第15回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 好きなのは 杜貴弓


第15回結果発表
課 題
勘違い
※応募数275編
選外佳作
好きなのは 杜貴弓
好きなのは 杜貴弓
「まり! まりぃぃぃ‼」
私の愛しい人、みつるは憎きストーカーを抱きかかえ、まるで大切な者をこちらの世界へ呼び戻すかのごとく、必死に叫んでいる。奴の腹部は赤く染まり、みつる自身も赤い汚れがべったりとこびりついているが、それを気にしている様子はない。
私はその光景を、先が赤黒く染まった包丁を手に、呆然と立ち尽くしていた。
私は間違ったことをしていない。それだけが頭の中で反響している。
みつると初めて会ったのは大学での講義。上京したてで不安そうな、線の細くて可愛らしいその姿が心配になり、声をかけたのがきっかけだ。それ以来仲良くなり、都会で一人きりは危険だということで、しかし彼の負担にならないよう、こっそり帰り道などを見張っていたり、家に差し入れを置いたり、影で支えていた。
そんなある日のこと。調子が優れないようで聞いてみたところ、ストーカーで悩んでいると相談を受けた。私はそいつが許せなかった。みつるをここまで追い詰めるなんて。絶対に犯人に制裁を加えてやろうと決意した。
犯人を捕まえようと監視を強化したところ、奴が付きまとわっているのが分かった。みつるは優しいから困った顔一つせず、笑顔の仮面を被り、奴の機嫌を損ねないよう接している。それに気付かずベタベタと馴れ馴れしく接するのを、私は腹の底が熱くなり、頭が沸騰しそうなほどの感情で見ていた。
私は奴がみつるに対してとんでもない行動をするのを見越して、武器をバッグに忍ばせた。みつるを守るためとはいえ、銃刀法違反なのは理解している。ここまで警察に職務質問をされなかったのが奇跡だろう。いや、これは神様が私にみつるを守るように導いてあのかもしれない。
そうして、今日。
とんでもないことに、奴がみつるをラブホテルに連れ込もうとしたのだ。優しいみつるが断れないのをいいことに、なんて奴だ。
考える間もなく、身体が動いた。
私はバッグから武器を取り出し。
奴をこの手で処刑したのだ。
邪魔者は排除した。喜んでくれると思ったのに。
「はるみ‼ なんでこんなことしたんだよ‼」
「……‼」
思わぬみつるの怒声に、私の身体は硬直した。付き合って三年。ここまで激高する彼を見たことがない。
「だ、だって、ストーカーを」
震える声で、何とか言葉を絞りだす。それは彼の神経を逆撫でしたようで。
「ストーカーは君だろ‼」
そんな暴言を吐かれた。
私の頭は真っ白になった。なんでそんなことを言うの。今まで尽くしてきたのに。私より可愛いからって、そんな女を選ぶの。私の内側から爆発的な感情が押し寄せてきた。到底抑えられない。奮える手で包丁を握りしめ、私は喉が痛くなるほど言葉を吐き出した。
「そんなにそいつのことが好きなら一緒に死ね‼」
腕を振り上げ、彼の首筋に包丁を刺した。彼は愕然と目を見開き、奴と折り重なるように倒れた。血と血が混じり合っている。遺伝子同士が組み合わさるそれは、まるで愛の営みのようだ。最期まで見せつけてくる。気に食わない。私は奴を彼から引き離した。
(了)