第7回「小説でもどうぞ」選外佳作 ハッピーライフ/ショウタイム
第7回結果発表
課 題
写真
※応募数327編
選外佳作「ハッピーライフ」ショウタイム
「ねえ見て見て」
頬をピンク色に染めたチカが、スマホを差し出してきた。
「これ、この前の高校の同窓会で撮った写真なんだけど、卒業から十年たった今、この中で一番の幸せを掴んでたのは誰だと思う?」
「わからない」
私は嘘をついた。わからないという返答は、考えを巡らせた結果、答えにたどり着けなかった人のものだ。私は考えてすらいなかった。
もお!と言って、チカがピンク色の頬を膨らませる。
でも仕方がない。チカと出会ったのは社会人になってからのことだし、写真に写っている人たちのことなんて私は知る由もないのだ。
「そうやってすぐに諦めるところが、アイコちゃんの悪いクセだよお!」
まとわりつかれた右腕から、チカの体温が伝わってくる。だいぶ仕上がっているようだ。
そういう私も、久々にハイペースで飛ばしたせいか、少し酔いが回り始めている感覚があった。最近はプライベートでも仕事でもゴタゴタの連続で、大好きなお酒とはすれ違いの日々が続いていて、今日はとことんまで飲んでやると決めていた。
とはいえ、あくまで今日の主役はチカ。私には多少なりとも彼女に付き合ってあげる義務がある。
「うーん、この人たちとか?」
画面をズームして、最前列で寝そべっている男の人たちを大きく映し出す。私は視点を変えた。チカが求めているのは解答なのだ。だから正解を出す必要はない。
「ブー!」
チカは腕を交差させて大げさに口を尖らせた。ほれみろ、とっても楽しそうだ。この調子で適当に画面をズームさせていけばいい。
「なんでそう思ったの?」
「いや、なんか目立ってるし……」
「確かに。でもそれって本人の能力とか資質とかっていうより構図の問題だよね。ほかの人たちが寝転がらないでいてくれるからこそこの人たちが目立てるの。つまり、そのポジションは別にこいつらじゃなくても誰でもいいわけ。だから目立っているからっていうのは理由にならないよ?わかる?」
「うん、わかる」
私はまた嘘をついた。だから能力も資質も知らないんだって!という反論をビールで流し込み、チカが吐き出し続ける持論をしばらく聞き流していた。でも、これが思ったより長くてなかなか終わらない。
まあ胃からものを吐き出されるよりはマシだけど、けして心地いい時間ではない。私は話をそらそうと、スマホの画面をずらした。
「え、これあんた?めちゃくちゃ気合入れ……」
「ピンポーン!正解!」
一瞬、部屋の時間が止まった。スマホの画面の真ん中には、明らかに気合を入れておめかししているチカが映し出されている。
「アイコちゃん、やればできんじゃん! 一番の幸せ者は私でした!」
は? 何言ってんだこいつは?
「いやいや、彼氏に浮気されて家飛び出して会社の同期の家転がり込んで居候かましている間に誕生日迎えてその同期に二人きりで祝ってもらってるあんたが一番の幸せ者ぉ~? だとしたらほかのクラスメイトはどんな人生送ってんのよ!」
「し、失礼な! 私にとっては!過程はどうあれ、アイコちゃんと一緒に暮らしてる今の自分が一番幸せなの! 誰が何と言おうと!」
ふっ、何言ってんだこいつは。やっぱり相当仕上がっているようだ。
「そっちの都合なんか知るか! とっとと新しい部屋でも男でも見つけて、私の平穏な一人宅飲みタイムを返しやがれ!」
「あ、アイコちゃん顔が赤くなってるよ。酔ってるの? それとも……」
にやにやしながら、チカがこちらを見ている。自分の頬が鮮やかに色づいているとは想像もしていないらしい。
「なんだかんだ言って、アイコちゃんも今の生活を続けていきたいとか思ってるんじゃないの?」
「はぁ?何言ってんの? 一秒でも早く終わらせたいに決まってるでしょうが!」
私はまたまた嘘をついた。 (了)
頬をピンク色に染めたチカが、スマホを差し出してきた。
「これ、この前の高校の同窓会で撮った写真なんだけど、卒業から十年たった今、この中で一番の幸せを掴んでたのは誰だと思う?」
「わからない」
私は嘘をついた。わからないという返答は、考えを巡らせた結果、答えにたどり着けなかった人のものだ。私は考えてすらいなかった。
もお!と言って、チカがピンク色の頬を膨らませる。
でも仕方がない。チカと出会ったのは社会人になってからのことだし、写真に写っている人たちのことなんて私は知る由もないのだ。
「そうやってすぐに諦めるところが、アイコちゃんの悪いクセだよお!」
まとわりつかれた右腕から、チカの体温が伝わってくる。だいぶ仕上がっているようだ。
そういう私も、久々にハイペースで飛ばしたせいか、少し酔いが回り始めている感覚があった。最近はプライベートでも仕事でもゴタゴタの連続で、大好きなお酒とはすれ違いの日々が続いていて、今日はとことんまで飲んでやると決めていた。
とはいえ、あくまで今日の主役はチカ。私には多少なりとも彼女に付き合ってあげる義務がある。
「うーん、この人たちとか?」
画面をズームして、最前列で寝そべっている男の人たちを大きく映し出す。私は視点を変えた。チカが求めているのは解答なのだ。だから正解を出す必要はない。
「ブー!」
チカは腕を交差させて大げさに口を尖らせた。ほれみろ、とっても楽しそうだ。この調子で適当に画面をズームさせていけばいい。
「なんでそう思ったの?」
「いや、なんか目立ってるし……」
「確かに。でもそれって本人の能力とか資質とかっていうより構図の問題だよね。ほかの人たちが寝転がらないでいてくれるからこそこの人たちが目立てるの。つまり、そのポジションは別にこいつらじゃなくても誰でもいいわけ。だから目立っているからっていうのは理由にならないよ?わかる?」
「うん、わかる」
私はまた嘘をついた。だから能力も資質も知らないんだって!という反論をビールで流し込み、チカが吐き出し続ける持論をしばらく聞き流していた。でも、これが思ったより長くてなかなか終わらない。
まあ胃からものを吐き出されるよりはマシだけど、けして心地いい時間ではない。私は話をそらそうと、スマホの画面をずらした。
「え、これあんた?めちゃくちゃ気合入れ……」
「ピンポーン!正解!」
一瞬、部屋の時間が止まった。スマホの画面の真ん中には、明らかに気合を入れておめかししているチカが映し出されている。
「アイコちゃん、やればできんじゃん! 一番の幸せ者は私でした!」
は? 何言ってんだこいつは?
「いやいや、彼氏に浮気されて家飛び出して会社の同期の家転がり込んで居候かましている間に誕生日迎えてその同期に二人きりで祝ってもらってるあんたが一番の幸せ者ぉ~? だとしたらほかのクラスメイトはどんな人生送ってんのよ!」
「し、失礼な! 私にとっては!過程はどうあれ、アイコちゃんと一緒に暮らしてる今の自分が一番幸せなの! 誰が何と言おうと!」
ふっ、何言ってんだこいつは。やっぱり相当仕上がっているようだ。
「そっちの都合なんか知るか! とっとと新しい部屋でも男でも見つけて、私の平穏な一人宅飲みタイムを返しやがれ!」
「あ、アイコちゃん顔が赤くなってるよ。酔ってるの? それとも……」
にやにやしながら、チカがこちらを見ている。自分の頬が鮮やかに色づいているとは想像もしていないらしい。
「なんだかんだ言って、アイコちゃんも今の生活を続けていきたいとか思ってるんじゃないの?」
「はぁ?何言ってんの? 一秒でも早く終わらせたいに決まってるでしょうが!」
私はまたまた嘘をついた。 (了)