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阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「犬」三浦散穂

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第52回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「犬」三浦散穂

風が昨日よりも冷たいような気がして、幹にひとつ傷を加えた。その日は雌鹿が獲れ、犬と共によく食べた。

武器がよく売れている、と商人は言ったが、数は増やせないと言って断った。それから何日かして町から火が上がるのが見えた。私は身につけられる道具だけを持って住処を離れ、別の町に移った。路上で鍋を叩いて日銭を稼ぎ、包丁研ぎの注文が増えてきたところで山に小屋を建てた。それから炉を作り、包丁も研ぐだけでなく作って売るようになった。注文が増えてきたところで武器を作って売るようになった。風が暖かいような気がして、幹にひとつ傷をつけた。その日は雌鹿が獲れ、犬と共によく食べた。

武器が売れない、と商人は言った。それから何日かして町から火が上がるのが見えた。私は小屋に籠もって火が消えるのを待ち、何日かして焼け残った町に入った。そして路上に道具を広げてみたが、声をかけてくる者は一人もなかった。私は身につけられる道具だけを持って住処を離れ、別の町に移った。その日は雌鹿が獲れ、犬と共によく食べた。

路上に道具を広げても声をかけてくる者はなかった。私は武器を作っている工房を訪ね、職人として雇ってもらうことになったが、遣り方を否定され、侮蔑と暴力を受け、掃除洗濯煮炊きの他にはさせてもらえなかった。犬は工房に入れてもらえず、残した食べ物を物陰で与えていたが、鹿肉を調理した日から姿が見えなくなった。武器がよく売れている、と商人は言い、数を増やそうと親方が答え、私も鎚を振るうことになった。私は出来が悪い物を早く多く作った。侮蔑は受けたが暴力は止んだ。風が冷たいような気がして、工房の柱にひとつ傷をつけた。その日は鹿肉を調理して、職人と共によく食べた。

風が冷たいような気がして、工房の柱にひとつ傷を加えた。もう誰も私に暴力を振るわなかったし侮蔑もしなかった。私は出来が悪い物を早く多く作り、職人と共によく食べ、犬を探しに山を歩き、偶に雌鹿を獲って帰った。獲った鹿は職人に食わせ、私は手をつけなかった。犬は見つからず、風が暖かくなり、工房の柱にひとつ傷を加えた。

武器がよく売れている、と商人は言った。それから何日かして町から火が上がった。職人は殺され、あるいは捕らえられ、私は捕らえられ、武器を取って人を殺すことになった。そして出来が悪い者を早く多く殺し、兵と共によく食べ、犬を探しに出歩いた。雌鹿は獲れず、犬は見つからず、風が冷たくなり、自分の腕にひとつ傷をつけた。

風が冷たくなり、自分の腕にひとつ傷を加えた。傷は二十まで数えることができた。毎日のように人を殺し、殺さない日は兵を連れて犬を探しに出かけた。その日は兵も私も道に迷い、山で夜を明かすことにした。鹿がいた、と兵が言い、命じて獲りにやらせた。一人行って帰らず、もう一人行って帰らずとしているうちに私は独りになった。火の前で動かずにいると一頭の雌鹿が私の前に現れ、照らされた前肢にナイフでつけたような傷が無数についているのが見えた。私は鹿の目を見据えたまま矢を番え、尻を向けたところを射た。矢は前肢に刺さり、鹿はよたよたと藪に入っていった。私は独りで食べ、独りで山を下った。

風が昨日よりも暖かくなった気がして、自分の腕にひとつ傷を加えた。傷は四十まで数えることができた。兵も私も武器を取り上げられ、居場所を失った。私は身につけられる道具だけを持って町に移り、路上で鍋を叩いて日銭を稼ぎ、包丁研ぎの注文が増えてきたところで山に小屋を建てようとしたが、そこには私が建てた小屋があった。傷んだところに手を入れ、炉を直し、包丁を作って売った。武器がよく売れている、と商人は言ったが、扱ってないと言って断った。毎日犬を探しに出た。風が昨日よりも冷たいような気がして、自分の腕にひとつ傷を加えた。