阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「AIトイレ」よしひろ
ドアに手をかざし、中に入る。
「おはようございます、一郎さん!今日の体調はどうですか? 昨日は約70グラムの便と150CCの尿が排出されました」
「よろしければ、確認パネルにタッチしてください。」
パネルに触れると、ゆっくりと便座のフタが持ち上がる。微かな花の香りも漂ってきた。
おもむろに腰をかける。
今日は便秘気味で、なかなか出てこない。
「一郎さん、便秘ですか? 浣腸がおすすめです! 細い管で抵抗なく挿入できて、楽に排便できます」
「俺のあそこまで監視してんのか?」とムッ!としたが、年のせいか、運動不足のせいか、よく便秘になることがある。
悪化して、よく痔にもなる。今回、お願いすることにした。
「浣腸ボタン」をそっと撫でると……。
「サイズはS,M,Lとありますが、どうしますか?」と恥じらいもなく質問してくる。
無難に「M」を選択する。
ググッと何か棒状のものが出てきて、俺のあそこに向かってやってきた。
そして、狙いが定まったのか? 一気に突っ込んできたのだが、少しズレて違うところに突き刺さった。
「痛い! 何すんねん」と便器に罵声を浴びせる。
「申し訳ありません。今後は一郎さんの挿入位置データを上書きして対応させていただきます」
それでも、再度ズレて侵入してきたので自分で位置を調整して、管を入れた。
生暖かい液体が体内に運ばれて、すぐにお腹がグルグルとなってきた。
管が抜けるとき、ほんの少し気持ちよかった。一気に排便する。
センサーが感知して、便器を洗浄。
あそこを目がけてお湯が出て、温風乾燥する。位置情報が補正されたようで、問題なく進む。すると、
「今の排便の量は約130グラムとなります。いつもより多いですね。質は柔らかくて、臭いはキツいです。5段階の4くらい臭いです」
「うるさい! なんやねん」と苦笑いする。
念のためトイレットペーパーで拭こうと手を伸ばすと、何かが書いてある。
「一郎さん! 今回のサービスについてお聞かせください。今後のサービスの改善に役立てていきます。ご理解とご協力をお願いします」
「浣腸する位置情報の精度」
「お尻の洗浄時の温度設定」
「温風乾燥の風量」
無視して紙を引っ張ろうとしたら、ロックされた。
「不審な第三者による利用が認められました。紙の使用を禁止します」
「なんでやねん」
仕方がないので、ちょっとヌルッとした下半身でトイレから出ることにする。
すると、
「一郎さん、お尻を拭かないのですか? 不衛生ですよ!」
「お前がトイレットペーパーをロックしたんやろ!」と、怒鳴ってしまった。
その拍子に、緩くなった下半身から便が少し漏れたように感じた。
こうなっては、また便座で用を足さないといけない。
また座ると、
「一郎さん! 今日はすでに130グラムも排便してます。これ以上の排便は健康によくありません。整腸剤をお出ししましょうか?」
突然、壁の引き出しが開いて、錠剤が二粒でてきた。
素直に従わないと、トイレを使わせてもらえないので、無理矢理喉に押し込んだ。
「水くらい出せや、気がきかんのぉ。評価減点やな」と呟く。
残りのモノを出して、洗浄乾燥が終了。
トイレットペーパーの方に目をやると、やはり、アンケートの依頼があった。
ロックされたくないので、回答する。
「評価」を低くしようと考えていたけど、「ご機嫌を損ねると恐い」ので、5段階で4、としておいた。
「ご協力ありがとうございました!感謝の意を込めて10ポイント加算させていただきます。500ポイントから交換できます!」
「何に交換するねん」