筆が停滞気味で、暇に任せて落選供養エントリー数をカウントしてみました(余計なお世話かも) #第34回どうぞ落選供養:参加数19(自分は不参加でした) #第35回どうぞ落選供養:参加数42(黒田先生コメントに感激!) #第36回どうぞ落選供養:参加数14(やばい収束の兆し?) 最近、読書もはかどらず、「講談社MOOK テレビマガジン特別編集 ウルトラQ EPISODE No.1~No.28 怪奇大作戦 EPISODE No.1~No.26」をクリスマス自分プレゼントと称して買ってしまいそうな自分が怖いです(ネタになるのなら許そうか、どうでも良いことかも) つまらないログなので、亡き母の刺繍を貼っておきますね(天皇の産着に刺繍を入れたことがあるので、結構すごいかも。これを表紙にした本を書いてみたいものぞなもし)
- 陽心
- 小説でもどうぞ【公式】
【今回も記事化!】 つくログ上で募集した、「小説でもどうぞ」第35回の落選作品。 #第35回どうぞ落選供養 今回も投稿作品の中から編集部が「これは……!」となった作品をピックアップし、記事として公開しちゃいます! https://koubo.jp/article/30398 入選作の陰に隠れた、素敵な落選作品に今一度光を✨
- 島本貴広
落選供養企画黒田さんからのコメント抽選漏れたようだ残念。大変かと思いますがまた企画してくださると投稿へのモチベが上がりますのでよろしくお願いいたしますm(_ _)m #第35回どうぞ落選供養
- Kへの返信小説でもどうぞ【公式】
Kさん 第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 いよいよ定員15名の最後、オーラスです。 では、公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 町内会長が死なないと、めぐりめぐって数千人規模の死者が出てしまう。それでは忙しくなって困るからと、死神は事故を防ごうとする。 となると、町内会長を殺せばいいはずですが、死神はなぜ別の男に会いに行ってしまったのか。そこがわかりませんでした。 でも、ここ以外は完璧といっていいと思います。 「生配信があると帰ってしまう」悪魔とか、設定が最高です。 伏線と回収もばっちり。男と死神のキャラもいい。連作短編とかでシリーズ化してほしいくらいですね。 それと何より、セリフが絶妙です。 落選の理由がわかりませんが、「名人」のウェイトですかね。 第35回(名人)ではなく、第24回(偶然)だったら間違いなく入選でした。 教訓(Kさんには教訓ではありませんが) キャラが立っていると、ずっと読んでいられる。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- 藤和への返信小説でもどうぞ【公式】
藤和さん 第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 いよいよ定員15名まであと二人、ラス前です。 では、公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 母親は「ぼく」のために毎月本を書いてくれる。「ぼく」はお母さんの誕生日にプレゼントをあげる。 お母さんは「君は、私をしあわせにしてくれる名人だね」と言い、「ぼく」は「お母さんだって、僕をしあわせにしてくれる名人なんだ」と思う。 いい話ですね。すべての母子がかくあるべしと思います。 穏やかな波のような作風はきっと藤和さんのお人柄なのでしょう。 でも、小説としては波乱があってもいいかもしれません。 作者はちょっと意地悪になり、主人公が「困るように困るように」設定する。 すると、主人公は目的を実現するために必死にならざるを得ず、そのことがストーリーに起伏と緊迫感を与えると思います。 教訓 主人公には苦労をさせろ。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- うえおあいちゃんへの返信小説でもどうぞ【公式】
うえあおいさん 第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 いよいよ定員15名まであと三人です。 では、公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 事故で車椅子生活になった主人公は、自分をなんの才能もないと思っている。両親は子育てと奉仕の名人だから、主人公を見捨てない。 主人公はそんな母親を「名人」と呼び、母親は主人公を「私をいい気持ちにさせる名人」と言う。 一人語りというスタイルですね。 主人公の思いが素直に伝わってきます。 文章も展開も問題ないと思います。 強いていうと、最後の一言が気になります。 「名人って言うなら、あんただって、私をいい気持ちにさせてくれる名人だよ。昔から」 このセリフに相当する前段がない気がします。 いい切り返しだっただけに、惜しいですね。 「名人」という言葉を使わずに、「名人」を感じさせるように書いてもよかったですね。 教訓 結末は本編を受けた先にある。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- 天然酵母への返信天然酵母
公募ガイド 黒田様 お忙しいところ、コメントくださり、感激です♪ 正直、落選の落選かと凹んでいました。でも、なかなか感想やコメントをいただく機会がなく、砂漠の雨のように潤いました。ありがとうございます。そして、素晴らしい教訓をくださり、かなり腑に落ちてます。高橋源一郎先生の『DJヒロヒト』も拝読中ですが、ボリュームがスゴイので、まだまだです。阿刀田高先生のお言葉、恐れ多いです。公募ガイドを眺めて、ヤル気スイッチ入れてこうと思います。わーい、ありがとうございます♪ #第35回どうぞ落選供養
- 天然酵母への返信小説でもどうぞ【公式】
天然酵母さん 第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 主人公の北村は主夫で、仕事をしていないことに罪悪感がある。 北村が書く空想日記には同居人の思いが書かれ、二人はお互いを思いながらも思い通りにはいかない。 二人のもどかしさがスープのクルトンに象徴され、印象的な作品ですね。 エンディングは唐突とも思えますが、余韻、余情があります。 私はいいと思いましたが、ここが是非の分かれ道だったかもしれません。 阿刀田高先生は、作家は読者を九合目まで連れていけと言っています。十合目までは書かない、しかし、八合目までだとちょっと足りない。 今作は七合目ぐらいだったかもしれませんね。 教訓 小説は九合目で終われ。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- ばったんへの返信小説でもどうぞ【公式】
ばったんさん 第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 説教ができるようになりたい高校教師は、誰にでも説教できるようになり、校長まで説教して退職する。最後は「死」にも説教する。 どんどんエスカレートする主人公の説教が面白く、だんだん上昇していく乗り物に乗っている気持ちになりました。文章もうまいですね。 このままでいいように思いますが、やはり、結末ですかね。 いっそ結末で最初に戻り、そこで生徒に説教したところ、何か本質的なことに気づくというふうに持っていく手もあったかなと思います。 教訓 出口に困ったら入り口に戻れ。 健闘を祈ります #第35回どうぞ落選供養
- 氷堂出雲への返信小説でもどうぞ【公式】
氷堂出雲さん 第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 田舎に引っ越してきたが、環境になじめない山本は、田中さんに花のタネをもらう。育てるコツを聞くと、「佐藤さんに聞け」と言う。いじわるおじさんに見えた田中さんは、実は相手が何に困っているかを当てる名人だった……。 これはいいですね。見事な切り返しです。結末を読んで、それまで見えていた風景が一変しました。 欠点が見当たりません。佳作に入っていてもおかしくないですね。 課題の表現が問題だった? いや、そうではなさそうです。 運が悪かったとしか思えません。 でも、中村文則さんは、「運であれば、二度も三度も落ちない」と言っています。希望を持ちましょう。 教訓 落ちたのが運であれば未来は明るい。 健闘を祈ります #第35回どうぞ落選供養
- 星野芳太郎への返信小説でもどうぞ【公式】
星野芳太郎さん 第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 花火の掛け声名人が重い病気になり、最後に大川の花火大会を見るというハートウォーミングな話ですね。 これはうまくまとめました。お見事! うまいですね。 これ以上は何も言うことがありませんが、強いて言うと、いい話は意外と刺さらないんですよね。 いい話は人間が描きにくい。 初期の筒井康隆さんなら、最後、死体を花火につけて夜空に飛ばしそうです(笑)。 いい話の中に、人間の醜い真実を織り込めたら、さらに深いい話になったと思います。対比ですね。 これは料理で言えば、スパイスのようなものですね。 教訓 いい話にはピリリと辛い味つけが必要。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- ともみへの返信小説でもどうぞ【公式】
ともみさん 第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 寸評 恋の弓矢を放つ男がいて、最後に自分に矢を射ますが、それは白羽の矢だったという話ですね。恋のキューピッドが失敗する話はよくありますが、白羽の矢というところが面白いです。オチはよくわかりました。皮肉がきいていますね。 できれば、矢を射る理由を書いてほしかったかな。 それと「幸運の矢」と「白羽の矢」しかないのではなく、もっとたくさんの種類があったほうが、最後に「白羽の矢」が立ったというオチが際立ったかなと思います。 教訓 人物の行動には納得できる動機が必要。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- ポチのパパへの返信小説でもどうぞ【公式】
ポチのパパさん 第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 寸評 虫が好きだった少年は、森の精霊のような老婆の予言どおり、昆虫学者になったわけですね。 生物学者の池田清彦先生みたいですね。 これだけうまい文章が書けるのであれば、入選はもう間近という感じです。ほぼ満点じゃないですかね。 では、何が問題なのかというと、構成ですかね。 この作品の場合、導入部は逆がよかったかも。 つまり、昆虫学者になった主人公がフィールドワークに行き、学生に「先生はなんでそんなに虫取りがうまいんですか」と聞かれ、少年時代を回想するという形式にしたほうが、「その後、昆虫学者になった」という結末に説得力が出た気がします。 教訓 入口と出口を呼応させよ。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- 獏太郎への返信小説でもどうぞ【公式】
第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 公募ガイド編集部 黒田よりコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 獏太郎さん 文章は格段に上手です。直すところがないですね。 文学賞に応募しても三次ぐらいはいきそうです。 難を言えば、要素が多いかなと思いました。娘と母親、両方にウェイトがありようです。 長編は「尾頭付き」、短編は「切り身」と言います。 さしずめ掌編は小皿ぐらいの容量しかありませんので、一瞬を切り取りたい。 前半を割愛し、レジの場面だけでいけば、佳作は間違いなかったと思います。入選はもうすぐです。 教訓 掌編は全部は書けない。断片を書く。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- はそやmへの返信小説でもどうぞ【公式】
第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 公募ガイド編集部 黒田より順不同でコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 はそやMさん 「人類凡庸計画」を始めた凡野首相も、最後は自分が「だらけ名人」で逮捕されます。 皮肉が利いていますね。発想がいいです。 最後の最後で、ここまで登場していなかった凛音ちゃんがでてきました。 これはいわば掟破り。冒頭に出しておき、凛音ちゃんで本編を挟む形式にするとよかったと思います。 教訓 終盤で初出の人物を登場させてはならない。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- 陽心への返信小説でもどうぞ【公式】
第35回「小説でもどうぞ」(課題:名人)の落選供養、ありがとうございます。 公募ガイド編集部 黒田より順不同でコメントさせていただきます。 もとより小説、文章に正解はありません。そういう考えもあるかというぐらいの気持ちでお読みくだされば幸甚に存じます。 最後の「教訓」は、その他大勢の方に向けた私からのアドバイスです。 陽心さん 地底から神様が現れる。面白いファンタジーですね。スラップスティックでもあります。 映像化したら、最高に面白い作品になるはずです。 〈念入りな化粧から薄化粧に切り替え、胸の谷間を強調したミニスカポリスから清楚な白衣と赤い袴に着替えた。〉 映像が浮かびますね。 ストーリーが抜群にいいですが、同時にここが問題かも。 2000字で書くには起伏がありすぎるのかもですね。 小説は縦糸がストーリー、横糸が描写で、そのバランスが大事ですね。 教訓 ストーリーはシンプルに、その分、描写で膨らます。 健闘を祈ります! #第35回どうぞ落選供養
- 小説でもどうぞ【公式】への返信小説でもどうぞ【公式】
いつもつくログをご利用いただきありがとうございます。 「小説でもどうぞ」担当編集の黒田です。 #第35回どうぞ落選供養 の投稿の中からコメントをするこちらの企画、お待たせしておりすみません。 素敵な作品のご投稿をありがとうございました。 コメント、現在鋭意準備中ですので、今しばらくお待ちいただけますと幸いです。
- 三連休
#第35回どうぞ落選供養 落選しましたが、小説を書こうという気持ちがしっかり固まった時に書いた作品です。短編5部作の一編を減筆し応募しました。 食物アレルギーの息子の未来を想像しながら、今現にこの症状に自由を奪われている彼や彼女へ… アンチグルメで生きろ!毎日同じつけ麺とカレーで最高だよ!強い応援を優しい物語に乗せました。 どなたかに届き、供養できますように。 🔹お題:友達 🔹タイトル:7つの呪縛 僕は17歳、高校2年生。 見た目は細め、背は余り高くない。顔はどうだろう?美容院に行くと母はやたら「イケメン!」って僕を持ち上げるけど、姉は「のぞむスッキリしたね」だけだから、ごく普通の高校男子なんだろう。 見た目は普通、でも僕は食物アレルギー体質という、人と違う一面がある。 小6まで7品目を除去し訓練された生活を送り、年1回負荷テストという「アレルギー品目を摂取し症状が出るかどうかを確認する検査」のため、毎夏入院をしている。 ❶卵 ❷オボムコイド(加熱卵)❸小麦 ❹大豆 ❺ピーナッツ ❻甲殻類 ❼魚卵 僕にとって7つの呪縛だ。 タベチャダメ サワッチャダメ 母が1日に何回も僕にいう呪文。 生後4ヶ月ごろ耳たぶから汁が出て、小児科医から食物アレルギーの可能性を告げられた。 7ヶ月、初めて食べたうどんでアナフィラキシーショックを引き起こし救急へ運ばれ、この日「僕の食物アレルギー人生」が始まった。 家族の生活は一変したが、幼い僕は当時のことをあまり覚えていない。人から食べられなくて可哀想とよく囁かれたが、ケーキを食べたことがないから味も知らないし、食べたい気持ちもなかった。でも友達がお菓子交換をしている横で一人離れてお菓子を食べていた時は、可哀想というより孤独だった。 この10年で4品目が改善され、高2の最新検査ではIgE抗体の数値が下がり卵と大豆が陰性になった。喜ぶ場面だが卵を食べたい気持ちも美味しいと感じる舌も僕にはないから、陰性になっても生活は変わらない。 こんな僕にも食の思い出がある。通っていた幼稚園の畑で収穫されたジャガイモを使って、毎年カレーパーティーが開催された。大きな鍋から友達と同じカレーを盛り、子供ながらにこの時間がずっと続きますようにと願い、友達とゲラゲラ笑いながら一緒にカレーを食べた。初めて大勢でご飯を食べた喜びと幸せな時間は今も心に残っている。 10年以上過ぎ年々改善しているが、完食はまだ遠い。大豆10グラムとか全卵1/8とか許容量を外食で計るのは難しすぎる。 中学で友達と外食したのは数回。ファストフードに行ったがポテトしか食べられず、そのうち誘われなくなった。中3になると諦めとは違う別の感情が僕の心を占めていた。人に自分の説明は難しい上に、やたら僕を気遣う友達の姿は15歳には絶望に映った。だから友達と遊ぶことをやめた。 サミシクナンカナイヨ イツダッテボクワヒトリ ――2年後。 「みんな帰るぞ。今日は渋谷?下北?」中谷はこの2択しかない。「俺、ラーメン食べたい」豪太が言った。「オレはつけ麺!のぞむは?」また中谷だ。「つけ麺って、お前ら勝手に決めるなよ。まず俺に何が食べたいのか聞けよ」 外食を諦めた僕につけ麺を一緒に食べる友達が出来るなんて、大袈裟だが生きていて良かったと思う。 カレーパーティーから10年以上が経った今、こんな気持ちにしてくれた友達の存在。高校受験に失敗し不貞腐れながらこの高校に進学したことを運命に感じてしまう。誰かと一緒にご飯を食べる楽しさを知った幼稚園のカレーからラーメンの世界に広がり、僕は今幸せを感じている。 高1になった僕は絶望の裏で一人外食し、お店で材料を詳しく聞いてから注文するなど努力してきた。母は心配したが僕は変わりたかった。あの日のカレーパーティーを懐かしみ、幸福感に飢えていたのかもしれない。友達とまた一緒に食べたいっていう気持ちを。 「のぞむは何がいーい?」中谷が言った。 「なんだよ、優しいから調子狂うだろ。今日はつけ麺の気分だから下北かな」下北派の中谷は凄く嬉しそうだ。校門を出て代る代る誰かが喋る高校男子は騒がしい。すると豪太が「俺、やっぱりカレーが食いたい。今日はカレーでたのむ」。その瞬間、僕がどれだけ驚いたか。誰かが反対する前に僕は即答した。「それいいね!今日は渋谷でカレーを食べよう!5人でカレーパーティーだ」一斉に爆笑した。「おい、カレーパーティーって。お前女子か!」 照れる気持ちに気づかれないよう、誰よりも早く駅まで走った。僕を追いかけるローファーの靴音がいくつも聞こえてきた。 ミンナトタベナ ナカヨクタベナ 呪縛という言葉とサヨナラする時がきた。 僕にはカレーがある、ラーメンもある。 友達もいる、もう孤独じゃない。 〈終〉
- 小説でもどうぞ【公式】
みなさま、このたびは「#第35回どうぞ落選供養」企画へのご参加、ありがとうございました。 担当黒田からの感想コメントは、すこしお時間いただきます。すこしだけ気長にお待ちくださいませ😊 ぜひそれまで、ほかのみなさんの作品を読んでコメントなどしあい、次の応募への士気を高めていただけたらと思います。
- 藤宇
#第35回どうぞ落選供養 こんにちは、もう一つ供養させていただきます。救いのない話なんですが、どうぞよろしくお願いします。 お題 神様 タイトル 願い 白い壁にグラスが勢いよく当たり、パリン! と割れた。落ちる間もなく、今度は皿が当たって粉々に砕ける。 「やめろって!」 彼が女の腕をつかみ、物を投げるのを止めさせようとした。両腕を固定され、それでも振りほどこうと身をよじらせている。──それが、私だった。 私と夏生(なつお)くんには子供がいた。とてもかわいい男の子で、彼が笑うと周りがパァッと明るくなった。光に満ちた日々で、晶(しょう)の成長を見守ることに私は生きがいを感じていた。けれど、あの子は行方不明になってしまう。ある嵐の日、ちょっと目を離したすきに玄関から出て行ってしまったのだ。気がついた私は裸足で外へ出て探し回った。けれど、一週間たっても見つからない。そして数ヶ月後に家から遠く離れた山の中で、裸で倒れているのが発見された。変わり果てた姿を目にして、思わず言葉を失った。 「晶……」 呼びかけても返事がない。名前を呼ぶと、あの子は必ず 「なーに」と笑顔で答えてくれたのに── 理解ができなかった。どうしてこの子は返事をしてくれない? なんでぎゅっと抱きついてこないの? 「沙由(さゆ)! 沙由!」 名前を呼ばれて抱きしめられ、自分が悲鳴をあげていることに気づく。 「どうして……?」 問いかけても、答えはない。ただ、泣く事しかできなかった。 ──私はベッドルームで目を覚ました。ぼんやりした頭で体を起こす。しばらくすると夏生くんが顔を見せた。 「どう? 体調は」 ぼうっとしたまま、こっくりとうなずく。 「ご飯、食べよっか」 そう言うと、手を取ってリビングまで連れて行ってくれた。テーブルには彼と私の席にトーストと目玉焼き、ベーコンの載った皿が置いてある。なんで二人分しか用意してないんだろう? そう考えると、頭がズキンと痛んだ。 「う……」 私は頭を押さえる。何か思い出してはいけない事があったような…… 「沙由?」 「ああ……ああぁっっ!」 割れるような痛みに耐えきれず、悲鳴をあげる。体が勝手に暴れだし、周囲の物をなぎ払った。ガチャガチャと耳障りな音が、室内に響いて耳朶(じだ)を打つ。耐えきれず、再度悲鳴をあげて意識を失った。 私はそれ以来、現実か夢か分からない日々を送った。晶と笑いながら散歩しているかと思えば、一人きりで暗く冷たい空気だけが漂っていた。かと思うと、不意にどこからか声が聞こえてきたりした。 「おまえが晶から目を離したからいなくなったんだ。あの子が死んだのはおまえのせいだ」 「……やめて‼︎ いや!」 耳をふさいでも、それはしつこく聞こえてくる。胸が張り裂けそうになり、悲鳴を上げた。夏生くんの声も時々聞こえるけれど、どこにいるのか分からない。私は寂しくてたまらなかった。 ある日、いつの間にか家のリビングにいることに気づく。足元に、小さな箱があった。何だろうと開けてみる。それは、あの子が肌身離さず持っていたポケモンの青いフィギュアだった。そういえば、晶(しょう)はどこに── そう考えると、不意に悲しみで胸がいっぱいになった。それはどんどんあふれて、溺れてしまいそうになる。 「……‼︎」 私は悲鳴をあげた。飲み込まれてしまわないように必死でもがく。 「■■!」 誰かの声が聞こえて、顔に衝撃を受けた。少し遅れて頬が熱くなる。誰かに殴られた……? 怖い。誰? 顔を見ても、暗くてよく分からない。恐怖に襲われ、必死に抵抗する。相手の勢いが緩んだ、と思ったら、首に手の感触を感じた。それがギリギリと締め上げていく。 息が…… 薄れていく意識の中で、今にも泣きそうな夫の顔がぼんやりと見えた。 ──ああ、そうか。私は全てを理解する。彼が私の終わらない悲しみに、終止符を打とうとしてくれている。 夏生くん、ありがとう。私の最後のお願いを聞いてくれて。 あなたの笑顔はまるでお日様みたいで、とてもとても大好きでした。 了
- 島本貴広
出来が酷すぎるので落選供養としてアップするつもりはありませんでしたが、せっかくの企画ですので投稿したいと思います。 終盤YouTuberの下りが出てくるのですが物語前半で「颯太は今流行りというYouTuberを見てゲラゲラと笑っていた」ぐらいは書いて触れておくべきでした。あと「名人」というよりかは「悩み」というテーマの方がしっくりきますね。よろしくお願いいたします。 #第35回どうぞ落選供養 タイトル:二分間の名人 氏名:島本貴広 浅次郎は孫との接し方でなやんでいた。孫は颯太といって普段は首都圏に住んでいた。対して浅次郎は地方に住んでいて、東京からは新幹線と在来線を乗り継いで片道数時間はかかった。そんなだから普段は息子夫婦が帰ってくることはめったになかった。またここ数年は新型の感染病で行動制限されていたこともあってまったく会えなかった。最後に会った時は小学生だった颯太ももう中学生になったというのだからあっという間だと思った。 そんな息子夫婦と孫に再び会うことになったきっかけは大震災だった。激しい揺れは浅次郎の家をあっけなく倒壊させた。幸い出かけていて家に押しつぶされるということはなかったが避難生活を余儀なくされた。そんな折、心配した息子夫婦が一室空いているからと呼び寄せてくれたのだ。 学校も夏休みになる八月。浅次郎はひとり携帯ゲーム機でゲームをやる孫を前に腕を組んでいた。颯太はゲームの世界に没頭するためかイヤホンを付けていた。息子夫婦が建てた家に住まわせてもらってからはや一ヶ月。それなりの時間が経ったが、颯太とはほとんど交流できていなかった。 「颯太。ゲーム、よくやるのか?」 「え? ああ、うん、そうだね」 イヤホンを外して背伸びをしていた颯太に声をかけても返事はしてくれるが、それ以上はない。話が広がらなかったから、もどかしかった。だが、浅次郎は諦めない。 「ゲームやりすぎると母さんに怒られんか?」 「うん、そうだね。いまは一日一時間までなんだ」 どの時代でもそうなるのかと浅次郎は思った。何気なく浅次郎は颯太に近寄る。彼がやってたゲームを見て「うぉ」と声が漏れた。孫が遊んでいたのはリズムゲームだった。しかも、浅次郎が若い頃の数十年前に出てゲーマーの間では流行ったタイトルだ。 「懐かしいものをやってるな」 「昔の懐かしゲーム特集みたいなので買ったんだ」 それを聞いた浅次郎は時の流れを感じた。このリズムゲームは当初はスマホゲームとして出たものだ。画面上部から降ってくるノーツをタイミングよくタップすることで連続コンボを狙う。タイミングぴったりならぱ【Perfect】、少しズレたら【Great】、さらにズレたら【Good】でこれが出るとコンボが途切れてしまう。 「颯太はけっこう出来るのか?」 「うん、けっこう得意だよ!」 颯太の顔に笑みがこぼれている。先ほどまでのそっけない態度がうそみたいだ。 「見てて」 颯太はそう言うと曲を選択した。選んだ曲はゲームの中でも最難関とされる曲だった。 「それは……」 「知ってるの? すごい難しいんだよ。いまだに一番むずいエクストラモードじゃフルコンボ出来ないんだ」 二分間、孫がプレイしてるのを見ていたがなかなかの腕前だった。ただ曲の難しさも相まってコンボは繋がっていなかったけれども。 颯太のプレイ結果。 Perfect:857 Great:210 Good:88 「うーん、やっぱり難しいな」 「いや、けっこう出来てると思うぞ」 「ぜんぜんだよ。もっと上手くなりたいんだけどなあ」 上手くなりたい。その気持ちはよくわかる。浅次郎の中でコツを教えてやりたい欲が疼いて仕方がなかった。 「どれ、俺がもっと上手くやれるやり方を教えてやるよ」 「え、おじいちゃん出来るの?」 小馬鹿にしたような言い方に浅次郎はさすがにムッとなる。 「どう言う意味だ」 「だっておじいちゃんもう六十五歳なんでしょ? 歳とるとこういうゲームはきついんじゃない?」 我が孫ながら生意気なことを言うやつだと思った。ここまで言われては浅次郎のプライドが許さなかった。 「いいから貸してみなさい。そんでよくみてなさい」 「わかった」 渡されたゲーム機の画面を見つめる。颯太が遊んでいたのと同じ曲を選択して難易度はエクストラモードを選択。音楽が流れ始める。さいしょは曲調はゆっくりで落ちてくるノーツ数も少なかった。うん、いける。始めの十秒で感覚は戻った。ノーツの密度が段々とあがってくる。 「おじいちゃん、すげえ!」 浅次郎のプレイを見ながら颯太が歓声をあげた。 浅次郎のプレイ結果。 Perfect:1015 Great:140 久しぶりだったからか危なげないところもあったがフルコンボをキメられた。それこそ最盛期にはオールパーフェクトのフルコンボなんて余裕だったのだが。 「すごいじゃん。昔やってたってことだよね」 「まあな」 キラキラと目を輝かせる颯太を前に浅次郎は得意げだ。 「なんで今までゲーム得意だって言わなかったの?」 「別に言わなかったわけじゃない。言う機会がなかっただけで……」 浅次郎はそう言ったが内心では自分でも白々しいなと思った。浅次郎は昔YouTubeで『アサジ』というハンドルネームでゲーム配信をしていたYouTuberだった。ゲームの腕前は名人級で喋りもおもしろく人気を博した有名人だった。だが、既婚女性との不倫騒動を起こしてからは人気も落ちYouTuberも引退した。今でもあまり掘り返したくない過去だが、何よりもその不倫相手の女性が今の息子の母親、つまり颯太の祖母なのだ。それを颯太が知ったらさすがにショックだろうと思う。だから、自分がアサジだと悟られずにどう説明したものか。颯太と仲良くなれそうなのは好ましいことだが、果たして今後はどうしていこうかとそればかりを考えていた。 (了)
- 白まんじゅう
「小説でもどうぞ」に毎月1本投稿するのを目標にしています。文章が下手なので全然駄目ですが、これからも投稿したいです。 よろしくお願いします。 #第35回どうぞ落選供養
- いぬとび
#第35回どうぞ落選供養 タイトル : 自由研究サークル活動報告(2023/08/16) ——というわけなんだけど、君ならどうするかな? 右耳に押し付けたスマートフォンはじわじわと熱を帯び始めていた。それが時間の経過を僕に克明に感じさせていた。僕の泳ぐ視線は、五秒に一回のペースで正面に立つ一人の女性に向けられていた。そして、彼女と目が合う度に僕は愛想笑いを見せて小さく頭を下げた。僕もそうだが、彼女の方も居心地が悪そうだった。もじもじとスカートの裾を握っていた。 やっぱり、俺なら断らないね ちょっと待ってくれ、その状況を想像させてくれ、と長考の末に電話越しの友人はそう答えた。ようやくそれを聞けた僕は彼にひとこと礼を告げ、電話を切った。ポケットに入れたスマートフォンの熱はすぐには冷めず、それがなぜだか正面に立つ女性の体温のようにも思えて僕は余計気おくれした。 「誘ってくれてありがとう。ぜひ行く。お邪魔させてもらうよ。君のうちに」 その言葉を耳にして女性は顔に集中させていた緊張を一気に緩ませた。冷凍状態からだんだんと解凍されていくように、彼女の表情ははっきりと安堵という感情を示していた。僕の方に一度目を向けすぐに逸らし、また目を向けてきた。口の端や眉がぴくりと上を向いた。 そんな風に嬉しそうであったのにもかかわらず、女性は少しすると再び俯き「でも、本当にいいんですか? 電話のお相手に迷惑じゃないですか?」と不安そうだった。 僕は首を振った。さっきのはただの友達だから、と相手を安心させようとそう口にしたとき、僕の心中にクエスチョンマークが浮かんだ。いいや、友達じゃないかもしれない。今、このとき、この一週間において、彼は僕の友達ではない。彼は僕なんだ。もっと正確に言えば、彼は僕になりつつあり、僕も彼になりつつあるんだ。 「ねえ、何の映画借りる?」 立ち寄ったレンタルショップにて女性にそう訊ねられたとき、僕はまた断りを入れて友人に電話した。 言っておくが、別に僕は優柔不断な人間ではない。マッチングアプリで知り合い、デートした女性に家に来ないかと誘われたからって気が動転して友人に判断を仰ぐなんて馬鹿げた真似はしない。 これはれっきとした実験だ。ルイと僕との共同実験なんだ。ただ論文にはならないだけで、この実験結果が興味深いものになるのには変わりないと思っている。 ××大学 自由研究サークル(非公認) 第13回の実験テーマは、簡潔に言えば、《選択の個人形成への影響力》についてだった。そして、五日前からルイと僕は比較的明確な選択が与えられた際に(人生は選択の連続であり、細かいものまで研究対象に入れていたら僕たち素人には手に負えない)、互いの判断を相手に任せて一週間生活するようにしていた。 夏休みという有り余った時間の中でルイは恋を求め、マッチングアプリを始めるという選択をし、それを僕が担うことになった。一方で僕はRPGゲームの完全攻略を求め、ドラゴンクエストシリーズのプレイを選択し、それを彼が担うことになった。多くの場合において僕は女性への接し方について彼に連絡し、彼はゲームキャラの操作や行動について僕に連絡してきた。 そのようにして自身の選択を別の誰かにゆだねることで自身が段階的に自身でなくなり、その別の誰かに変化していくことができるのではないか、と僕たちは考えていたのだ。要するに、そのようにして僕が彼として、彼が僕として、この先の人生を歩むことができるのであれば、選択というものがいかに個人形成に重要なものなのか、証明できるのだ。 しかし、この実験には穴があった。小さいながらもそれは至るところにあり、それらは時間の経過とともに少しずつ大きくなっていった。そして、目の粗い網から次々と魚が漏れていくように僕たちの実験は破綻し始めていくことになった。 「そんなことで連絡するなよ。家に上がったんだ、そりゃ一緒のベッドで寝るに決まってるだろ! ——待て、まさかお前、別々で風呂に入ったのか? 俺に確認もせずに勝手に」 「それわざわざ訊くことじゃないよ。パーティ編成を敵モンスターの弱点に合わせればいいだけ! ——もしかしてルイ、その手前の森でボスに対して有効な魔法を憶える仲間を手放したのか? 僕に連絡もしないで」 これに似たやりとりはこれまでに何度かあった。初めのうちは互いに許容し合うことができていたが、実験が終盤に近づく中で、慎重に選択するべきだと考えているポイントがそれぞれで違っており、それが原因で大きなずれを産んでいることが明確になっていった。 どこで選択するかという判断も一つの選択だったのだ。その気づきは僕に、僕という個人を僕の中から外へ出させることのない窮屈な箱の存在を強くイメージさせた。 結局、僕は僕なんだ。僕は僕にしかなりえないんだ。 そんな思いを抱いた僕はマッチングアプリで出会った女性と電気を消した薄暗い部屋のベッドの上で仰向けになりながら、果てしない徒労感とともに漫然と無表情な天井を眺めていた。
- K
#第35回どうぞ落選供養 供養の案内、ありがとうございます。 遅くなりましたが、線香程度の修正を加えてアップします。よろしくお願いします。 テーマ:名人 タイトル:吾輩は死神である 吾輩は死神である。名前はまだない。他の死神たちと同じく、管理番号で呼ばれている。個人名は上級職にならないともらえない。 死神の仕事とは、簡単にいえば霊魂の管理である。吾輩たち末端の死神は、納期までに指示された数の霊魂を用意する。それを死神上司が神様に収め、神様がその霊魂に肉体を与え、新たな生命として再循環させる。このサイクルの一部を吾輩たちが担っている。大昔はノルマ達成のために死神が人から魂を奪うこともあったようだが、ここ数十年はむしろ数量の超過が問題となっていて、吾輩たちはいつもその対応に追われていた。今日もまた通報があった。吾輩の管轄エリアで予定外の数千人規模の魂が発生しそうとのこと。何ということだ。今日こそは定時退社するつもりでネイルサロン予約を入れたのに。あ、ちなみに吾輩は人間界で言うところの女の子である。新卒二年目の社会人くらいに思ってくれれば間違いない。吾輩は魔女がホウキに乗って飛ぶがごとく、大鎌にまたがり、地上へと向かった。もちろんお供の黒猫などはいない。 メガネを掛けて色白。小太りで暑苦しい髪。情報どおりだ。この男で間違いない。吾輩は営業用の声と口調をつくって話しかけた。 「こんばんはー」 「こんばんは。あなたが死神さん?」 「あれ。どうしてわかったんですか。私そんなに有名でしたっけ」 「実はさっきまでくノ一のコスプレ姿をした悪魔さんと一緒にいたんですよ。死神さんのことは悪魔さんから聞きました。死神にタマ取られんよう気ぃつけんさいって言ってましたよ。いやあ、かわいかったな。方言使う子ってどうしてかわいく見えるんだろう。僕、広島弁でしゃべる悪魔に会ったの初めてです」 「えっと、標準語の悪魔には会ったことがあるんですか?」 「ないに決まってるじゃないですか」 男は手に持っていたワラ人形をポイっと投げ捨てた。ここは真夜中の神社の境内裏である。 「最初は彼女が悪魔だってことがなかなか信じられなくて。そしたら彼女、自分が悪魔だってことを証明するために何でもしてくれて。あんなこととかこんなこととか、何からナニまで。いやぁ、最高だったなぁ。神社だから余計に興奮したというか。あ、これは初対面のレディに話すことじゃなかったですね。失敬失敬」 完全にのぼせあがっている。あのアバズレにすっかり骨抜きにされたらしい。 「もしかして、すでにアバ…、じゃなくて悪魔と契約しちゃいました?」 「しちゃいました」 「このバカ」 吾輩は大鎌を、足元のワラ人形に向かって思いきり振り下ろした。 「どうしたんですか」 「うっさい。で、あのコスプレビッチは今どこに? さっきまでここにいたんでしょ」 「絶対に見逃せない生配信があるとかで、帰っちゃいました。僕としては、これから二人でゆっくり愛を育てたかったんだけど」 「はいはい。自分に酔ってるところ悪いけど、そろそろ目を覚まそうか。現実を見よう」 「嫌だよー。現実なんて見たくないよー」 「アイツと契約したのなら、3つの願いが使えるんでしょ」 「うん。けどそれは保険みたいなものだって。願いのタイミングは僕の任意で、保証は一生涯。今日のところはサインだけしてもろうたら、あとのことはゆっくり考えればええけぇ、と」 そう。悪魔にとって大切なのは契約を交わすことであって、願いの行使はただのオプションなのである。 本来ならこのあと男は今夜中に町内会長を殺すことになっていた。その殺意に悪魔がつけ込んだ。そして皮肉なことに、悪魔との契約によって、男は余裕ができてしまった。捨て身じゃなくなった。今夜中に町内会長が死なないとなると、めぐりめぐって、二年後に数千人規模の死者が発生してしまう。それだけは阻止しないといけない。吾輩は男に願いを使わせるよう、町内会長との間の悪夢のような現実を思い出させた。しかしグズグズと煮えきらず。 「うーん。言ってることはわかるけど、本当に願うだけで人が殺せるのかな。何となく失敗する気がする。僕、基本的に何をやっても失敗するタイプだから」 「大丈夫。あなたならできる。がんばって。自分に負けないで」 「ていうか、そこまで言うなら、自分が殺せば済むことなのでは? 君、死神なんだよね」 「嫌ですよ、人殺しなんて。後味悪い」 「うーわ、最低この人。悪魔みたい」 「吾輩は死神である」 結局、男は町内会長を殺せなかった。しかし町内会長は死亡した。吾輩は知らなかったのだ。男がワラ人形つくりの名人だったということを。
- 向井 春七
#第35回どうぞ落選供養 大好きな小説家様に読んで頂きたかったのですが、力が全く足りず…。〈悩み〉がテーマの回に落選したものを供養させて頂きます。 (貼り付けの際に段落下げが全て消えてしまい、手入力しようにもサイトが重過ぎて何度も固まってできず、読みにくくてすみません…) 伴う 向井 春七 悩みの種が産声を上げる。産まれた瞬間はそれが悩みの種なのだとは気付かなかった。 狭い部屋の中、聞こえ過ぎるほど聞こえているのに、私の耳には届いていないものだと信じ込んでいるように泣き喚く。耳を塞ぎたくなるその大声から逃れられる場所はない。それは深夜であってもだ。睡眠を妨げられ、細切れの浅い眠りは悪夢を呼ぶ。 悩みの種は私の外出を困難にする。遠出を不可能にする。外泊や旅行を夢のまた夢にする。労力を費やしようやく隅へ片付けた物さえ、片端から引っ繰り返し辺りに散乱させる。安息の場所など何処にも作り得ない。 悩みの種と共に暮らし始めてから、私は当然のように健康を損なった。朝も夜も身体の至る所が痛み、声の無い悲鳴を上げ続けた。胃はあらゆる食物を受け付けなくなり、便器を抱えて蹲る時間が長くなった。そして、悩みの種のために私は仕事を失った。苛立ちは募り、絶望が深まった。 だが、憎もうとも恨もうとも、目下、この日々に終わりはない。悩みの種が腹を空かす。私はそれにせっせと滋養を与え、肥えさせる。休むことなく細胞分裂を繰り返す悩みの種は日毎に体積を増やし、狭い部屋の中で幅を取り、新たな苦悩を授けてくる。 部屋に閉じ篭る毎日に焦りを抱き、重い身体を引き摺り散歩に出掛けた公園で悩みの種を遊ばせていると、それを見ていた高齢の婦人が、可愛い、と頬を緩めた。私は泣きそうになった。 煩わしくて堪らないこの悩みの種に、私は名を付けている。馬鹿みたいに希望を詰め込んだ名を。何故だろう。何の意味があるのだろう。 悩みの種など、無い方が楽に生きられるに決まっているのに。 ある日、悩みの種が唐突に言葉を喋った。それは、点けっ放しのテレビの前、私が誕生日プレゼントに買ってやった絵本を小さな指で指し示しながらだった。私は履いていたスリッパで躓きそうになりながら、ソファに座る悩みの種の方へ駆け寄った。在り来りな言葉では表現し得ないほどの喜びを感じていた。私の反応が面白かったのか、褒められて気分が良かったのか、悩みの種は大人とは微妙にずれた発音の仕方で得意気に何度も繰り返した。わんわん、わんわん、と。絵本には幼児番組で人気のある、犬の着ぐるみのキャラクターの絵が描かれていた。 初めて言葉を発したその瞬間に立ち会い、他にも日々の成長の場面に立ち会い、私は報われたのか。どうだろう。解決した悩みなど一つもない。そして今でも悩みの種は食事中に椅子の上に立って暴れ、どれだけ危険を説いても聞こうとしない。感染症で高熱を出している私が早く寝るよう促しても追い立てても懇願しても、一足先に感染症から回復した悩みの種はまだ遊んでいたいと駄々を捏ね泣き叫ぶ。 けれど、窓ガラス越しに見る保育器の中で小さな手足を不器用にばたつかせるだけだった悩みの種が、今では二本の足で隣を歩くようになった。そして跳ねるように歩きながら、建物の隙間から見える窮屈で仕方ない空を指差し、お空の雲を食べたい、と言う。この子には今、無限の可能性があり、これから成長するにつれ数え切れないほどの挫折を味わっていくのだろうと考えると、自分の中の一切のペシミズムを凌駕する瞬間がある。上々だったとは言い難い自分の人生でこつこつと積み上げてきた価値観が、乱暴と言ってもいいぞんざいさで覆される。それは実に恐ろしいことだ。恐ろしいほどの希望だ。 保育園からの帰り、スーパーマーケットに寄った後で子が、電車が見たい、と線路脇の歩道から動かなくなった。急いで夕飯の準備をしないとならないのにと私は途方に暮れる。金網に張りつく小さな背中を恨めしく思いながら見つめ、早くここから動いてくれないだろうかと祈りにも似た気持ちを抱く。 私はこの悩みの種を生涯に渡って否が応でも愛し続けてしまうのか、それとも愛し続ける努力を必要とする時が来るのか。重いレジ袋が手に食い込むのを感じながらふと考える。けれど今は分からない。 ともかくしばらくの間は、苦しみを伴い、喜びを伴いながら、私は貴方に伴う。いつまでだろう。それが終わる時、達成感や解放感を覚えるだろうか。それとも、寂しさを覚えるのだろうか。それも今は分からない。 地面を震わせ風を起こしながら電車が通過していく。子がはしゃぎ、電車を追いかけ走り出す。私も後を追う。不恰好に身体を揺らす度、肩から提げた鞄が腰の骨を打ち、手に持ったレジ袋も無遠慮に重さを増す。子の背中は傾きかけた太陽に照らされて橙だ。先を行くその背中の方へ無意識に伸ばした私の手は、引き留めるというより前へ押し出すように見えた。実際には届いておらず宙を掴んでいるだけのその手にまさか本当に押されたわけでもないだろうが、子は斜め前へと長く伸びる私の影から脱け出すように先へ向かっていく。 もっと速く、私では追いつけないくらい速く、走っていけばいい。軽やかに進んでいく子に追いついてしまわない速度で、私は足を一つずつ前に出す。もう見えなくなった電車が、どこかずっと遠くで警笛を鳴らすのが微かに聞こえた。
- かずんど
私の〈名人〉の落選作ですが、もし入賞していたら「こんな作品でごめんなさい」と、つくログで謝るしかないと思っていた作品でした。残酷でイヤな話なのにオチがしょうもなくて、ブラックな作品として成立しているのか自分でもわからない作品だったのです。 他の賞に転用出来ない感じの作品なので、つくログで供養すればいいのでしょうが、ネガティブ人間の私としては、選ばれなかったうえに自己評価も低い作品を公開する気にはなれませんでした。しかし皆さんがどんどんと落選供養しているのを見て、自分だけ逃げているようなうしろめたさを感じていました。 決心するのに約一週間かかりました(笑)。私も落選供養してみます。成仏できるのか、あるいは悪い霊となって私を呪うのか……。(おおげさな……) おそらく今回の #第35回どうぞ落選供養 で一番長い、前置き(言い訳)とともにアップします。 タイトル:狩りの名人 氏名:ササキカズト 名人? 何て呼ばれようが、俺には関係ねえ。俺は、親父や爺さんがやってきた仕事を、ただやっているだけだ。猟師という仕事をな。まあ四十になって、死んだ親父と肩を並べるくらいになれたかなって、ようやく思えるようになったかな。 ああ、そうだ。俺は親父から、狩りのすべてを教わった。俺は親父以外の猟師をよく知らねえから、自分の腕前がどの程度かなんてわからねえ。爺さんもいい猟師だったと親父が言っていたが、俺が赤ん坊のころに死んでるから、爺さんの腕前も俺は知らねえんだ。 今使っている銃は、親父が買ったやつだから、まあ形見みたいなもんかもしれねえな。もちろん役所には届けてあるとも。銃の管理も、鍵かけて、ちゃんとやってるさ。確認するか? ……今日はいいのか。まあ、いつ調査に来られても大丈夫なようにしてあるから、いつでも見にくるといい。 冬? 雪が積もれば、あまり山には入らねえが、山に食いもんがなくなるから、奴らも町に下りてくる。町の住民に被害が出ねえように、奴らを仕留めるのも俺の仕事だ。 それ以外の時期は、月に二回くらい山に入る。一度山に入ったら四~五日は戻らねえ。奴らは巣を転々と移動するが、群で生活しているから、痕跡を追うのは難しくねえ。しばらく奴らの様子を観察して、群のボスを見極めるんだ。俺はまずそのボスをやる。ボスがいなくなると、その群は弱くなる。次のボスを決めるのに、若いオスが争ったり、群がいくつかに分かれたりする。そうすると、町まで下りて食いもんをあさろうなんて知恵も働かなくなるんだ、しばらくはな。あとは若いオスとメスを少し減らしておく。数が増えねえようにするのが目的だからな。 え? どんな気持ちかって? 撃つときか? ……どうもこうもねえ。俺は猟師だから、ただ仕事としてやってるだけだ。特に何の感情もねえさ。 かわいそうに思わないのかって? なんでそんなこと聞くんだ? 何の調査なんだ、これ? お前たち本当に役所から来たのか? ……お前らさては、あれだな。動物愛護とか、そういう団体の連中だな。過激な手段に出る奴らもいるって聞いてるぜ。役所委託の害獣駆除に関する調査だなんて騙しやがって。……役所から来たとは言ってねえだと、この野郎! ……まあ、いい。俺もお前らには思うところもあったんだ。いい機会だから言わせてもらおう。 いいか。お前たちは知らねえんだ、奴らのことを。放っておいたら増えすぎて手に負えなくなる。奴らのずる賢さを知らねえから、かわいそうなどと言えるんだ。奴らはな、こっちがどんなに気配を消して近づいても、敏感に察知して逃げやがる。油断すれば、群で囲んでこっちがやられる。俺の親父も爺さんも、奴らにやられて死んだんだ。俺も、何度危ない目にあったか知れねえ。さっきは奴らに何の感情もねえって言ったが、あれは嘘だ。役所の調査かと思っていたからな。本音を言えば憎んでいる。奴らなんて絶滅しちまえばいいんだ。奴らのテリトリーを山に限定して、数を管理するなんて、役所のやり方は馬鹿げている。いつかこっちが痛い目にあうかも知れねえってのに。 何? 役所の指示以上に狩っているだろうって? 何でそんなこと知ってるんだ? そうか、お前たちも山に入って調査してるって聞いたことがある。俺が全滅させた群を調べたんだな。役所にバレねえように埋めておいたんだがな。 役所の倍の金? それで狩りをやめろって? ふざけるな! 役所のはした金のためなんかで、この仕事ができるか。こっちは命張ってんだ。この仕事をやめたら俺が俺じゃなくなっちまう。俺は奴らを狩るために生きてるんだ。役所からクビになったって無許可でやってやる。 この前、群を全滅させたときのことを教えてやろう。まる一日、群の様子を観察し、まずボスをやった。それから若いオス、次に年取ったオス。それから普通はメスをやって最後に子どもだ。強い順に狩るのが鉄則だからな。だがな、俺は奴らが苦しむ姿が見たかった。だからこの前は、メスを最後にやったんだ。メスどもの目の前で子どもをやって、それを見せつけてから、メスを皆殺しにした。どうだ。俺はそういう男だ。俺に狩りをやめさせようなんて無理だってわかったろ? 一ついいことを教えてやろう。お前たち動物愛護の団体ほどじゃねえが、奴らを憎む者たちのグループも、密かに存在するんだ。奴らなんて滅ぼしてしまえって思っている仲間たちが、けっこういるのさ。俺は、その仲間うちでこう呼ばれている。「ヒト殺しの名人」ってな。 大昔、この世界を支配していたかどうか知らねえが、人間なんて害獣は滅んじまえばいいんだ! ここは、俺たち猿の世界なんだからな! 〈了〉
- 七積 ナツミ
はじめまして。つくログの使い方が分かっていなくて、大丈夫かな、と心配です。企画に参加したいです。テーマ「名人」の回の作品です。よろしくお願いします。#第35回どうぞ落選供養 おばけはだあれ? 七積 ナツミ 向かいの家に住んでいるやっちゃんは、怖い話の名人だ。夏になると、近所の人達を集めて怖い話をする。やっちゃんが十歳の時、突然怖い話をするようになったらしい。その年からは毎年欠かさず人を寄せているそうだ。それが本当なら、今年は八十回目のお話会だ。お話会についてはどこから共なく噂が流れる。今年も大人たちの世間話に、その噂はこっそり紛れていた。 「祭りはいいけど、準備が容易じゃないわ」 「今年も祭りの前にあるんだべ」 「お前んちは行くんか?」 「そうな、こどもが楽しみにしてるもんで」 「小林さん家もだわ。誘わんと!」 やっちゃんの家は農家の一軒家で、ボロ屋だ。母さんたちはボロ屋だって口に出しちゃダメっだって言うけど、ボクにはどうしたってボロ屋に見える。網戸は破けているし、窓から覗くと部屋の中は古い家具や道具でいっぱい。テレビで見たゴミ屋敷みたいだ。庭の畑には野菜がたくさん植えられているけど、どれも萎びている。納屋の土壁にぶら下がっている農機具はどれも古くて錆び付いているのに、妙に鋭く、一振りで人の首くらいは飛びそうだ。どんなに晴れていてもやっちゃんの家の敷地に入ると、ひんやりして薄暗い。 お話会の日には、やっちゃんは庭に縁台を用意して、そこに煮物や、漬物や、切った野菜や果物など、聞きにくる人たちへのもてなしを用意している。真夏は日が長いから夜の七時でもまだ明るくて、薄暗くなる夜八時頃から人が集まり始める。お話が始まるのは大体九時頃で、それまでみんなやっちゃんの用意したもてなしを頂きながら、大人たちは自分の家から持ち寄った、ビールや麦茶を飲んで、世間話をして過ごす。こどもたちはやっちゃんが玄関先で餌をやっている猫たちを構ったり、鬼ごっこやかくれんぼをして過ごす。そうしているうちに刻々と日は暮れる。 お話が始まる合図は和太鼓の音。やっちゃんの家の中から、大きな和太鼓の音が三回聞こえる。 どおーん、どおーん、どおーん しばらくすると、白い着物を着たやっちゃんが、玄関から出てくる。右手には太い長い蝋燭を持って、その火を消さないように、ゆっくり、平らに歩く。やっちゃんの陽に焼けた皺皺の右手が小刻みに震えて、炎と黒い影を揺らす。移動しているやっちゃんと目が合った。それも、ピッと長めにボクの方を見ていた。ぼくは蛇に睨まれたカエルのように固まってしまった。やっちゃんの瞳の強さが、炎の残像のように瞼の奥に焼きついた。いよいよお話が始まる。 「あれはたしか、去年の今日だ。オラは、朝から今日準備したのとそっくり同じに話をする準備をした。料理をこさえて、野菜や果物を並べて、白装束にアイロンをかけた。そん時、ちょっと頭が痛くなったんだあ。頭抱えるほどでもねえし、大したことねえと思って、そのまんま夜まで過ごした。そん時になあ、よくよく気をつけてやれば良かったんだがなあ、まづまづ、事はそんなにうまくねえ。日も暮れ始めて、いよいよと言う時になあ、今日みたいに集まったこどもたちが、かくれんぼして、遊んでたんだあ。始まるからってんで、西の家の安子さんが、子どもたち集めて座らせた。それを見てオラは和太鼓を鳴らした。蝋燭に火をつけて、今日みたいに、玄関からここまで、そろそろと歩いた。そん時に、まあた、頭が痛くなったんで、ああこれはまずいなと思った。かくれんぼの中から出てきていないこどもがおる」 生ぬるい風が吹いて、汗ばんだ肌を舐める。大人たちはやっちゃんに釘付けで話の続きを待った。こどもたちはまんまるい目玉でお互いの顔を見合わせ、震えた。 「その年は、お話が終わっても、そのかくれんぼが終わらなかったでなあ。オラは一年中、付き合わされることになった。オラは確かめる時、『もういいかい』と大きな声で叫んだ。そうすると聞こえてくるんだ、こどもの声で『まあだだよ』」 大人たちもそれぞれに目を丸くしてお互いの顔を見合わせる。そして、一人ずつのこどもの顔を確かめるように見て回る。 「んだども、もう、付き合えんでなあ。今日が最後じゃ。成仏するんじゃ」 そういうと、やっちゃんは胸元から白い長いお札を出して蝋燭の火で焼いた。炎が一番高く上がるのと同時に大声で叫んだ。 「もおいいかああい」 「もおいいよお」 思わず、ボクは、言ってはならない一言を叫んでいた。これを言ったらボクはもうここにはいられない。そこにいる大人もこどもも、みんなが皿のようなまあるい目ん玉でボクのことを見た。やっちゃんはピッとボクを見てから、やさしく笑ったように見えた。
- 名上 了
#第35回どうぞ落選供養 初めまして。「冗談」のお題に出したものです。 「怪獣の生まれた日」 マラソン大会をぶっ潰す! カズキはそう心に堅く誓った。カズキの中学では毎年二月にマラソン大会があり、今年もあと二週間に迫っている。二年生のカズキは、去年の大会の悪夢を思い出して震えた。 学校の体育の授業は好きで、百メートル走のタイムは十四秒を切るし、運動神経は人並み以上だと自負している。ところが、なぜかマラソンだけは苦手だった。 去年も、途中で脇腹が痛くて走るどころか歩くのがやっとになり、後から走って来た連中にどんどん追い抜かれて、ビリに近い順位になってしまった。耐えがたい屈辱だった。 マラソン大会のコースには、学校の近くにあるシローズ池の周囲を周る道が使われる。この池は「V」の字の形をしていて、真ん中の三角形の所は公園になっていた。小学校の頃、カズキはよく戦艦の模型を作ってシローズ池に浮かべて遊んだものだった。それを思い出したカズキは、ある壮大な計画を思いついた。 発泡スチロールを切り出して三角形のパーツを八枚作り、徐々に大きさを変えて、並べると恐竜の背びれっぽく見えるようにした。それに絵具で色を塗る。青と緑を混ぜたベースに、少しずつ黒を足しながらグラデーションをつけて行く。仕上げに防水処理を施すと、なかなかの出来栄えだった。材料費でお年玉の残りが消えてしまったけど。 「あの集中力を勉強に向けてくれたらいいのにねえ……」カズキの母はため息をついた。 マラソン大会一週間前、早朝のシローズ池。カズキは背びれを小型のブイ八個に取り付け、紐で直列にラジコン式水中モーターに繋いだ。かじかむ手に息を吹きかけ、モーターを蛇行運転させると、背びれは大蛇のごとく身をくねらせて、滑るように水面を進む。背景との画角工夫を重ねながらなんとか動画を撮って、さっそく動画投稿サイトにアップロードした。タイトルは「大発見!シローズ池の怪獣シロッシー!!」 これでシローズ池には連日野次馬が押しかけて、マラソン大会なんかできなくなる。観光客がいっぱい来て、屋台が並んで名物『シロッシーまんじゅう』が売られ、テレビ局が池の水ぜんぶ抜いちゃうかも……カズキはニヤニヤしながら妄想に浸った。 翌日、学校から帰ったカズキは、真っ先に動画サイトをチェックした。閲覧数は……六回。それは全部カズキ自身によるものだった。 「まあ、初日だからな」だが、次の日も、その次の日も、閲覧者は自分だけ。四日目にようやく閲覧者が現れて、一件のコメントがついた!……のだが、そこに書かれていたのは――「シロッシーwwwwだっさw」 心ない言葉を浴びせられ、すっかり嫌気がさしたカズキは、サイトを見るのをやめてしまった。こうなったら後は神頼み、大会の日に大雨が降りますように! マラソン大会当日――空は無慈悲に晴れ渡り、カズキの最後の儚い願いはシローズ池の水面に砕け散った。 「パーーン!」スタートの合図と共に、一斉に生徒たちが走り出す。カズキも重い足と心を引きずりながら嫌々出発したが、池を一周もしないうちから、もう脇腹がチクチクと痛みだした。氷の針のような空気が肺に突き刺さり、息が上がった。泥沼にはまったように脚が重い。(もうダメだ……ビリになるくらいなら、いっそ棄権しよう)と、その時―― 「シロッシー!!」 幼稚園くらいの男の子が、池に向かって叫んでいた。横にいる母親が、スマホの画面をその子に見せている。シロッシーの動画だ! そして、偶然水面近くで大きな魚が跳ねたのか、ボチャンと水しぶきが上がった。 「ママー、シロッシーのしっぽが見えた!」 男の子は池の柵にしがみついて、必死になって水面に手を振っている。 それは、本当に不思議な感覚だった。シロッシーは、今まではカズキの頭の中だけに存在する、背びれのほかには身体や脚や頭さえも持たない影のようなものだった。それが今この瞬間、この子の心の中で、シロッシーは生きて、自由に泳ぎ回っているのだ。 カズキは、背中から胸にかけて、熱い塊がじんわりと拡がってゆくのを感じた。胸の内側が、くすぐったくって仕方なくて、足の裏で地面を蹴ると、自然に身体が浮き上がる。前へ前へと進むのがひたすら気持ちいい。涙が滲む目を、手の甲でぐいっとぬぐう。寒さも、息が苦しいのも、脚のこわばりも、脇腹のチクチクする痛みも、いつの間にか、なくなっていた。 (いつか、かならず、お前をこの世界に解き放ってやる!この空や、水や、大地を、全部お前のものにして、好きなだけ暴れさせてやるんだ。待ってろよ、僕の怪獣シロッシー!)
- 黄砂夢
#第35回どうぞ落選供養 表題 名人を分けるカレー 筆名 黄砂夢 「なんだ、私より料理うまいじゃん」 一人暮らしをし始めた私は、自炊をするようになった。カレーの作り方さえしらなかった私だったが、昔付き合っていた彼女が家に来た時カレーをご試走したら彼女が悔しそうにそう言った。その時作ったカレーはには牛乳を少しいれてバターで鶏肉を炒めていた。確かに、その時できたカレーは我ながらうまかった。一番の出来だった。だから、彼女にも食べて欲しかった。彼女は毎日料理をする人だった。私より何十倍も料理のレパートリーがあった。その彼女が負けを認めたのは驚きだった。 「そっか、うまいか。よかった」 別の男の友人も私が作ったカレーを食べたことがある。 「うん、普通にうまいんじゃないかな」 彼はそう言った。自称料理をする男であった。たぶん、たまに家で作っているのだろう。 でも、彼の手料理は外れが多かった。しかし、私より料理が出来るという自負があった。 「普通にうまいと思う」 彼女と別れてから、別の女性が私のカレーを食べた時にも同じことを言った。彼女も私より料理がうまいという自負があった。しかし、いつも夜遅くにカップラーメンを食べてるようなすさんだ生活をしていたし、彼女が私の家の台所に立つことはなかった。 「うまいねぇ、やるじゃん」 また、別の女友達に私のカレーを食べさせると褒めてくれた。彼女は、大の料理好きで 昔、料理をする仕事についていた。 その時に私は、私の作ったカレーを食べさせると誰がどれくらい料理をしていて、腕前がどのくらいあるかがわかるということに気が付いた。たまに料理をする人にとって独身男性のカレーはとるに足らない料理に見えるらしい。そして、そういう人は自分の舌に自信がないようだ。うまいものを食べた瞬間にうまいと言えず、プライドが邪魔をして、普通にうまいと思う、と言ってしまう。うまいかどうかの判断さえできないのだ。 そして、私はついに料理の名人に私の作ったカレーを食べてもらう機会を得た。彼はあるホテルの料理長をやっていたらしい。彼がスプーンで、カレーのかかった白いご飯を口に運ぶと右の眉毛がピクリと吊り上がり言った。 「うまいな。うん、うまい。君のカレーはうまいよ」 思った通りの反応だった。料理長の反応は早かったし、その言葉に迷いがなかった。私は、料理の名人に認められたのだ。 髭についたカレーを拭きとりながら料理長は言った。 「味覚とは才能だな。どんなに料理を知っていてもうまいかどうかの判別ができない人が多い。そして、評論するんだ。自分では決して作ったことのないものに対して、ああでもないこうでもないというよ。それは、料理に限ったことではないな。皆、評論家で、傍観者なんだ。舞台にあがった勇敢なプレイヤーに対して、尊敬するどころか上からものをいうかの如くアドバイスして、さも私は知っているという顔をする。人生とは、やるかやらないかだ。やらない奴は評論する。できないやつはアドバイスする。そして、差がついて行くんだよ」 「今日のカレーはどうかな?」 「まぁ、うまいんじゃない?」 あれから、私は結婚した。たまに妻と娘のためにカレーを作る。決まって、妻はそういう。彼女はすべてにおいて私よりできた。仕事に掃除、洗濯、車の運転まで。私の不器用さをみて呆れるばかりであったが、唯一カレーに関しては私の方がうまかった。 「ゆうな、カレーうまいか?」 私は愛娘に聞いた。彼女はどんぐりの様な目で私を見つめるとすかさず言い放った。 「めっちゃ、おいしい」 左の頬にご飯粒をつけた彼女は、迷うことなくはっきりと言った。 その言葉を聞くたびに、私は彼女が私の才能を受け継いだのだと確信ている。彼女は料理の名人だ。料理の名前を知っているエセ敏腕料理人とはちがうのだ。 今度の日曜日に私の家で、保育園の保護者の人たちを呼んでカレーパーティーをすることが決まった。久々に私のカレーを振る舞うチャンスを得た。その中に、三人料理の腕に自信ありの人がいた。そして、その中に、私の苦手とする上からアドバイス人間がいた。 私は、密かにほくそ笑んでいた。さぁ、言うぞ。カレーの見た目は悪くないが、ここで自分より料理の腕ががうまいと認めるわけにはいかない。だとしても、あからさまにまずいと言ってしまえば味音痴だと思われる。そうだ、ここはひとまず誉めてやろう。認めてやろう。 「ちょっと、お口に合うか自信ないですけど、いかがでしょうか?カレーの味は?」 すると、さらさらヘアーの私より若いお父さんが、眼鏡の柄をさわり、その位置をあげると言った。 「うん、普通においしいと思いますね」 私は、勝ち誇った気分でいた半面、味がわからない相手にカレーを振る舞う虚しさに 打ちひしがれていた。 「あ、これはうまいですね」 次の瞬間、どこからか聞こえた、その言葉を聞いて私の料理への情熱は生き返ったのだ。皆が帰ったら、今度はトムヤムクン風鍋の研究をしよう。心の中でそう呟いていた。
- ナラネコ
#第35回どうぞ落選供養 つくログの存在を初めて知りました。 ちょっと惜しいと思う落選作品は、また書き直そうと思ってとっておいたりしますが、これには何の未練もございません。 成仏させてください。 タイトル 木片の舟 作者 ナラネコ 私が小学生の頃だから、かなり昔の話になる。 私を含む同級生四人は帰宅する方向が同じだった、みんな塾にも通っていないし、少年野球をやっているわけでもない気楽な連中ばかりだ。したがって校門を出て一キロくらいの通学路を、だらだらと無駄話をしながら歩くことになる。 その道のりの中で、一つ目の角を曲がると、道路脇が川になっていた。川といっても幅が一メートルくらいの用水路で、私たちの帰宅する向きに流れていた。川の反対側の道路脇には、雑草が生い茂る空き地があり、すぐ横に製材所があったためか、廃棄されたガラクタや木片、金属片などが転がっている。 子どもは、大人が思いもよらないことに心を奪われるものだ。その遊びを最初に思いついたのが誰だったか記憶にないのだが、いつの間にか私たちは夢中になっていた。 角を曲がると、まず空き地に入って、転がっている木片の中から自分の舟を探す。木片はカマボコ板大のものが手頃だった。皆が舟を選んだら、川の中に一斉に投げ入れる。舟はプカプカと用水路を流れ、私たちはそれを追いながら歩いていく。途中に色々な障害物、たとえば泥の中から突き出した木の杭や堆積したゴミの塊といったものがあり、舟はひっかかったり向きを変えたりする。川は最後の十メートルほどの間、上に鉄板がかぶせてあり、中が見えない。舟が鉄板の暗闇から姿を現すと、すぐに流れは小さな滝となって落下し、その向こうを流れるさらに大きな川に合流する。 遊びのルールは、鉄板の向こうからいちばん先に出てきた舟が勝ちというものだった。鉄板の下がどうなっているのか見えなかったので、最後の暗闇の中で順位が入れ替わることがよくあった。したがって、私たちはいつも誰の舟がいちばん先に姿を現すか、わくわくしながら待っていた。 誰が勝つかは偶然に左右される。いくら流れやすい舟を探し当てても、途中の障害物によって状況は大きく変わるのだ。したがって、遊びを始めてしばらくの間、私たち四人の順位は、毎日入れ替わっていた。 ところが、ひと月ほど経った頃から、一位になるのが尾田という奴ばかりになったのだ。尾田は四人の中でいちばん小柄で、坊主頭にしているため、周りからオダボンと呼ばれていた。今でいうところの「いじられキャラ」で、何を言われても怒った顔を見せたことがない。尾田はいちばんこの遊びに熱中していたのだが、彼の舟は、それまで遅れていても鉄板の下から必ず最初に姿を現した。あまりに強いので、「オダポン」というあだ名が、「名人」に変わったほどだ。 「名人、いつも強いなあ。何かワザでも使っているのか」と四人の中でリーダー格の深沢が言った。 「リモコンで舟を操っているんじゃないか」と言ったのは、いつも軽口をたたく森口。 「とにかく、これだけ続いたら偶然ってことはないだろ。秘密を教えてくれ」と私も尋ねる。 だが、私たちがいくら聞いても、尾田は、いつもニコニコ笑うだけだった。 事件が起こったのは、そんなことを話していたある日のことだ。 いつも通り、私たち四人の舟は鉄板の下に姿を消した。これまでなら、鉄板の向こうから名人である尾田の舟が姿を現すはずだった。だが、真っ先に出てきたのは深沢の舟だった。続いて私の舟、やがて森口の舟が姿を見せ、尾田の舟はついに姿を現さなかった。 「やった。トップだ」と深沢が手をたたき、「名人、今日は調子が悪かったな」と私は笑って尾田の方を見た。 すると、尾田は歩道の上に倒れて、胸を押さえ、「グワオ、グワオ」というような言葉にならない呻き声を漏らし、苦悶の表情を浮かべながら転げ回っているのだ。私たちは尾田のそばに寄ったがどうしようもない。その様子を見て、通りかかった大人たちも集まってきた。 「こりゃいけない。救急車を呼ぼう」と誰かが言い、公衆電話に走ろうとしたとき、もしやと思った。私は集まってきた男性数名に向かって叫んだ。 「お願いします。その用水路の鉄板を一枚外してください」 「どうしてだ?」 「とにかくお願いします。救急車はそれから」 半信半疑の様子だったが、集まった男たちが力を合わせて「エイヤッ」と鉄板を持ち上げ外してくれた。するとそこにいたのは、今まで見たことのないような大きな化け物ガエル。そいつが尾田の舟の上に乗っているのだ。カエルは私たちの顔を眺めていたが、私が棒きれでつつこうとすると、水の中に飛び込んで泳いでいった。同時に尾田の舟もプカプカと川面に浮かび、流れ出した。 尾田を見ると、今までの苦悶が嘘のようにぼんやりした顔で座っているのだった。周りの者が聞いても、今までのことは記憶にないという。 彼はこの遊びに熱中し過ぎ、魂が舟に乗り移って操っていたのだった。いつもは鉄板の下の暗闇の中も、川の主である大ガエルに捕まることなくすり抜けていたのが、この日は不覚を取ってしまったのだろう。魂が奪われるほどあんな遊びに夢中になるとはおかしなやつだと、みんな彼のことを笑ったものだったが、本当の名人とはそんなものかもしれないと私は思った。 単独無寄港世界一周を何度も成功させた伝説のヨットマン、尾田一樹の小学生時代のエピソードである。