中村勘九郎・七之助の春暁歌舞伎2026が府中で開幕、満員の劇場に歓喜


22年目を迎える歌舞伎巡業、府中で華やかに幕開け
中村勘九郎と中村七之助が一門と共に全国を巡演する「春暁歌舞伎特別公演2026」が、3月7日(土)、府中の森芸術劇場 どりーむホールにて華やかに幕を開けた。開演前から多くの観客が詰めかけ、二千人を超える大劇場は満員となった。都心から足を運んだ観客の姿も多く、中村屋の舞台を心待ちにする高揚感が漂った。府中での公演は2年ぶりとなり、その期待の高さが客席の熱気からも伝わってくるようだった。
歌舞伎初心者も楽しめる、新しい観客との出会いの場
中村勘九郎・中村七之助による「春暁歌舞伎特別公演」は、今年で22年目を迎える巡業公演である。若き兄弟が中心となって全国を巡るこの舞台は、いまや中村屋の活動の大きな柱のひとつとなっている。もともとこの巡業は、「歌舞伎を初めて観る人にも気軽に楽しんでもらいたい」という思いから始まった。歌舞伎座のような大劇場に足を運ぶには、距離的にも心理的にも敷居の高さを感じる人も少なくないため、地方都市を巡り、歌舞伎の魅力を直接届けることを目的として続けられてきた。この日も舞台から「初めて歌舞伎をご覧になる方は?」と問いかけると、客席のあちこちから手が挙がった。こうした公演をきっかけに歌舞伎に興味を持ち、劇場に通うようになったという観客も多いという。
物語性と舞踊の妙が際立つ、常磐津作品を上演
今回の演目は『艶紅曙接拙 紅翫』と『墨塗女』である。巡業では長唄の舞踊が取り上げられることも多いが、今回は物語性のある常磐津の作品が選ばれた。舞踊の妙と役者の表現力が際立つ構成となっている。舞踊の前には恒例の「トークコーナー」が行われ、聞き手は吉崎典子アナウンサー。勘九郎と七之助がスーツ姿で登場すると、客席から温かな拍手が起こった。昨年の舞台を振り返る話題から、新婚となった七之助のプライベートにまで話が及び、場内には笑いが広がった。さらに観客からの質問に答えるコーナーも設けられ、舞台と客席の距離の近さは、この巡業公演ならではの魅力である。
江戸の風俗が蘇る『艶紅曙接拙 紅翫』、物売りたちの活躍が見どころ
『艶紅曙接拙 紅翫』には、江戸の町に生きるさまざまな人々が登場する。年齢も性別も職業も異なる人物が次々に現れ、舞台はまるで江戸の町の風景そのもののように賑やかな広がりを見せる。なかでも特徴的なのは、虫売りや朝顔売り、団扇売り、蝶々売りといった物売りたちである。江戸の町では、こうした商いをする人々が日常的に町を行き交っていた。舞台上では、それぞれの売り声や仕草が踊りの中に取り入れられ、江戸の生活の息遣いが生き生きと描き出される。踊り手は中村いてう。怒り上戸や泣き上戸、笑い上戸といった酔態を表現する踊りや、歌舞伎の名場面を取り入れた趣向など、見どころは実に多彩である。弟子たちが物売りなどに扮して登場することで舞台にはさらに賑わいが生まれ、大勢の人物が行き交うその様子は、まさに江戸の町の縮図のようであり、まるで一つの風俗画を見るような楽しさがあった。
78年ぶりの演目『墨塗女』、女の複雑な心理を描く舞踊
締めを飾る『墨塗女』は、歌舞伎役者が演じるのは実に78年ぶりとなる演目である。『艶紅曙接拙 紅翫』とは対照的に、女の心理を描く物語性の強い舞踊である。振付を中村屋ゆかりの猿若流・猿若清方が手がけているのも話題の一つ。物語の中心となるのは、一人の女の複雑な心情であり、女の内面に潜む嫉妬やしたたかさ、そしてどこか滑稽さを帯びた人間味が、舞踊を通して浮かび上がる。七之助は、このしたたかさを秘めた花野を演じている。女方としてのしなやかな所作に加え、身体のわずかな動きや表情の変化によって、女の心の揺れを丁寧に描き出す。舞踊でありながらも、まるで芝居を観ているかのようなドラマが展開される。勘九郎が演じるお人好しで真面目な大名の踊りには、手先足先の美しい動きだけではない魅力があり、踊りの中で描かれる物語に観客を引き込み、舞台の世界へと一気に引き寄せてしまう力がある。花野、大名、太郎冠者という三人の関係が生み出す間合いも、この作品の見どころであり、時事ネタを踊りのエッセンスとして取り入れるなど、遊び心のある演出も見られた。
全国11箇所での巡演、歌舞伎への入口として魅力的な舞台
伝統を守りながらも、常に新しい表現を取り入れる中村屋の芸の魅力が、この公演に表れている。常磐津舞踊二題を通して、中村屋の芸の奥行きと美しさが改めて示された。華やかな江戸の風俗を描いた『艶紅曙接拙 紅翫』、そして女の心理を描く『墨塗女』。対照的な二つの舞踊が並ぶことで、舞踊という芸の幅広さも浮かび上がる。今回は3月7日の府中公演を始めに、全国11箇所を訪れる。何度観ても飽きない面白さが詰まった宝箱のように多彩な魅力を秘めた舞台である。
出典: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000833.000041063.html