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第15回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 そういうこともあったよな 昂機

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小説でもどうぞ
結果発表
第15回結果発表
課 題

勘違い

※応募数275編
選外佳作
 そういうこともあったよな 昂機

「お前、田中か? すっかり変わったなあ!」
 目の前の男を見て、俺は思わずそう言った。昔は図書室を根城にする痩せぎすの文学少年、といった風貌だったのに、今じゃ頬も腹も丸々として太陽みたいだ。ネームプレートをしていなければ、田中だと分からなかっただろう。俺は驚きつつホテルの宴会場を回る。
「佐藤さんも全然……え? なんで二人?」
 これまた見違えた顔つきになった佐藤さんの隣には、同じ佐藤のネームプレートをつけた女性がいた。それも瓜二つの顔だ。え、双子? 在学中はまったく知らなかった。
「鈴木は……お、男……?」
 鈴木、女だったよな? よく男子に混ざってドッジボールをしていたが、まごうことなく女子だったはず。それが今や背は俺より高いし、筋肉質で、顔には髭が生えている。いや、そういう道を選んだ人がいてもおかしくない。なりたい自分になるのが一番だ。
 小学校の同窓会、二十年ぶりに会った同級生たちは何から何まですっかり変わっていた。面影のあるやつが一人もいない。
 まさか。俺は同窓会の招待状を確かめた。
 ……やっぱり。日付け、勘違いしてました。俺の通っていた小学校の同窓会は来週らしい。受付けは名前を書くだけの杜撰ずさんなシステムだったから、気付かなかった。帰りたいのは山々だが、受付けで会費を支払ってしまった以上、料理だけでも楽しまなくては損だ。俺は周囲に「あったねそんなこと」と中身のない相槌を打ち、テーブルの生ハムやチーズを摘まむ。
「あんな人、クラスにいたっけ?」
「ううん、覚えてない」
 背筋が冷える。声のした背後を恐る恐る振り返ると、発言者の女性二人は俺とは違う方を向いていた。どうやら壁際に一人佇む男のことを言っているらしい。ホッとした。
 同時に、うまい手を思いついた。俺はパーティーを遠巻きに見ているそいつに近付き、自然を装って声を掛ける。
「よお、みんな様変わりしてびっくりしたよ」
 男のネームプレートを盗み見る。どうやら宮田というらしい。
「もしかして、修学旅行で一緒だった……?」
「そうそう、佐山だよ! 楽しかったよなー、あのときは」
 どきりとしたが、勢いでごまかす。折角なら堂々と嘘をついてやろうと思ったのだ。その方がこの場にいる後ろめたさがなくなる。こいつを選んだのは、一人でいて騙しやすそうだったからだ。
「嘘だよ。僕、修学旅行には行ってない」
 俺はぽかんと口を開けてしまった。 
「騙してごめんね。でも君、この学校の人じゃないでしょ?」
 僕、皆の顔と名前は卒業アルバムを見てしっかり覚えてるんだ。宮田の言葉に、俺はごまかそうという気分がすっかり失せた。
「……実は、ちょっとした勘違いでここに。バレたなら、もう帰るよ」
「君さえよければもう少しいてくれないかな。見てのとおり、寂しいんだ」
 宮田は静かに笑う。まさかの申し出に、俺は動かしかけていた足を止めた。
「僕ね、昔は病気で体が弱かったんだ。授業にも行事にもほとんど出られなかった。だから皆との思い出がないんだよ。せめて今日、思い出作りができればと思ったんだけど」
 なかなか難しいね、と彼は肩を竦めた。その目は会場を眺めているようで、どこも見ていないようだった。ほんの一握りしかないかつての思い出を、頭の中で必死にかき集めているのかもしれない。俺は近くのテーブルからカナッペを取り、宮田に差し出した。
「……いやあ、林間学校のときのお前には驚いたよ。危うく宿の窓から落ちかけるんだから。いくら珍しい鳥の鳴き声がしたからって、四階だぜ。皆、ガチ焦りだったもんな」
「え?」
 宮田は目を丸くした。
「それに、覚えてるか? 算数の授業。俺が先生に当てられたとき、ちっとも答えられなくてさ。羞恥心で固まる俺を思って、お前『僕の方が全然わかりません!』って叫んでくれただろ。あの時のクラス中の驚いた顔!」
「佐山君……」
「まだあるぞ。午後からプールの授業なのに、俺が水着を忘れた日があった。俺たちこっそり昼休みに学校を抜け出して、家まで取りに行ったよな。いやあ、あれはドキドキだった」
「……そうだね。しかも結局先生にバレて、たっぷり怒られた」
 宮田はフッと笑う。あったね、そんなこと。あったってことにしておこうぜ。今日くらい。
「優しいんだね、佐山君は」
 ありがとう、と宮田は言う。
「何言ってんだ、宮田こそ優しいよ」
 こんな俺を迎え入れてくれたんだから。
 その日、俺たちの思い出は、途切れることなく増えていった。
(了)