第3回「おい・おい」佳作 小さくなったおばあちゃん 尾野瑞歩


佳作
小さくなったおばあちゃん
尾野瑞歩(神奈川県・54歳)
小学生の頃の私は、お正月におばあちゃんの家に行くのが楽しみだった。お正月の二日に親戚が集まるのだ。
おばあちゃんはねずみ色の和服を着て、白い髪をお団子に結って、いつも笑顔の優しい人だった。
なんでも江戸時代から続く商家の出らしく、若いときからおっとりと穏やかな人だったようだ。母もきょうだいのおじさんもおばさんも、あまり怒られたことがないらしい。
末っ子である母が結婚して家を出てから一人暮らしだったが、すぐ下の階におじさん夫婦が住んでいて、不自由なことはないようだった。
清々しく若松が飾られた門をくぐり、急な階段をのぼって二階に上がると、そこがおばあちゃんの家だ。しょっちゅうおじさん夫婦が様子を見に来るので、引き戸にカギはかかっていない。
引き戸をガラガラと開け、「おばあちゃん、来たよー!」と母と一緒に声をかける。
長い廊下の向こうからおばあちゃんが現れた。手に赤いチェックの布を持っている。しかし突然立ち止まり、眉間にしわを寄せ、怪訝そうに、
「どちら様?」と言った。
「え……」
こういう場面をテレビでは見たことがある。話にも聞いたことはある。ついにそのときが来たのだ。
母は「末っ子の澄江よ!」と気丈に言ったが、声が上ずっていた。
おばあちゃんの持っているチェックの布を指さして「それ何?」と聞いた。
「こたつ掛けなんだけど、焦がしてしまったから、繕いでもしようかと思って」
「なんで焦げたの? そんなの捨てちゃいなさい!」
母がキンキンと大きい声を出した。
おばあちゃんはもったいないとかなんとか言っていたが、母は部屋にずかずかと入り、こたつをひっくり返した。少し焦げくさい。こたつを廊下へ運び出し、布団を畳んで紐で縛った。その間ずっと母は無言だった。おばあちゃんのほうを見もしなかった。今夜親戚が集まるので古いこたつを出したのかもしれない。
おばあちゃんは、自分の家なのに居場所がないようで、隅で小さくなっていた。
今まで見たことのない小さなおばあちゃんだった。
その夜は誰かが持ってきたホットカーペットにみんなが座って新年会をした。
大人たちはお酒が入って賑やかだった。おばあちゃんは子どもや孫たちに囲まれていたけれど、やっぱりすこし小さかった。
(了)