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第3回「おい・おい」選外佳作 めぐるめぐる 浅葱夕葉

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おい・おい
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結果発表
<選外佳作>

めぐるめぐる
浅葱夕葉(広島県・30歳)

 

 世間一般に習い、盆正月は親戚が集まる。祖母の家に、母と姉妹、その子どもたちと、更にその子ども、多くて四世代十五人ほどが一堂に介する。多少形式を変えつつ毎年続く行事。物心つく前から、恐らく皆勤賞だと思われる私も三十路になった。
 いつの間にか、子どもたちはカルタや坊主めくりをしなくなった。両親と叔父叔母たちの話題は子育てから健康の話になった。御年九十歳の祖母は、食べる速度はゆっくりになったものの、一同の中心に座っている。
 数年前ではあるが、祖母が集まりを楽しみにしていることが分かるエピソードがある。年の瀬も迫る頃、帰宅すると母が「今日、ちゃあちゃん(我が家における祖母の呼称)、バスで百貨店行って、マニキュア買ってきたんだって」と言った。祖母は皆に会えるのが楽しみで、お洒落をしたくて、百貨店の一階の化粧品売り場で新しいマニキュアを購入したらしい。我が祖母ながら、なんて可愛いんだ。胸がキュンとした。
 当日、祖母の爪にはペールベージュのカラーが艶めいていた。田舎に移住した叔母夫婦や、海外旅行をした従兄弟の話に質問をしながら参加していた。私が知る限り、祖母は好奇心旺盛な人だ。一緒にハウステンボスに行ったとき、ビビる私と妹をよそに、複数人乗りの自転車を漕いで一番はしゃいでいた。
 今年のお盆、祖母は静かに食事をしていた。私以外の孫たちは仕事などの事情で参加出来なかった。親たちがスポーツや健康について喋る速度と、祖母の食事する速度が乖離していて、なんだか少し寂しいような気持ちになった。
 同年代の人と比べると元気だと思っていた祖母も、私たちと同じように少しずつ変化しているのだと、当たり前のことを意識した。人の話に目を輝かせて、前のめりに聞いていた祖母は、いつの間にかいなかった。別に、今の祖母がダメな訳じゃない。静かな祖母が嫌いな訳でもない。変わっていくことは当たり前なのに、今の祖母が祖母だと事実を飲み込むには、少し胸につかえる。
(もっと会いに来よう)
 今更ながら、そう思った。今の祖母と、少しでもお喋りを楽しめるように。
 先日、駅に新しくできたお店でお菓子を買って、祖母の家に行った。
「若い人は、ちゃあちゃんが知らんものを買って来てくれるね。美味しかった」
 祖母が喜んでくれて、とても嬉しかった。マニキュアは少し剥がれていたけれど。また、祖母が食べたことのないものを買って行きたいと思う。
(了)