公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

第3回「おい・おい」選外佳作 老いの先生は猫 しましま

タグ
おい・おい
投稿する
結果発表
<選外佳作>

老いの先生は猫
しましま(静岡県・57歳)

 

 昨年、我が家の愛猫が虹の橋を渡った。
 18年と6か月。
 出張が多かった夫よりも、長い時間、一緒にいてくれた子。
 ペットロスとはこういうことかと、体に空いた穴を埋められない毎日を送りつつ思ったことがある。
 それは、見事に「老いる」ということをみせてくれたなということ。
 だって……生まれてから1ヵ月くらいで我が家の子になって、小さな小さな子猫だったのに、いつの間にか息子の年齢を追い越し、私たち夫婦の年齢をも超えて、とうとう先に逝ってしまったんだから。
 
 猫は1歳で人間の18歳くらいになる。
 2歳で24歳、3歳で28歳、5歳で36歳、10歳で56歳、11歳で60歳。
 猫年齢の早見表で見ると、うちの子は88歳と半年だから猫としては長寿だ。
 長寿だったからこそ、「老いて」「命尽きる時」まで、すべて赤裸々にみせてくれた。

 ふっくらと大きな猫だったけれど、次第に痩せてきて、ご飯をえり好みするようになった。
 お散歩が好きだったけれど、長い時間歩かなくなった。
 階段をテンポよく降りられなくなって、最終的には自力で降りられなくなった。
 目が見えていないようだった。
 歩くのがつらそうになった。
 ご飯を食べなくなった。
 自分で歩けなくなって、トイレのお世話が始まった。
 大好きなお水を飲まなくなった。
 しゃっくりのような痙攣をおこすようになった。
 呼吸が大きく、飛び飛びになった。
 大きくあえぐような呼吸をするようになった。

 そして、家族全員がいるのを待っていたかのように、私の目をしっかり見つめて、「じゃあ行くよ」と意思を持ったように体をグイっと起こして逝った。

 老いるって残酷だ。
 老いらせているのは何物でもない、自然の摂理で。
 止めたくても止められなくて。
 
 老いるということ、死ぬということ。
 その残酷で、でも美しくて、どうあがいてもやってくる命の果てを、こんなにも小さくて愛らしい猫という動物がしっかり教えてくれた。
 亡骸の顔を見たとき、満足そうに、誇らしげにも見えて、「老いるってこういうことだ、死ぬってこういうことだよ」って言っているように感じた。
 愛猫の死で、「老いる者」「老いられる者」を考えるのもおかしいなと思ったけど、老いと死を見せつけてくれた我が家の猫に、心から本当に感謝している。
(了)