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第3回「おい・おい」佳作 ランニングシューズ 絢都りん

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おい・おい
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結果発表
佳作

ランニングシューズ
絢都りん(宮城県・23歳)

 

「ほんとに大丈夫?」
 不安げな私の問いかけに最近ジムに行ってるからと母は答える。父は心配ご無用とでも言わんばかりの表情で自信満々に頷いた。「打ちっぱなし」をしているから問題ないそうだ。
 私たちは家から少し離れた、とあるお寺に来ていた。そこは本堂までにかなりの石段があり、昨年還暦を迎えた両親と話し合いの末、運動も兼ねて初詣に行くことになったのだ。
 石橋を叩いて渡るが座右の銘の私は二人に杖の購入を勧めた。すると二人は顔をしかめながら首を横に振るので、一抹の不安を抱えながら私は一段目に足をかけた。
 それから数十分後。
「母さんちょっと待ってー。父さんまだあんなところにいる」
 母は、強かった。
 ジムでの運動の成果がそのしっかりとした足取りに如実に表れていて、ペースが落ちることもなく、気づけば私よりも前を歩いている。
 一方の父。悲しいかな、父の姿は早々と私の視界から消えていった。ペース配分を誤った長距離ランナーのように最初こそ調子は良かったものの、すぐに足取りは重くなった。後方の方、どこかに父の自信が落っこちています、ご迷惑おかけしてすみません。石段を上りきった頃には満身創痍とはかくのごとし、といった具合で父は膝に手をついて肩で息をしていた。
 なんとか家族三人で登り切ることに成功し、その達成感は例年の初詣よりも確実に大きく、同時に母の運動習慣の偉大さと、父の運動不足や足腰の衰えをありありと伝えてくれる、実に良い機会だったように感じられた。
 運動してんだけどなあ、と帰りの運転中ひとりごつ父。
 クラブを握ったこともない私にとってゴルフというスポーツ、中でもコース上でのプレーではなく打ちっぱなしの運動量がどれほどなのかは判然としないが、少なくともジム通いの母の方が、老いへの抵抗力が強いのは間違いないだろう。
 思案の末、私は一つの結論に辿り着いた。
「父さん、とりあえずランニングから始めてみよ」
 翌日、父と靴屋へ向かった。ナイスお正月! お店には走りに特化したイカしたシューズたちが初売り価格で整然と並んでいるはず。私は意気揚々と入店した。付き添いなのに。
 しかしながら、貴重な休みを使ったこの外出は徒労に終わった。しばらくして父の姿は予想外の場所で発見された。
 父がまじまじと眺めていたのは、ゴルフ用シューズだった。
 私は新年のおめでたい雰囲気に似合わない嘆息をして、一足先に店を後にした。
(了)