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第7回「小説でもどうぞ」選外佳作 占い師/ササキカズト

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第7回結果発表
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※応募数327編
選外佳作「占い師」ササキカズト
 俺はある評判の占い師の館に来ていた。霊視が出来るという噂の占い師だ。ショートボブの髪を紫色に染めた中年女性。洋風とも和風ともわからないそれっぽい服を着て、いかにもという雰囲気だ。
「学生さんよね。あなたの後ろにお爺様が二人見えるわ。お爺様はご存命?」
 来た。開口一番お爺様だ。まだどんなことを占って欲しいという話もしていない。爺さんが守護霊だとか言っておけば、死んでる確率が高いだろうし、もし生きていれば、ひい爺さんか先祖だって言えばいい。やはりあやしいな。
「父方も母方も、爺さんは元気です」
 俺は嘘をついた。もしも霊能力が本物なら、嘘くらい見抜けるだろう。
 父方の爺さんはまだ元気。実家の酒屋の経営者としてバリバリ働いている。だが母方の爺さんは亡くなっていた。親父が婿養子なので、俺はお袋の実家で育った。俺を可愛がってくれた爺さんは、俺が大学進学で家を出て間もなく病気で亡くなった。去年の出来事だ。
「お爺様が申し訳なさそうにしてるわ。謝っているみたい。あなた何か悪いことした?」
 出た。何か悪いことって聞き方。そりゃあ誰でも後ろめたいことの一つや二つあるものだ。きっとそれを聞き出し「それが原因だ」とか言って、向こうのペースに巻き込むのだろう。
「特に……何もないと思いますが」
 これも嘘だった。俺は今、隠し撮りをしている。眼鏡のフレームに小型カメラを忍ばせ、このやりとりをすべて録画している。インチキ霊能力を暴いてネットにアップしてやるつもりだ。きっとバズるに違いない。
「二人のお爺様のうち一人はあなたの守護霊。あなたを守ってくれている。あなたのお爺様と思ったんだけど……。もう一人が、変なのよね。……ごめんなさい、間違いかもしれないから忘れて。さて、今日は何を占って欲しいのかしら」
「実は、見てもらいたいものがあって……」
 俺は一枚の写真を見せた。偽物の心霊写真だ。アパートの部屋で自撮りした俺の背後に、ネットで適当に拾ってきた知らない爺さんの写真を合成してある。絶妙な薄さでなじませてあり、大学で映像制作を学んでいる俺の自信作だ。合成写真だと言われても白を切るつもりだが、向こうから爺さんが見えると言ってきている流れだ。この爺さんが見えたとか言ってくるかもしれない。
 眼を凝らして写真を見る占い師。赤いフレームの老眼鏡をかけて、眉を寄せながら写真をじっと凝視している。
 さあ、何と言ってくる? 録画はうまくいっているかな。俺は、さすがにドキドキしながら反応を待った。占い師が口を開く。
「ああ! だからなのね」
 来たか? この爺さんが見えていたと言い出すのか。
「だからさっき見えたんだわ」
 来た! 引っかかった。偽の心霊写真の爺さんを、さっき見えたと。これを俺の爺さんとでも言えば明らかなインチキだ。こんな爺さん赤の他人だ。
「笠智衆が見えたのよ」
「……りゅうち?」
「俳優の笠智衆さんよ」
 は……俳優のりゅうちしゅう?
「知らない?『東京物語』とか見たことない? 若いから見たことないか」
「と……東京物語」
「小津安二郎よ。あと『男はつらいよ』の和尚さん役とか」
 小津安二郎とか『男はつらいよ』、知ってはいるが見たことはなかった。
「あなたのお爺様は、笠智衆さんの写真を孫が勝手に使って、騙そうとしてすみませんって言ってたのね。だから笠智衆さんもイメージとして見えたんだわ。わたし間違いかと思っちゃった」
 俺、有名な俳優を知らずに合成してしまっていたのか。……恥ず!
「合成が上手ねえ。あと、その眼鏡のカメラで録画してるのかしら。インターネットとかにのせようと思っていたの? わたしは別に構わないけど、あなたが恥ずかしいでしょうね」
 本当だ。恥ずかしすぎる。
「占うまでもないわね。隠し撮り、ちょっとは後ろめたい気持ちあったでしょ。それ、お爺様の気持ちも入ってきているのよ。変なこと考えていないで、今のお勉強をしっかりとやりなさい」
「はい……すみませんでした」
 俺は反省した。映像を学ぶ者として、まずは『東京物語』と『男はつらいよ』を見よう。そしてあと、爺ちゃんの墓参りに、すぐにでも行ってこよう。そうしよう。
(了)