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阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「戦いはこれからだ」田辺ふみ

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作文・エッセイ
結果発表
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第49回 阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「戦いはこれからだ」田辺ふみ

「わたしが恋人の宮野愛です」

宮野がはっきりと宣言する。

「あー、あなたが元恋人の宮野愛さんですね。わたしが今の恋人の白石明日香です」

白石の言葉は宣戦布告だ。

宮野の目がつり上がった。

「誠さんは今もわたしの恋人です。あなたはただの浮気相手って言ってました」

「誠さんは優しいから、本当のことが言えなかったんですよね。宮野は怖いから、別れを切り出せないって、誠さん、いつも、言ってました」

「怖い?何を馬鹿なことを言っているの?ねえ、誠さん」

宮野が俺の隣にいる誠に話しかけた。

誠は大きくうなずいている。

「誠さん、本当のことを言って。大丈夫。わたしがあなたを守るから」

白石の言葉にも誠はうなずいた。

まったく、誠という奴はどうしようもない奴だ。

宮野とは三年もつきあって、そろそろ、結婚するかもと思っていたのに浮気。

まあ、友人としては悪い奴ではないから、こうやって、話し合いの場所を提供して、立会いまでしているわけだ。

ただ、誠にどちらに対して本気なのかとたずねても、決められないと言う。

それも仕方ないかもしれない。

横で見ている限り、宮野と白石はまったく同じタイプだ。きれいで気が強くて。そして。

バチッ。

宮野の平手打ちが白石の頬に決まった。

次の瞬間、白石も平手打ちを返していた。

「おい、やめてくれよ」

誠が心細い声を出した。

宮野も白石も聞いていない。

宮野の右が白石のボディを狙った。白石はその手首をつかみ、引きながら、足払いをかける。

宮野はよろめくと、そのまま、体重をかけて、白石を押し倒す。

「おい、二人を止めてくれよ」

誠が俺に頼むが、そんな生易しいものではない。

この父の道場で小さい頃から柔道をやらされていただけで、俺は強いわけではない。

それに比べ、この二人は明らかに強い。

宮野はボクシングっぽいスタイルだが、今、床の上で絞め技をかけているのを見ると、柔道経験もあるのかもしれない。

白石は空手系だろうか。それでも、うまく絞め技から抜け出し、立ち上がった。

おっと、回し蹴り、連続。

当たった!

それでも、宮野は倒れない。

動いていると、筋肉がよく発達しているのがわかる。

誠のような優男がこういうたくましい女性を好きになるのは、自分にないものを求めているのだろうか。

バシッ。

バン。

拳や蹴りが入っても、二人とも倒れない。打たれ強さもあるようだ。

「あきらめなさい。誠さんが愛しているのはわたし」

「いつまでもつきまとわないで。わたしたちは愛し合っているの」

会話しながら、激しい戦いが続く。

ガラッ。扉が開いた。

「お前たち、何をやっている!」

現れた父の大音声に宮野と白石の動きが止まった。

「父さん、今日は道場が空いているから、使っていいって、言っただろう」

俺の言葉に父はむっとした。

「けんかに使っていいとは言ってない」

「けんかじゃありません」

宮野が口をはさんだ。

「お互いの本気を、どちらの愛が強いのかを探っているのです」

父が俺の方を見たので、慌てて、俺じゃないと手を振った。

「すみません、僕の彼女なんです」

誠が頭を下げた。

父がたずねる。

「どちらが彼女なんだ?」

誠の目が泳ぐ。

父はにやりと笑った。

「お嬢さんたち、戦って、本気を確かめたいなら、相手を間違ってるよ。愛の強さは彼氏に確認しないと」

宮野と白石が顔を見合わせ、それから、キッと誠の方を見た。

誠が俺の後ろに隠れようとしたので、俺は気づかないふりをして、距離をあけた。

宮野が右の拳で左の手のひらを軽く叩いた。

白石が肩をぐるぐると回す。

二人はゆっくりと誠に近寄った。