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第16回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 魔法闘女のハッピーエンド 昂機

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小説でもどうぞ
結果発表
第16回結果発表
課 題

悲劇

※応募数424編
選外佳作
 魔法闘女のハッピーエンド 昂機

「ご都合主義のハッピーエンドってムカつくよね」
 彼女は確固たる口調で地を蹴る。パニエったっぷりのスカートが夜空になびいた。彼女のマジカルステッキが熱光線を打つ間、僕は心の中で反論する。都合が良かろうが悪かろうが、幸せになった方がいいじゃないか。
 きゅぷぃん! 甘い音が鳴り、巨大飴玉を降らせ敵を圧殺する彼女の秘技が炸裂した。高層ビルの大きさほどもあるゾンビは腐った黒い血と臓物をまき散らし、本当の死を迎える。ネオンあふれる街が一瞬にして血塗れに変わり、逃げ惑っていた人々は安堵の息をつき、こびりつく腐臭に顔を歪めた。
 魔法闘女・ミルクベリィは今日も世界を守るために奔走する。昼は女子高生として健全に学業に励み、夜はその力でゾンビを粉砕する。死んでも死ねないゾンビに終わりを与えられるのは彼女の魔法だけだった。
「闘いは辛くない?」
 三日連続で巨大ゾンビとの死闘が繰り広げられた夜、彼女にそう尋ねた。僕は彼女を魔法闘女だと知る、友人と呼べるであろう数少ない存在だった。気難しい彼女は学校にもうまく馴染めず、話相手と言えば魔法の力を与える妖精、それと僕くらいだ。
「そういうこと聞いちゃうの?」
 彼女は不服そうな視線で唇を尖らせる。
「辛くないって言えば嘘になるよ。宿題したいのに邪魔されるし。でも私がやらなきゃ」
「守っている人たちに文句を言われても?」
 僕は意地の悪い質問を重ねた。
「私には今のやり方しかできないもの。知ってるでしょ?」
 ベリィの魔法は万能ではない。戦闘にのみ特化しており、倒したゾンビの巨大な肉片は放置される。腐臭と有害ガスを放つその肉の後始末は社会問題となっており、それはそのまま世間から彼女への不満として表れていた。
「人のこと心配してないで、君も頑張ってよ」
 彼女の笑みを満月が照らしていた。
 それから半年経った頃、闘いに終止符が打たれようとしていた。ある研究所でゾンビが作られていることをベリィは突き止めたのだ。
「もう少し後でいいんじゃないか。敵がどうするか、しっかり見定めてから……」
 時期尚早だ。しかし僕の提案を振り切り、彼女はすぐさま研究所に向かってしまった。
「野放しになんてできない。私が行かなきゃ」
 闘いは今までの比ではなく激しいものだった。敵は改造したゾンビを次から次へと作り出し、ベリィを倒そうと躍起になった。彼女は何度も傷つき、血を流し、ステッキには腐肉がこびりついた。追い詰められた敵は研究所を爆破させ、ゾンビウィルスを世界中にばらまこうとする。ベリィは最後の力を振り絞り、ウィルスを自らの体にすべて取り込んだ。そのせいで彼女は自ら死を選ばなければならなかった。このままではウィルスが体を支配し、彼女自身がゾンビになってしまう。その前に自らの魔法で終わらせるしかない。でなければ世界は救われないのだ。彼女は震える手でステッキを掲げ、最期の魔法を──。
「やっぱり死なせるのはやめましょう!」
 担当編集者の声に、僕は顔を上げる。手元のネームでベリィは独り瓦礫に横たわり、死を選ぼうとしていた。
「可愛らしい見た目でシリアス路線を描くのがいいって言ったのはそっちじゃないですか」
「いやあ、人気はそこまで出なかったですし。最後も湿っぽいのは読者ウケ悪いですよ」
 カチンとくるが、言われたことはすべて事実だ。新人漫画家としてデビューし、必死の思いで描いてきたにもかかわらずもう打ち切り。最終回をどうすべきか悩んでいた。編集者の言うとおり、悲劇ではなく、大団円を迎えた方が僕自身も好みだ。
 僕は今までの日々を思う。原稿に行き詰まると、僕は何度もベリィと対話した。彼女の人となりを掴み、漫画をより面白くするために。ただのキャラクターを僕は本当の友人だと感じていた。彼女に生きてほしい。どうせ打ち切りだ、手っ取り早く奇跡を起こし……。
 誰かが僕の手を掴む感触がした。
「そういうの嫌いって言ったじゃん」
 脳内でベリィが話しかけてくる。今までそうだったように。
「自分で歩いた道だもん。やり切れて、私は凄く幸せなんだよ」
 煤や血で汚れた瞳が、必死に訴えかけてくる。指先の力は弱々しかった。可愛らしいネイルは剥がれ、パニエは破れて泥だらけだ。けれどその信念は、何よりも鋭く強かった。
 ああ、君はそういう人だったね。
「何か言いました?」
 編集者が首を傾げる。僕はネームを置いた。
「彼女の結末は変わりません」
「いや、でもそれだと……」
 ベリィと僕は微笑んだ。
「これが僕らのハッピーエンドです」
(了)