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第50回「小説でもどうぞ」落選供養作品

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編集部選!
第50回落選供養作品

Koubo内SNS「つくログ」で募集した、第50回「小説でもどうぞ」に応募したけれど落選してしまった作品たち。そのなかから編集部が選んだ、埋もれさせるのは惜しい作品を大公開!

今回取り上げられなかった作品は「つくログ」で読めますので、ぜひ読みにきてくださいね。


【編集部より】

今回はもりさつきさんの作品を選ばせていただきました!

主人公の学生・須川は靴箱に入っていた手紙を、クラスメイトの中西に見つかってしまします。放課後、体育館裏で待っていると書かれているものの、差出人は「T」としか書かれていません。

須川には手紙の差出人に心当たりがあったものの、放課後に呼び出された場所へ行くとそこには……。

最後まで読んでから見返したタイトルの良さに、しみじみしました。甘酸っぱい青春小説を皆さんも楽しんでみてください。

惜しくも入選には至りませんでしたが、ぜひ多くの人に読んでもらえたらと思います。また、つくログでは他の方の作品も読むことができますので、ぜひお越しくださいませ。

 

課 題

まちがい

パフェ代は折半で 
もりさつき

「マジかよ、須川」

 やべ、と思うが遅く、背後から覆い被さってきた中西に靴箱に入っていた手紙を見つかった。

「まさかラブレターってやつ?」

 中西の冷やかしに、にやつきを顔に貼り付けたクラスの面々が瞬く間に寄ってくる。うるせー、といなしながら教室へ続く階段を上ろうとしたとき、視界の端に隣のクラスの寺居玲の姿が見えた。

 視線を動かせないでいると、だが彼女はすぐに踵を返し行ってしまった。姿が見えなくなった後も彼女のふわりと翻ったショートボブの毛先が目の裏にいつまでも残った。

「放課後、体育館裏で待ってるって」

 手紙は一瞬で自分の手を離れ、今では教室中を駆け巡っている。中西の声で待ち合わせ時間と場所を知った。

「差出人は?」
「〝T〟だってよ! 誰だよ!」

 中西の声が教室中に響く。つい手紙を取り返す手が乱暴になる。

 放課後になって、野次馬の人垣を掻き分け、待ち合わせ場所に向かった。
 何度か遠回りをし、誰もついて来ていないことを確かめる。結局いつも最後には優しい中西のことを思うと、頭を掻きむしらずにいられない。体育館裏が死角で良かった。ひんやりとした湿った空気に刺されながら思う。

 姑息な自分の姿に耐えきれなくなりそうな頃、軽快な小走りが聞こえた。咄嗟に振り返った瞬間、胸が殴られたように跳ねた。そこにいたのが戸越叶恵だったからだ。

「なんで須川君がいるの?」

「何でって、そっちも何で?」
 しどろもどろな俺の問いに戸越の眉根が深い峡谷をつくる。

「疑問を疑問で返さないでよ」
 少しずつ後ずさりする足が、戸越の戸惑いが本物であると物語っている。そのときだった。

「ごめん、カナ! わたしのせいなの!」

 戸越の肩越しに見慣れた寺居の丸いショートボブが揺れるのが見えた。

「手紙入れる場所まちがっちゃったの! 須川君と中西君の靴箱隣同士だから」

 寺居はそう早口で言うと戸越に向かって勢いよく頭を下げた。それから互いの瞳の中に何かを探しているかのように二人の視線が重なって止まる。

「なるほどね」
 やがて腰に手をやり、身体を折り畳むようにして大きく息を吐いた戸越は、だが顔を上げたときには随分晴れやかな顔をして寺居に言った。
「パフェで手を打つ。駅前のじゃダメ。渋谷の、雑誌に載ってたとこのやつ。もちろん玲のおごりね」

 戸越に人差し指を向けられてにやりとされた寺居は激しく頭を上下させた。
「じゃあね、須川君。玲とちゃんと話して」

 反応するよりも先に来た道を戻って行ってしまった。さて、と向き合う。寺居に誠心誠意謝らなければならない、が、どうしても気になっているさっきの一言の意味を尋ねずにはいられず、

「さっき、何であんな嘘ついたの? まちがいな訳がない。だって手紙を移動させたのは俺だ」

 寺居は驚く素振りを見せず、真っ直ぐ俺を見返すと、
「知ってる。わたし、本当は見てた。須川君が中西君の靴箱から手紙を抜くとこ」

 鋭い視線がまるでこちらを試すように光る。まずい。俺はひとつ咳払いをし、呼吸を落ち着かせて言った。
「ごめん。朝、寺居が中西の靴箱に手紙を入れるのを見つけて、告るんだと思ったら勝手に身体が動いてたんだ。どうしても阻止したくて、中西の靴箱から手紙を自分の靴箱に移動しました」

「それ、まちがってる」

 え、と上擦った声で返す俺に、寺居は「わたしは中西君に告らない」と言った。

「マジか。え、じゃあもしかして」
「うん。中西君にここで告白しようとしてたのはカナ」

「あ、戸越も〝T〟か。何でイニシャル?」
「名前で構えられて来てくれなかったら嫌だってカナが」

 思わず脱力して情けない声が身体の真ん中を通って出た。
「やべえ、俺、戸越に謝んなきゃ」

 そのとき「須川君は!」と突然寺居が声を張った。
「手紙を移動させてどうするつもりだったの?」

「それは……中西には悪いけど、俺、ここへ来て寺居に好きだって言いたかったんだ」
 思い描いていたものとは程遠い告白になったことに狼狽する俺を探るように覗き込んでいた寺居の耳が、やがて先まで赤くなっていった。
「俺、もしかしてタイミングもまちがったかな」

「ううん。違うの、実はね」
 寺居は小さく息を吐くと、自分の細い首に両手を回して続けた。
「わたし、隙あらばカナの手紙をやっぱり須川君の靴箱に入れ直そうと思って、だから今朝靴箱に戻ったの」

「え、何で?」
「須川君に告白したかったの。カナには申し訳ないけどわたしも同じ〝T〟だし、入れまちがったことにすれば、なんて。だから先にまちがいを起こそうとしてたのはわたしの方なんだ」

「マジか」
「マジです」

 全身が脈打つように揺れていた。思い切って伸ばした手で寺居の指先に触れると、好きがいっそう暴れた。
「あのさ、渋谷へは俺も一緒に行ってもいいかな? 戸越に一緒に謝ろ」

 寺居がまた上下に何度も首を振り、「ありがとう」と小さく言った。
「まちがいを起こした罰も一緒に当たってくれる?」

 そう言ってはにかむ寺居に手を握り返されただけで、これまで絶対的だった彼女との境界がぐにゃりと曖昧になった。毛先も熱も感触も、近づけばいっそう愛おしさが増して、言葉はどんどん溶けて崩れていった。

(了)