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島本貴広

出来が酷すぎるので落選供養としてアップするつもりはありませんでしたが、せっかくの企画ですので投稿したいと思います。 終盤YouTuberの下りが出てくるのですが物語前半で「颯太は今流行りというYouTuberを見てゲラゲラと笑っていた」ぐらいは書いて触れておくべきでした。あと「名人」というよりかは「悩み」というテーマの方がしっくりきますね。よろしくお願いいたします。 #第35回どうぞ落選供養 タイトル:二分間の名人 氏名:島本貴広  浅次郎は孫との接し方でなやんでいた。孫は颯太といって普段は首都圏に住んでいた。対して浅次郎は地方に住んでいて、東京からは新幹線と在来線を乗り継いで片道数時間はかかった。そんなだから普段は息子夫婦が帰ってくることはめったになかった。またここ数年は新型の感染病で行動制限されていたこともあってまったく会えなかった。最後に会った時は小学生だった颯太ももう中学生になったというのだからあっという間だと思った。  そんな息子夫婦と孫に再び会うことになったきっかけは大震災だった。激しい揺れは浅次郎の家をあっけなく倒壊させた。幸い出かけていて家に押しつぶされるということはなかったが避難生活を余儀なくされた。そんな折、心配した息子夫婦が一室空いているからと呼び寄せてくれたのだ。  学校も夏休みになる八月。浅次郎はひとり携帯ゲーム機でゲームをやる孫を前に腕を組んでいた。颯太はゲームの世界に没頭するためかイヤホンを付けていた。息子夫婦が建てた家に住まわせてもらってからはや一ヶ月。それなりの時間が経ったが、颯太とはほとんど交流できていなかった。 「颯太。ゲーム、よくやるのか?」 「え? ああ、うん、そうだね」  イヤホンを外して背伸びをしていた颯太に声をかけても返事はしてくれるが、それ以上はない。話が広がらなかったから、もどかしかった。だが、浅次郎は諦めない。 「ゲームやりすぎると母さんに怒られんか?」 「うん、そうだね。いまは一日一時間までなんだ」  どの時代でもそうなるのかと浅次郎は思った。何気なく浅次郎は颯太に近寄る。彼がやってたゲームを見て「うぉ」と声が漏れた。孫が遊んでいたのはリズムゲームだった。しかも、浅次郎が若い頃の数十年前に出てゲーマーの間では流行ったタイトルだ。 「懐かしいものをやってるな」 「昔の懐かしゲーム特集みたいなので買ったんだ」  それを聞いた浅次郎は時の流れを感じた。このリズムゲームは当初はスマホゲームとして出たものだ。画面上部から降ってくるノーツをタイミングよくタップすることで連続コンボを狙う。タイミングぴったりならぱ【Perfect】、少しズレたら【Great】、さらにズレたら【Good】でこれが出るとコンボが途切れてしまう。 「颯太はけっこう出来るのか?」 「うん、けっこう得意だよ!」  颯太の顔に笑みがこぼれている。先ほどまでのそっけない態度がうそみたいだ。 「見てて」  颯太はそう言うと曲を選択した。選んだ曲はゲームの中でも最難関とされる曲だった。 「それは……」 「知ってるの? すごい難しいんだよ。いまだに一番むずいエクストラモードじゃフルコンボ出来ないんだ」  二分間、孫がプレイしてるのを見ていたがなかなかの腕前だった。ただ曲の難しさも相まってコンボは繋がっていなかったけれども。 颯太のプレイ結果。 Perfect:857 Great:210 Good:88 「うーん、やっぱり難しいな」 「いや、けっこう出来てると思うぞ」 「ぜんぜんだよ。もっと上手くなりたいんだけどなあ」  上手くなりたい。その気持ちはよくわかる。浅次郎の中でコツを教えてやりたい欲が疼いて仕方がなかった。 「どれ、俺がもっと上手くやれるやり方を教えてやるよ」 「え、おじいちゃん出来るの?」  小馬鹿にしたような言い方に浅次郎はさすがにムッとなる。 「どう言う意味だ」 「だっておじいちゃんもう六十五歳なんでしょ? 歳とるとこういうゲームはきついんじゃない?」  我が孫ながら生意気なことを言うやつだと思った。ここまで言われては浅次郎のプライドが許さなかった。 「いいから貸してみなさい。そんでよくみてなさい」 「わかった」  渡されたゲーム機の画面を見つめる。颯太が遊んでいたのと同じ曲を選択して難易度はエクストラモードを選択。音楽が流れ始める。さいしょは曲調はゆっくりで落ちてくるノーツ数も少なかった。うん、いける。始めの十秒で感覚は戻った。ノーツの密度が段々とあがってくる。 「おじいちゃん、すげえ!」  浅次郎のプレイを見ながら颯太が歓声をあげた。  浅次郎のプレイ結果。 Perfect:1015 Great:140  久しぶりだったからか危なげないところもあったがフルコンボをキメられた。それこそ最盛期にはオールパーフェクトのフルコンボなんて余裕だったのだが。 「すごいじゃん。昔やってたってことだよね」 「まあな」  キラキラと目を輝かせる颯太を前に浅次郎は得意げだ。 「なんで今までゲーム得意だって言わなかったの?」 「別に言わなかったわけじゃない。言う機会がなかっただけで……」  浅次郎はそう言ったが内心では自分でも白々しいなと思った。浅次郎は昔YouTubeで『アサジ』というハンドルネームでゲーム配信をしていたYouTuberだった。ゲームの腕前は名人級で喋りもおもしろく人気を博した有名人だった。だが、既婚女性との不倫騒動を起こしてからは人気も落ちYouTuberも引退した。今でもあまり掘り返したくない過去だが、何よりもその不倫相手の女性が今の息子の母親、つまり颯太の祖母なのだ。それを颯太が知ったらさすがにショックだろうと思う。だから、自分がアサジだと悟られずにどう説明したものか。颯太と仲良くなれそうなのは好ましいことだが、果たして今後はどうしていこうかとそればかりを考えていた。 (了)

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