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文章表現トレーニングジム 佳作「報復」シウマイ

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作文・エッセイ
結果発表
文章表現ジム
第23回 文章表現トレーニングジム 佳作「報復」シウマイ

父は、田舎出の貧乏人だった。片親で、学歴も義務教育しかなかった。

そんな父は、勤務先から、身に合わない地位に就かされた。大卒揃いの管理職らの中で、無教養で方言丸出しの父は、想像を絶する苦労をしたとは思う。人の助けが欲しかったのだろうが、だからといって、やたらと仕事関係の人を家に連れてくるのには参った。母も私も、毎回、てんてこ舞いだった。しかも、静かに待っていればいいのに、じっとしていられない性格の父は、やれ「酒を出せ」「飯が遅い」と、わあわあ叫び続けた。私はいつも、見知らぬおじさんに挨拶を強要されたのだが、客が帰ったあとは、決まって「挨拶がなっていない」「愛想のない子だ」と怒られてばかりいた。これで私は、完全な来客嫌いになった。無論、父も大嫌いになった。

親戚付き合いでもそうだった。田舎に連れていかれると、知らぬ人らに挨拶を強要されては叱られたのは無論だが、田畑しかない山奥で、周囲が話す方言も分からず、つまらなそうにしていると、これまた叱られた。

父は、見栄っ張りだったのだろう。子供を正座させてコンニチハと言わせ、いいお嬢さんですねなどと言わせたかったのだろうが、大人に付き合わされる子供にとっては苦痛でしかなかった。

私は、父から味わった子供時代の嫌な思いは、絶対自分の子にはさせまい、と誓いながら育った。結果、私は子供を産まなかった。これほど確実な防御方法はない。父は、孫を見ずに死んだ。