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第15回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 勘違いだらけの男 ササキカズト

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小説でもどうぞ
結果発表
第15回結果発表
課 題

勘違い

※応募数275編
選外佳作
 勘違いだらけの男 ササキカズト

 俺の人生、勘違いだらけであったと、齢三十になってようやく悟った。
 まず俺は、自分がまあまあいい奴であると思っていたが、勘違いであった。いい奴なんかじゃない。いい奴と思われたいだけの男だった。
「あなた、いい人って思われたいだけなんじゃないのぉ?」と、行きつけの飲み屋のママに言われ、はたと気づいたのだ。
 たしかにそうだ。よく考えたら、俺はいい奴と思われたくて、いい奴を演じてきただけだった。
 また俺は、自分がけっこう優しいと、自分では思っていたが、これも勘違いだった。自分が優しくされたくて、ひとに優しくするだけの、上辺だけ優しいふりをする男であった。
 そして俺は、自分が真面目なほうだと思っていたが、これも勘違いであった。ひとから真面目な男だと思われたくて、真面目ぶっているだけの男だった。
「係長、真面目ですよね~」と、事務の女の子に言われて、なんかその気になっていたのが何よりの証拠だ。よく考えたら、おべっかに違いないし、何なら皮肉だったかもしれないのに。
 自分が勘違い男であったと認識すると、まだまだ自分の勘違いに気づく。
 俺は、自分がユーモアのセンスがあると思っていたが、これも勘違いだ。俺のジョークがウケるのは主に行きつけの飲み屋。アルコールで何でもおかしく感じる状態の常連の飲み仲間と、笑うことが仕事の一部であるママたちだけが、俺のジョークで笑う。
 あと、ひとの悪口を言わないと勘違いしていたが、けっこう言う。ポジティブだと勘違いしていたが、アパートで独りのときなどけっこうネガティブだ。気配りができると勘違いしていたが、滅多に気配りなどしない。いつも「ありがとう」と言っていると勘違いしていたが、言い忘れることも多い。
 あれも勘違い、これも勘違い。俺は、とんでもない勘違い男だった。
 これからは、自分が勘違い男であることを意識しながら生きていこう。
 そう。俺は、勘違いだらけの男だ。

 俺は、自分が勘違い男だと思いながら、ここ数ヶ月のあいだ生活してきた。
 そして悟った。人間は、勘違いしていないと生きていけない、と。
 俺は、いい奴じゃない、優しくない、真面目じゃない、面白くない……。そんなふうに思いながら生活していたら、頭が変になってきた。心が不健康になってしまい、どうにも立ち直れない。
「俺は、ダメな勘違い男なんだ……」
 飲み屋のママに愚痴ったら、
「勘違い、いいじゃないの。人間なんて、自分をいいふうに勘違いしていないと生きていけないわよ。勘違いサイコー!」
 そうだ。その通り。俺は、勘違いがいけないことだと勘違いしていた。勘違いは素晴らしい。勘違いしてこそ、俺は正常でいられたんだ。勘違いはダメだなどという勘違いはもうしない。もうそんな勘違いはしないぞ。俺は勘違いしながら生きていくんだ!
 ……あれ? 俺は、勘違いするんだっけ、しないんだっけ?
 自分がダメだという勘違いを、勘違いだったと気づいたんだから、勘違いの二重否定だから、元に戻ったのか? 元々俺は勘違い男だったんだっけ? 自分が勘違い男であると、勘違いしていたんだっけ?
 落ち着け。「勘違いサイコー」なんだから勘違いすればいい。……何を?
 勘違いは良いと勘違いするのか、勘違いはダメだと勘違いするのか? 
 勘違いは勘違い、というのは勘違いで、そう思うのも勘違いで、その勘違いも勘違いかもしれないのか? 勘違いは無限なのか?
 勘違い、勘違い、勘違い、勘違い、勘違い、勘違い、勘違い、ああ、勘違い!
「先生! 頭の中が勘違いでいっぱいなんです! どうにかしてください!」
 俺は精神科を受診していた。
「なるほど。あなたは今、勘違い妄想状態と言えますね」
「か……勘違い妄想?」
「勘違いは勘違いであるという妄想にとりつかれているのです。勘違いは妄想であると、そう勘違いされるでしょうが、それこそ勘違い妄想です。妄想もいわば勘違いのようなものなので、勘違い妄想という勘違いを妄想している状態であり、妄想と勘違いを勘違いしないようにするのが勘違い妄想の治療です」
「先生……」
 俺は、ひざに乗せた両のこぶしをぷるぷると震わせながら言った。
「入院させてください。先生への殺意が抑えられているうちに……」
(了)