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こうら さしあげます

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こうら

さしあげます

んが

みなみの小さな島にとってものんびりやのカメさんがすんでいました。

「あーあ。いやになっちゃう」

カメさんはのびをしました。

「せっかくのきれいなこうらがだいなしだよ」

カメは、ノコギリザメにかじられた背中のてっぺんのギザギザを恨めしそうに見ました。

満月の夜です。

「よう、カメ」

キイキイいう声が頭の上から聞こえてきました。カメは首をのばします。

「や、ヤーさん」

なんと、背中にはまっくろいサングラスをかけたヤドカリが乗っています。

「ぼーっとしているからよ。おれさまが背中に乗ったのもきづかなかったろう」

はさみをチョキチョキならしました。

「ごめんね。いま、考えごとをしていたんだよ」

「いったいなにを考えていたんだい」

ヤドカリは、カメの背中から頭へと、ちょこちょこと移動します。

「えーっと、なんだったっけなあ~」

ヤドカリは顔の上まで来たかと思うと、えいやっとカメの鼻をはさみました。

「ああっ いたいよ、ヤーさん」

カメは赤くなった鼻をさすりました。ヤーさんのハサミが少しこぼれておちます。

「そうだ。ぼくね、いったいどうすればきれいになるのか考えていたんだよ」

「顔がか?」

不思議そうに小さな瞳を見開きます。

「ちがうよ、こうらだよ」

風がほんわりと音をたてて通り過ぎます。

「そんなの、かんたんじゃないか」

「なにがさあ」カメがむくれます。

「べつのこうらとこうかんすればいいのよ」

事もなげにヤドカリは言いました。

「べつのだって?」

「そうさ、おれさまみたいに気にいらなくなったら、ほかのものをさがしにいけばいいのさ」

「そうかんたんにいくかなあ」

「かんたんにはいかないさ」

カメはしばらく考えました。

「そうかあ、それもいいねえ。どこかにちょうどいいこうらがあるといいな。ありがとう、ヤーさん」

「てれるぜ」

ヤドカリはちょっとだけカメのあしをはさみました。カメは、ゆっくり立ちあがりました。ヤドカリは、はさみをはさんだままです。

「何かぼくに話があるの?」

ヤーさんは、サングラスをちょいと頭にかけました。

「じつはしばらくろくなもの食べてなくてね。もうおなかすいて、フラフラ、イライラ」

「あれあれ」

「はさみだってちょっとならしただけでかけちゃうし」

「あらあら」

「だからさ、おねがいですからカメさんよ。そのカルシウムたっぷりのこうらを少しばかりわけてもらえませんかね」

ヤドカリは殻の中からそっとカメをのぞき込みました。

「うーん。何日も食べていないなんて、ぼくには考えられないよ」

カメが考え込みます。

「ということは、わけてもらえるんですかね」

ヤーさんがお月さまをぼんやり見ていると、カメが顔をあげました。

「いいこと考えたよ」

「なんでしょう」

「ぼくのこうらをきみにあげるよ」

「えっ、こうらをですかい」

ヤドカリはびっくりしてひっくり返ってしまいました。

「そうだよ。そうすれば、これからヤーさんがえさにこまることもないし、イライラすることもないでしょ。」

「カメさんのこうらをあっしが背負うんですかい? それはちょっと無茶な話ですよ」

「何を言ってるのさ、ヤーさん」

カメは、くふふふっとわらいました。

「あげるっていうのは、こういうことだよ」

カメは、ヤーさんを背中にそっと乗せました。

「ここなら、あんしんしてこうらを食べられるでしょ」

「ああ、いつでもいっしょってわけですね。それならサメにかじられたところをきれいに食べてさしあげますよ」

「きれいになったらサンゴでもかざってみよう」

「ひゃっほう」

ヤーさんは、サングラスをはずすとカメさんの鼻にちょんとかけてあげました。