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ふやけた

小説でもどうぞ、アートの落選作の供養をします。 恥を晒します。 セルフチェックとしては、詰め込み過ぎてプロットみたいになったのが 問題かもしれないと感じています。 「花園のフローラ」 放課後の美術室にて、皆はコンクールに出す絵をせっせと描いていた。一方私はというと、キャンバスを前に途方に暮れていた。とりあえず無難に花畑の下描きを描いていたが。 これまで何回か入選してきた。でも大賞には届かなかった。そこまで執着していないつもりだったけれど、こうして何を描こうか悩んでいるというのは、どこかで認められたいと思っているからだろう。 顧問の先生が近づいてきた。私がおそるおそる先生を見ると、優しく微笑みかけてきた。 先生は優しく、めったに作品を批判しないが、それでもおそれてしまう。 幼い頃から絵を描くのが好きだった。いろんな絵を描いた。特にアニメや漫画のキャラクターを描くのが好きだった。そして絵を友だちや親に見せて褒められるのも好きだった。 でもあるとき、口が悪い子にこう言われた。 「これってパクリじゃん」 それは、当時の私が渾身の力を込めて描いた魔法少女フローラの絵だった。フローラは魔法を使って困った人を助ける優しい女の子だ。昔から大人気なアニメの主人公で、私は作品もフローラも大好きだったし、今でも好きだ。 そんなフローラを描いた力作を否定され、強いショックを受けた。 以来、絵を他の人に見せるのが苦手になった。 部活が終わり、皆が片づけをする中、私は誰も見ていないのをいいことに、スケッチブックに落書きをした。長い髪をした目の大きな女の子。フリルいっぱいで花柄の衣装を着たフローラだ。 自分の描いた絵にうっとりしていると、不意に声がした。 「へえ、可愛い。相変らず絵がうまいね」 振り返ると、いつの間にか部員の山本さんが後ろにいた。 私は慌ててスケッチブックを閉じると、さっさと片づけをすませ、教室を後にした。 家に帰るとすぐ自室にこもった。 ポスターに描かれているフローラは、いつもと変わらぬ笑顔をくれる。机の周りには彼女の人形やグッズを、本棚にはコミカライズ作品や公式ファンブックも置いている。 机に向かうと、フローラの絵を描きはじめた。夏なので浴衣を着た姿だ。 しばらくして扉がノックされた。夕飯ができたという合図だろう。部屋には入らないでとあらかじめ釘をさしている。ここは私の聖域。誰にも見られたくないし、入られたくもない。 『本当に?』 内なる声がした。あるいは独り言か。でもそれは、私ではなくフローラの声に似ていた。 再び美術の時間。 昨日の続きだが、どうもしっくりこなくて花畑の下絵の前で固まっていた。 山本さんをちらと見る。他の部員と互いの作品を批評し合っていた。絵は正直巧いとは言い難い。けれど恥ずかしがるそぶりを見せず楽しそうだ。ちょっと羨ましかった。 彼女に聞こえないよう、小声で顧問の先生に聞いてみた。 「山本さんの絵、どう思いますか?」 「とってもいい絵です。彼女の素直な人柄があふれています」 なんだか自分が責められているような気分になった。ふと先生は目を細めて言った。 「悩んでいるようですね」 「はい」 「あなたの絵はいつも丁寧でうまく描けていますが、どこかぎこちないところがあると感じてもいました。もっと自分を出してもいいんじゃないでしょうか」 先生にはお見通しだったのだ。私が周りの目を気にしすぎていることを。 意を決した私は、最初に描いていた花畑の中心に、フローラの絵を大きく描き出した。 多くの部員たちは自分たちの作品に集中しており、気にも留めなかったが、一人の部員が私の絵の異変に気づいた。 「あれ、アニメのキャラだよね。いいのかな」 すると他の部員たちのささやきも聞こえだした。皆の視線が痛く、羞恥心が私を襲う。 そのとき山本さんの大きな声がした。 「フローラだー! 私も大好き!」 彼女の言葉が後押しとなった。それからは一切迷わなくなった。一心不乱に描き、無事に作品が完成した。 花畑で楽しそうに笑っているフローラの絵だ。 作品名は『花園のフローラ』。 コンクールの結果はものの見事に落選。選評などは当然ない。ただし応募した部員たちの作品はすべて、文化祭の日に美術室で展示される。 評価が気になった私は、美術室を訪れ、他の人の反応を立ち聞きした。悪目立ちしていたからか、私の絵の前で足をとめる人は多かった。可愛いと言ってくれた人も何人かいたが、二次創作やパクリと批判した人のほうがずっと多かった。 私は拙作をじっと見つめる。花畑とフローラのタッチがかなり異なっていて、アンバランスだと感じた。 そこへ顧問の先生がやってきた。 「今回の私の作品、どう思いましたか?」 「とってもいい絵ですよ」 額面通りに受け取れなかった。 「落選で、しかも二次創作なのにですか?」 先生は優しい笑顔でこう応えた。 「たしかに今回のコンクールは、オリジナルの作品を求められていました。規定違反での落選もやむを得ないでしょう。それでも私はこの絵が好きです。ここに描かれているお花畑も女の子も、どちらも本当のあなただからです。この絵にはあなたらしさがあふれています」 先生の言葉で確信した。ここからが本当の始まりなのだと。 そしてこの『花園のフローラ』は、のちの私にとって大切な習作となるのだった。 #第36回どうぞ落選供養

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