公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

第15回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 正夢 ナラネコ

タグ
小説でもどうぞ
結果発表
第15回結果発表
課 題

勘違い

※応募数275編
選外佳作
 正夢 ナラネコ

 夢に見たことが翌日、現実になる。
 最初にそれが起きたのは、半月前の金曜日だった。俺はパチンコが好きで、駅前のパチンコ屋に通っていたのだが、 ここのところ玉の出が悪いので足が遠のいていた。ところがその夜の夢に出てきたのは、自分が座っている台の受け皿から、滝のようにパチンコ玉が溢れ、床に散らばるという光景だった。9という台の番号も覚えている。
 たかが夢と思っていたが、あまりにも鮮明だったので、俺は翌日、久しぶりにその店に入ってみた。夕方の混んでいる時間帯だったが、夢に見た9番台は空いている。
 席に座ると、隣の台にいた顔見知りの関西弁のじいさんが話しかけてきた。
「兄ちゃん、この台、朝からずっと出てへんのや。久しぶりに来たのに、オケラになって帰るだけやで。やめとき」
 なるほど、それで誰も座っていなかったのかと思ったが、とりあえず物は試しということもあるので、千円分だけ玉を買い、ハンドルを回してみた。
 驚いたことに、次の瞬間、大当たりが出た。夢で見た光景がそのまま再現され、玉が勢いよく受け皿から溢れ、止まらない。隣のじいさんも、目を丸くして眺めている。
 そのときは単なる偶然だと思っていた。だが、すぐに二度目が起きた。
 パチンコで大当たりを出した三日後のことだ。その夜に見たのは、体中がびしょ濡れになる夢だった。全身から水が滴り落ち、あまりの冷たさに身震いして目が覚めた。
 朝になり、窓を開けて空を眺めると、雲一つない青空だった。念のため天気予報を見ても降水確率ゼロパーセントと出ている。通勤の最寄り駅まで十五分ほどの道のりだが、傘を持たずに家を出た。すると歩き始めて数分で、みるみる空が黒い雲で覆われた。バケツをひっくり返したような激しい雨が降り出し、たちまち全身がずぶ濡れになった。前の夜の夢が、再び現実となったのだった。
 俺の見る夢は、確実に翌日の現実と一致している。そう確信したとき、言いようのない恐怖に襲われたが、待てよと考え直した。これは一種の予知能力だ。うまく生かせば、幸運を逃さず手に入れ、危機を回避できる。二つの夢は、どちらも現実と見紛うばかりの鮮烈なイメージと生々しい感触を伴っていた。次に夢を見たら、あのパチンコのような夢なら利用してやればいいし、びしょ濡れになるような夢なら、対策して回避すればいい。そう考えると、特段恐れることはないわけだ。
 そして、昨夜の夢。
 夜道を歩いていると、後ろから走り寄ってくる足音が聞こえる。振り向くと男の姿。手には、銀色に光るものが握られている。おそらく鋭利な刃物だ。男は俺の目の前にそれを突きつけた。その後、男の攻撃を、俺がどうかわそうとして格闘になったかは判然としないが、気が付くと、俺の体にはナイフが食い込み、強烈な痛みが俺を貫いていた。
 そこで目が覚めた。汗をびっしょりかいている。もし、この夢もまた現実になるというのなら、自分は明日、殺される。恐怖で全身が震えた。
 しかし俺はすぐに頭を切り替えた。俺には未来を予知できるというアドバンテージがある。何とかできるはずだ。
 絶対に殺されてたまるか。そう心に誓い、すぐに護身用の折り畳み式ナイフを用意した。これをポケットに忍ばせ、翌日を迎えた。
 仕事を終えると、もう暗くなっていた。夢で見たのは夜の光景だ。駅から自宅へと向かう夜道の人通りは少ない。大通りを曲がり、薄暗い裏通りに入ったとき、それは起こった。
 ひたひたと、背後から誰かが走り寄る足音が迫ってくる。昨夜の夢の通りだ。心臓の鼓動が早まる、冷や汗が背中を伝う。ポケットの中のナイフを震える手で握りしめる。
 足 音は、俺のすぐそばで止まった。
「あの、ちょっとあんた」
 少し息を切らした男の声が聞こえた。脅すような口調ではないが、声にだまされてはいけない。これは俺を油断させるための罠だ。一瞬の逡巡が命取りになる。こちらから先手をとって仕掛けなければ。
 ポケットからナイフを取り出し、刃を開き、勢いよく体を反転させた。目の前に男が立っている。男の手元で、街灯を反射して何かが銀色に光った。
「おい、何をするんだ!」
 男は叫んだ。俺は必死で手に持ったナイフを突き出した。

「刑事さん、確かに刺したのは俺だよ。あの男、道にシルバーのスマホを落としたんだ。それを渡してやろうと思って走り寄って声をかけただけなんだよ。そうしたら、何を勘違いしたのか、いきなりナイフを振り回してきたんだ。取り上げようとして揉み合っているうちに。……こっちも必死だったからね。……で、あいつ、どうなったの。……死んだって。……もちろん正当防衛だよな」
(了)