#第34回どうぞ落選供養 #小説でもどうぞ Kouboさんからメールいただき今回の企画に投稿させて頂きます。 第22回「小説でもどうぞ」 募集の課題「祭り」に応募した短編小説です。 ________ タイトル 「心の祭り」 「今度は祭りにしようと思って」 Aくんはアゴにマスクを引っ掛けて、コンビニで買ったジュースにアルコールを入れたような類の缶酎ハイアルコール度9%500mlを飲みながら言った。 2023年5月9日13時晴れ、僕たち二人は公園の仕切りのついてないタイプのベンチに座って今度アップする動画の内容について打ち合わせをしていた。 「え、どういうこと?お祭り?」 僕は聞き返した。 「こないださ、春樹の新しいやつ紹介したじゃん、あれ再生回数よかったじゃん」 「まあね」 僕たちは小説のあらすじを紹介したり批評したりするYouTubeチャンネルをやっている純文学系ユーチューバーなのだ。 「今度はさ、もっと再生回数あげたくて祭りにしたくって、再生回数爆上げカーニバルまつり」 「Aくん、そういうのこだわらないって言ってたよね、回数どうでもいいって、はじめ」 「春樹のが良かったから、欲でてきて、たまにはいいかなって思えてきて」 「そうか、でも何をとりあげるの?」 「”美しい顔”って小説あったじゃん、あれ」 「え、それ普通だよね、新人賞受賞作品紹介シリーズの流れでしょ、祭りになるかな」 「いや普通じゃないよ、盗作問題でもめたじゃん」 「ポイントそこなんだ、それ趣味悪いよ、炎上狙いなんだ、面白くないよ、それに話題としても古いし」 「いや結構マジメに批評しようと思って、だから炎上狙いとは違う。あとね、”美しい私の顔”って小説もあるじゃん、それと絡めようと思って」 「え?どういうこと?なんの関係があるの?」 「いやタイトルが似てるから、どっちも同じ賞とってるじゃん」 ・「美しい顔」2018年第61回群像新人文学賞を受賞。北条 裕子著 ・「美しい私の顔」2011年第54回群像新人文学賞受賞。 中納直子著 「ギャグのネタにするってこと?」 「いや結構マジメに比較して批評しようと思って、タイトルを盗作してるんじゃないかって」 「いやいやいや、それはアカンやつでしょ不謹慎だよ。俺両方読んでるけど、全然関係ないよ、盗作したのは震災のノンフィクションでしょ、あとさ百歩譲って不謹慎はおいといても、あらすじを一冊づつ紹介するならまだしも、二冊いっぺんに紹介して、その関連性だと難しいよ」 「いや知ってるよ、俺もどっちも読んだけど、何か通底するものがあるんじゃないかと思って、」 「いや、それはないよ、難しいんじゃないかな~」 「ルッキズムだと思うんだよね、美しい顔というタイトルも、作者の顔出しの仕方も含めて、あと不謹慎っていうけど2冊とも現実に存在する本でタイトルに被りがあるのは事実、あと小説は虚構だからどういう風に解釈してもいいじゃん」 「酔ってるんじゃないの」 Aくんは2本目のアルコール度7%のコーラ味の缶酎ハイ500mlを飲み始めた。 「酔ってないよ」 「まあでも、あと、この二冊の小説のこと知らないとさ、見てる人が楽しめないよね」 「いや、だから紹介するんでしょ、あらすじをさ、俺たち、そのためにやってるじゃん、読んでない人に向けて純文学チャンネルを」 「わっかた、わかった、じゃあ再来週の日曜撮影しよう、それまでに大まかな原稿書いてできたらメールしてよ」 「了解了解」 Aくんはニコニコしながら2本目を飲み干したのち、ベンチの横に立てかけていた自転車にヒョイと飛び乗って帰っていった。 あれ、酒飲んで自転車乗ったらダメなんじゃなかったけ?僕は家に帰るためにトボトボ歩いて駅に向かった。 再生回数爆上げまつりだって言っていたけど、公園で昼間から酒飲んで、今日という日がAくんにとっての心の中の祭の日だったのかもしれない、と僕は思った。 ________________
夢追いBと