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第16回W選考委員版「小説でもどうぞ」発表 高橋源一郎&森絵都 公開選考会

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小説
小説でもどうぞ
結果発表

選考会では両先生が交互に感想を言い合い、採点しています。作品の内容にも触れていますので、ネタ割れを避けたい方は下記のリンクで事前に作品をお読みください。

1951年、広島県生まれ。1981年『さようなら、ギャングたち』でデビュー。すばる文学賞、日本ファンタジーノベル大賞、文藝賞などの選考委員を歴任。

1968年東京生まれ。講談社児童文学新人賞受賞。2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞受賞。『カラフル』『みかづき』など著書多数。

ー第16回結果発表ー
課 題
悲劇
スラップスティック
なら、辻褄や細部は
目をつぶる
結末がコント
自戒を込めて△
―― 最初の作品は「痣」(玲瓏リンロン)です。

高橋養護施設に勤める「私」が主人公。施設には佐藤さんという人がいて、生き別れた息子に財産を譲りたいと言う。それで「私」は目印であるタトゥーをお腹に入れ、息子になりすまします。しかし、佐藤さんの死後、「私」は本当の息子とわかり、佐藤さんが財産を施設に寄付したため、父親も財産も失うという話です。
 最後のほうで二転三転するのが非常に上手だと思います。唯一の問題は、これは悲劇かということ。すべてを失っているので悲劇と言えば悲劇ですが、そこが微妙でした。しかし、それ以外はうまくできていて、評価は○です。

偶然が多く、ディテールに無理があるかなという部分はありますが、読後に膨らみがあり、味わい深い作品でした。よかったのは、「私」と佐藤さんに共通するものがあること。「人間は同じものを愛し続けることなんてできない」と言う「私」の考え方が、孤独な人生を選んだ佐藤さんとどこか通じるものがあるような気がして、決して偶然とは言いきれない何かを感じました。
 ただ、最後はなぜオルゴールだったのかなという部分があって、曲もわかりません。そこが引っかかりますので、△プラスとします。

―― 次は「英樹の悲劇」(齊藤想)です。

英樹は小さい頃から運が悪く、だんだん悲劇の度合いがエスカレートする。すると、政府から1週間ほど敵国に滞在せよとの命令が下され、敵国は経済破綻する。英樹には政府から無人島をプレゼントされてハッピーエンドと思いきや最後に……という話です。
 タイトルが面白く、ストーリー展開もテンポもよく、楽しく書けているとは思いました。ただ、誰でも思いつくような悲劇に終始し、独創性を感じませんでした。
 また、敵国に住んだらその国が経済破綻するのであれば、彼が生まれ育った国はなぜ無事なのかとかディテールがちょっと。結末はコントのようで、自戒を込めて△としました。

高橋コントというか、スラップスティックですよね。僕は矛盾には目をつぶりました。スラップスティックには辻褄や細部はどうでもいいというところがあるじゃないですか。僕は乱暴系と呼んでいるんですが、それはそれで認めようかなと。ただ、そうであれば逆に最後はもっと乱暴に振ってほしかった。なんでこんな終わり方なの?と思うような結末なら終始一貫していていいなと思いますが、最後は普通にロジカルなオチになっていて弱かった。△です。

―― 3番目は「迷惑駐車は許さない」(桝田耕司)です。

高橋いつも迷惑駐車をしている車がある。持ち主は強面のお兄さんで、老人は注意したけれど、返り討ちに遭う。それで老人は柴犬のポチにタイヤにおしっこさせる。反撃はできましたが、毎日おしっこをかけていたせいでタイヤが外れ、その車が突っ込んできて老人に当たるという話です。
 可愛い話なんですが、柴犬にポチとはつけないかな(笑)。「英樹の悲劇」のような乱暴系なら細部にはこだわらず、柴犬がポチでもいいんですが、この作品は細部にこだわるべきですね。△です。

老人の憤懣ふんまんやるかたなさも伝わりますし、迷惑駐車をしている金髪男の憎らしさも伝わってきて、復讐したい気持ちにも共感できますが、やはり細部ですね。この老人ならではの型破りの復讐の方法であってほしかった気がします。それとおしっこをかけ続けてもタイヤは腐食しないだろうという問題もあり、△止まりでした。

なんでもない話を
面白く読ませる
芸がある
本物とは何かと
考えさせられる
―― 4番目は「まりんの再生」(三山敦)です。

婚約者のまりんが事故で亡くなり、雄介とまりんが共同開発したAIまりんが残されます。そのAIまりんも壊れてしまう。雄介は復活させようとし、記憶にある理想のまりんを生み出そうとしますが、雄介にとってのまりんに近ければ近いほど本物のまりんから離れていく。なんとも言えない不条理な悲劇を描いた作品です。
 AIの話ではありますが、人間の弱さや曖昧さが伝わってきます。本物のまりんとはいったいなんだろうかと考えさせられました。長い余韻が残って面白かったです。
 ただ、最後に、まりんが「お墓で待ってるから」と言って1行空き、今度は「お墓まで私で我慢できる?」というセリフがありますが、これは一瞬、本物のまりんが帰ってきたということなんですかね。最後に謎が残ってしまったところが残念で、よい作品だったのですが、△プラスにしました。

高橋婚約者と二人でつくったまりんには「私」が知らない部分がありますが、一人で作ったまりんは全部わかっています。しかし、初期化すると二度と同じ人格にはならないように設計されていて、別のまりんになってしまうので初期化はしません。結果、自分だけのまりんが残されましたが、そのまりんといると本物のまりんの思い出が上書きされていくという悲しい話です。△プラスです。

―― 5番目は「厄年」(村山健壱)です。

高橋主人公は厄年です。岡田課長が「御守のおかげで本厄が無事に過ごせた」と言うので、その御守を譲ってもらいます。これが悲劇の始まりで、次々と不幸に見舞われ、最後はくも膜下出血になりますが、御守をお焚き上げをするとリハビリが急速に進みます。しかし、最後にどんでん返しがあり、それが本当の悲劇だったと。
 シャレてるというか意地が悪いというか、ありそうな話ではありますが、最後はきれいに収まっています。△プラスです。

文章が読みやすく、流れるようなリズムがあり、うまいと思います。ただ、御守をもらうという設定に違和感があり、どうしてもしっくりきませんでした。岡田課長が悪意を込めて御守をあげたのだとしたら、また違った方向のエンディングになったのかなと思いますが、ちょっと肩すかし感があり、△です。

―― 6番目は「ブローケン冷蔵庫」(夏ノふゆ)です。

冷蔵庫が壊れ、ある夫婦が新しい冷蔵庫を買いに家電量販店に行くと31万円でした。その冷蔵庫が家の階段を通らなかったらプラス1万円になるので、専門のスタッフに計測してもらい、ギリギリ入ると言われます。しかし、翌朝、同じ冷蔵庫が29万円で出ているのを知り、こちらに鞍替えし、搬入しようとしたところ、階段を通らない。結局、窓から搬入することになり、追加料金5万円を取られてしまうという話です。
 面白く読ませる芸があります。冒頭の「冷凍室にいる大量のイカが解凍されていた」で惹きつけられました。終始一貫してイカがすごくいい味をだしています。詳しくは書かれていませんが、義母からもらったイカがどれだけ彼を圧迫しているかとか、どれだけ飽き飽きしているかがひしひしと伝わってくる。ちょっとイカにツボを突かれまして、○です。

高橋イカで始まり、イカで終わっています。小さい悲劇ですが、この「小さい感」がいいですね。それに対して冷蔵庫が大きい(笑)。572リットルです。
「ミセチル」のコンサートもでてきます。ミスチルのもじりですが、「ニセチル」と思えるようになっていて、しかも、この「チル」は冷蔵庫の「チルド」ですね。芸が細かい。3センチの差で階段を通らないというのもいい。僕も○です。

道と自分を失う!
カフカを思わせる
不条理小説
リアルな話の場合、
設定の無理は禁物
―― 7番目は「通知」(池平コショウ)です。

高橋市役所の納税課から滞納している税金7万6000円を支払うよう言われ、主人公は腎臓の片方を10万円で売ります。手術痕が痛くて薬をもらいに行きますが、医者は手術のことも薬も主人公のことも知らないと言い、それから1週間、痛みに耐えていると、また通知が来て、税金の算定に誤りがあり、7万6000円を返すと。腎臓がなくなった分損というお話です。
 結末は上手ですが、パチンコ店で声をかけられて10万円で腎臓を売るのかっていうと、これはリアルな話ですから無理があります。いろいろ細かいところが気になりますので、△です。

作品全体に不穏な空気が漂っていて、大男の郵便配達人とか一種独特の雰囲気がでている作品だと思いました。封筒を開けるとき、中身をトントンと下に寄せてからハサミで切ったり、タバコをもらうときに手刀を切ったり、人物の律儀さがわかります。キャラクター作りの努力は感じました。
 ただ、作品全体として響くものはあまり感じられなくって、△プラスです。

―― 最後は「ホテル」(津沼夏之)です。

彼氏と別れて就活にも苦労している「私」が就職試験のために訪れた町で、到着早々迷子になるという話です。宿泊するホテルは見えていますが、どうしてもたどり着けない。ホテルの影を頼りに探し回って、最後にようやく雑貨屋らしき建物があり、気がつくとそこの店番として住み込むことになっているという摩訶不思議なファンタジーっぽい作品です。
 ホテルが見えているのにたどり着けないというシチュエーションがすごくリアルで、道を失うと同時に自分自身も見失っていくという切迫した状況も伝わってきて、面白く読みました。とても巧みな書き手です。評価は○です。

高橋一種の不条理小説。たどり着けないホテルということで、雰囲気がいい。「西野さんから話は聞いてたから」というかみ合わないセリフもいいですね。
 ただ一つわからなかったのが、この店はなんの店? フーゾク店ならホテルに行くよね。この店の奥がそういう場所なのか。それとこれは悲劇なのか。

現実に帰れなくなっているところは悲劇ですが、主人公はそれを受け入れています。だから、悲劇性を感じられないんですよね。

高橋面白い話でしたが、どうしても釈然としないところがあり、△プラスです。

―― 高評価続出で接戦でしたが、両先生とも○の「ブローケン冷蔵庫」を最優秀賞とします。

<総評>

高橋「ブローケン冷蔵庫」が頭一つ抜けていたと思います。日常生活の悲劇ですよね。日常生活は3㎝の違いで入れなくなったりする。この小ささがいい。小さいものが悲劇になるという着眼点がよかったです。

候補作はどれも面白く、一つ選ぶのは悩ましかったです。その中で「ブローケン冷蔵庫」は最初に読んだときから心惹かれるものがあって、とにかく私はイカに心を持っていかれてしまいました。