える。毎月、バラを買いに仕事帰りに母親の働く店に寄る。娘が世話になっていると言って、有名スイーツの店にわざわざ並んで買ったというシュークリームを差し入れたり、日曜の俺の少年野球の試合に、愛梨を連れて応援に駆けつけてくれたりもする。
 母親に気があるのかとは薄々思っていたが、再婚まで考える仲になっていたとは! そう言えば、先月、何日か店を閉めて旅行に出かけたことがあった。俺は近所にある祖母の家から学校に通った。ゲームをしていても叱られないので、旅行は大歓迎だ。ストレスでキリキリするとか言って、腹をよく押さえていたくせに、帰宅した母親の顔はなぜかすっきりと晴れやかだった。
 まさか息子を置いて、愛梨のパパと旅行に出かけていたのではないのか。俺は胸がチクリと痛んだ。まあ、それならそれでいい。母親はまだ四十歳だ。俺に似てまあまあ美人だし、男前の愛梨のパパなら許してやってもいい気がした。が、愛梨の次の言葉に、俺は脳天に雷を食らったような衝撃を受けたのだ。
「パパが再婚したら、私と豪君とは兄妹になるんだよ。豪君は私の苗字の郷豪になるの」
 ゴウゴウって! なんかそれ、おかしくないか? GOGO!……イケイケ!……名前も名前だが、もっと混乱するまずい事態になることに俺は気づいてしまった。
 一つ、お聞きしてもよろしいですか? 兄妹って、結婚してもいいんでしょうか!
 愛梨と兄妹、いや、姉弟かもしれないが、そうなったとして、俺たちは血の繋がりはないのだから、結婚は許してもらえるんだろうか。許してもらえないと困るんだが。もし許してもらえないなら、この再婚は許してやれないことになるぞ。何だか、ややこしいな。頭がこんがらがってきた。俺は頭を抱えたまま、愛梨と別れて家に戻った。
「ただいま」
「ああ、お帰りなさい」
 憂鬱そうに項垂うなだれたままチラリと母親を伺うと、咄嗟に何かを背中へ隠すのが見えた。見るからに怪しい。
「今、何を隠したの?」
「いや、何でもない。お腹空いたでしょう。すぐおやつ、用意するから」
 母親め、急いで何かをたんすの引き出しにしまおうとした。俺は素早くその手に飛び掛かり、母親の手から青い小箱をもぎ取った。
「あッ!」
 それは、テレビドラマなどでよく見る、『結婚してください』のときに使う指輪のケースだった。やっぱりか。やっぱりなのか!
「豪ちゃん、ちょっとそれ返しなさいよ」
「嫌だ! 俺はゴウゴウなんて呼ばれたくないぞ! それに、愛梨と兄妹になんか絶対になるもんか!」
「何バカなこと言ってんの、この子は! とにかく、早く返しなさいってば!」
「嫌だ、嫌だ、絶対に嫌……だ?」
 揉み合ううちに箱の蓋がパカッと開き、中から黄色い小石たちがバラバラと畳の上に散らばった。大きいのやら小さいのやら。
「ああ、ああ、何やってんの、おバカ」
 母親は散らばった小石を一つずつつまみ上げると、指輪ケースのふかふかの座布団の上に丁寧に並べた。婚約指輪ではなく、ただの石ころを貰ったのかと、俺の頭の中は満開の“?”の花が咲き乱れていた。
「母ちゃん、それ、何?」
「胆石。こんなんがお腹ン中にあったんだから、そりゃキリキリ痛いわ」
 先月、母親は俺に内緒で入院し、胆石の手術を受けていた。出てきた小石はあまりにも立派で綺麗だった。記念に空の指輪ケースに、臍の緒みたいに大事にしまっていたのだと言う。俺はゴウゴウにはならずに済んだ。
 愛梨の家に若くて美人のママが来た。パパはバラを買いに店に来る。日曜の俺の試合には三人で観に行くからと笑っている。差し入れの団子が母親の胃袋へ消えていく。
(了)