小どぞの落選供養が続々と。では、私も恥ずかしながら… #第38回どうぞ落選供養 テーマ〈サプライズ〉 【バツイチ限定合コン】 職場の知人Sが主催した「バツイチ限定合コン」での話である。 丸いテーブルを囲んでいるのは、私を含め、男性三人、女性四人。 私と知人のS以外は、皆、初対面。Sがネットで集めたメンバーだった。本当は、男性がもう一人参加する予定であったが、何かの都合で遅れていて、今になっても現れないので、おそらくもう来ないと思われた。 進行役のSの段取りがよく、楽しい時間が過ごせていた。 自己紹介から始まり、いくつかのゲームをして、皆、打ち解けたところで、私たちは「人生で経験した驚くべき話」というお題で一人ずつ話をすることになった。話す順番はくじで決めた。 「最後は私ですね」私は皆の顔を見渡してから、おもむろに話始めた。 「実は、私がこの話をするのは、今回が初めてです。出来れば、封印してしまいたい話なのですが、皆さんのお話を聞いていて、何故かお話ししたくなりました。思い出しながらの話になりますから、たどたどしくなるかもしれませんが、ご容赦ください。すべて本当のことです」私がそう切り出すと、皆の興味深そうな視線が私に集まった。 「もう十年以上前の話です。私は当時働いていた職場で、ある資格試験を受けることになり、受験者向けの講習会に参加しました。そこには、同じ業界の人間が一堂に集まっていました。四日間の講習中に、私は一人の男と知り合いました。初日にたまたま隣の席になったのが縁です。同業他社の社員で、Mと言います。Mと私は、講習会の四日間、共に学びました。講習会が終わって、二週間後が受験日であったと思います。その間の土日、私たちは、一緒に勉強をする約束をしました。同い年であることもあり、私たちは気が合ったのです。Mの好意で、私がMの自宅へ伺うことになりました。 土日の二日間、一緒に勉強をし、日曜日の午後には、二人とも合格間違いないと自信を持って勉強を終えました。そしてその日、Mの奥さんの好意で、夕食をいただくことになりました。奥さんが、夕食の支度をする中、私とMはとりとめもない話をしていました。 そんな中、Mが奥さんに声を掛けました。「いずみ」と。私は驚きました。私の妻の名も同じ「いずみ」でしたから。私たちは、奇遇ですねと笑い合いました。ですが、笑っていられたのは、それまででした。話の流れで、結婚記念日が、二十三歳の七月十五日。全く同じだとわかったのです。偶然の一致は、それだけではありません。私たちには、互いに一人娘がいました。名を「沙也加」と言います。娘の名前が同じだとわかった時には、もう奥さんは夕食の支度を中断してしまいました。私たちは、驚きを通り越して怖くなったのです。Mが告げた娘の誕生日も、私の娘と同じでしたが、私はわざと『誕生日は違う』と言いました。Mも奥さんも、ほっとした様子でした。奥さんが気を取り直したように夕食の支度を再開し、私たちは努めて和やかに食事をしました。 食事中、私たちは、互いの共通点を探すような話題は、避けました。暗黙の了解でした。 食事が終わって、お暇をしようとした時、Mが受験票の書き方で、私に質問をしてきました。私は、書き方を教えるために、Mの受験票を見て、愕然としました。そこに書かれていたMの生年月日は、私と全く同じだったのです。私の様子がおかしいことに気づいたMに『どうかしたのか』と問われた私は、黙って自分の受験票をMに差し出しました。それを見たMが『誕生日が同じだ』と声を震わせました。その時、私の背後で『ガチャン』と大きな音がしました。流し台の前にいた奥さんが、手にしていた皿を落としたのです。奥さんは、そのままゆっくりと床に座り込み、立てなくなりました。 幸いにして、奥さんに大事はなく、私はそそくさとMのお宅を辞しました。そして、その後、資格試験の当日も、またそれ以降も、私たちは二度と連絡を取り合うことをしませんでした。試験会場にMが来ていたことは知っていました。Mも私のことに気が付いたはずですが、声を掛けてくることはありませんでした。そして、それきり彼とは会っておりません。世の中には、信じられないほどの偶然があるものです」 私が話を終えると、その場の空気が凍り付いていた。女性陣は、両腕を抱くようにして鳥肌だった腕をさすった。 その時、個室のドアが開いて、一人の男が入ってきた。 「申し訳ありません。仕事の都合で、大変遅くなりました」男はそう言うと頭を下げた。 「ああ、お待ちしておりました」Sがそう言った。 「どうして?」私がそう言うと、私に気づいたMも驚いたように目を見開いていた。 「二年前に離婚したんだよ」そう言うMに私は、問いかけた。 「まさか、二年前の結婚記念日か?」Mが黙って頷き、私はあまりのことに言葉を失った。 せっかく主催してくれたSには申し訳なかったが、その日の合コンは、誰一人、二次会に参加するものがなく、連絡先の交換をすることもなく、解散となった。
karai