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第15回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 銃炎 平無異特

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小説でもどうぞ
結果発表
第15回結果発表
課 題

勘違い

※応募数275編
選外佳作
 銃炎 平無異特

 会社からの帰り道、まっすぐと整列した街灯の一つに、寄りかかるようにソレはあった。
 日を跨いだ残業による疲労と、はたまたどうとでもなってしまえといった内なる破滅願望からか。僕は銃を拾った。
 映画で見たものよりも全体的に丸くツルツルとしている。命を奪うためだけに生まれたものだ、といった恐ろしい感じがしない。握りやすさを考えて設計されているのだろう。不気味なほどに手になじむ。胸ポケットに差してあるボールペンのような、手軽な道具としての親しみやすさを感じる。

 しかし、これは本物なのだろうか。弾が装填されているか確認しようとしたが、方法が分からない。
 試しに撃ってみようか。それで弾が出れば本物、出なければ偽物か弾切れだろう。近くに生えている木に銃口を合わせたところで、ハッと我に返った。
 もし本物だったら、鳥の鳴き声も聞こえない夜の音を、銃声が独り占めするだろう。大声で銃刀法違反しています、と叫ぶようなものだ。犯罪じゃないか。生活はずっと苦しいし、良いことがあったとしてももう思い出せないが、それでもまだ自棄になりたくない。
 どこかその辺りに置いて、何事もなかったようにこの場を去ろう。誰かが同じように拾わないよう、目の付きにくいところに……いや、待った。

 この銃には、僕の指紋がべったりと付いているではないか。持ち主以外の第三者が拾って警察に届けたら、間違いなく僕が疑われる。かといって、僕が警察に通報したとしても無罪で善良な一般市民であると信じてもらえる自信がない。
 どうしよう、どうしたものか、だんだん自分が取り返しのつかない方に向かっている感覚が、背中からじわじわと這い寄ってくる。

「あんさん、あんさん」
 背中が飛び跳ねた。銃に気を取られすぎていて、人が迫っていることに気付かなかった。とっさに後ろ手にして銃を隠したが、正面の男の表情を見た途端、良くない結果になったと確信した。
 黒髪のオールバックに整った顎髭のスーツ姿の男は、銃が似合いそうな容姿をしている。
「あんさん。今隠したモン、俺のだからよ。返してくれ。結構気に入ってんだ」
 男は右手を差し出した。素直に渡していいものだろうか。渡した瞬間に僕の口封じをするのでは。逃げたほうがいいのだろうか。すぐに追いつかれてしまうのでは。
 その場で迷っていると、男はにんまりと顔を歪ませた。
「ああ、そういうことかぁ。あんさん、ちょっと引き金引いてみぃ。本物じゃあねぇ」
 男の言うことは信じられなかったが、従うことにした。どうすればいいのか皆目見当もつかないこの状況に、とても耐えられなかった。
 銃口を下に向け、目を瞑り、荒い呼吸を何度かしたあと、思い切って引き金を引いた。

 カチッ。
 小さくそんな音が聞こえて、ゆっくりと目を開けると、銃口から炎が出ていた。人差し指くらいの大きさの、細長く青い炎が、舗装された歩道に向かって伸びている。
「それ、ライターやねん。若ぇときに先輩から貰ったモンでな」
 カッコイイやろ、と男は続ける。こんな紛らわしいもの使うな。かすかに怒りが沸いてきたが、安堵のほうが遥かに勝った。
 引き金から指を離して、男に銃、もといライターを渡す。「あんがとな」といってスーツの内側のポケットにしまった。
「そりゃ、こんなモン初めて持ったら頭ん中真っ白になるやろ。普通に生きてりゃ触ることねえもんなぁ。ま、偽物なんやけどな」
 愛想笑いをして「そうですね」と僕が言うと、「じゃあ」と言って男は向こう側に歩いて行く。

 ちらりと見えた反対側の内ポケットに、似たような輝きが見えたが、きっと偽物だろう。
(了)