第3回「おい・おい」選外佳作 二年参り 矢吹純子


二年参り
矢吹純子(東京都・67歳)
年末は夫の実家に帰省する。
結婚したばかりの頃は、お義母さんと夫、わたしの三人で二年参りをした。
初めて「二年参りに行きましょう」と言われたときは、二年間毎日お参りし続けるのかとおののいたが、大晦日の夜に家を出てお参りし、零時をまわって家に帰ることを二年参りと言うのだと知った。
神社に厄を移した人形(ひとがた)を納める習わしも知った。
NHKの『紅白歌合戦』が終わると、ダウンを着こむ。外は雪もちらつく寒さなのだ。
神社まで十五分――田舎の住宅街は暗くて人気(ひとけ)がない。三人で、除夜の鐘と遠い港の船の汽笛を聞きながら歩く。
たどりついた境内には人が大勢いて、広場では火が焚かれている。神棚から外したしめ縄は、消防団の若者が炎の中にくべてくれた。火の粉が夜空に舞い上がる。焼かれたスルメのいい香りが漂っている。
自宅近くの神社のどんと焼きは、ずいぶん前からなくなってしまった。環境問題があることはわかっているが残念でならない。ここで火にあたり、体も心も温められて幸せな気持ちになってから、本殿前で新たな一年が良い年でありますようにと祈る。
わたしは二年参りが好きだ。
晩酌でお酒が入ったお義父さんはもともと深夜のお参りをしなかったし、お義母さんも膝の具合が悪くなり、しだいに夫と二人で出かけるようになった。
ところが夫も深酒して寝てしまう。お義母さんは「行かなくてもいいよ」と言ってくれたが、極寒の中、わたしは出かけた。
境内で火にあたり、神主さんに家族と親戚から預かった九枚の人形を渡した。人の形の小さな紙とはいえ、厄を新年に持ち越したくなかった。
無事にお参りをすませたが、帰り道、どこかで曲がる角を間違えた。まるで方角がわからないのだ。黒々とした家並が続くばかりで、車も人も通らない。どんどん不安になってくる。夫をスマホで何度も呼び出すが、熟睡しているのか出ない。スマホに住所を入力してなかった。星も月もない。痛いほどの寒さが指先から体に浸み込んでくる。一一〇番しようかと考える。いや、待て、「わたしがどこにいるか教えてください」とは言えない。落ち着け、帰省で降りた高速バスのバス停はスマホのマップにあるはず。バス停まで行けば、そこから家への道はわかる。
こうしてわたしは長い二年参りを終えて、家に帰りついた。
その後、夫の実家の住所をスマホに入れた。
(了)