文章表現トレーニングジム 佳作「母娘の関係」河野果歩
第20回 文章表現トレーニングジム 佳作「母娘の関係」河野果歩
娘が小学四年に進級するタイミングで、僻地に引越した。全校児童三十人にも満たない小学校の職員室で、娘と一緒に転入手続きを済ませると、対応してくれていた教頭先生が満を持して切り出した。
「あなたと広夢ちゃんのご関係は?」
「母と娘です」
職員室中の視線が私達に集まった。
「他言はしませんから、どういった経緯で?」
「どうもこうも私が母ですが、なにか問題でも?」
「いえ、それならいいんです」
私と娘は顔を見合わせて帰宅するのだが、途中で立ち寄ったJAの売店でも関係性を聞かれ、会う人はみんな、私が母であることを不思議がった。
「お支払いは別々ですか?」
飲食店ではお決まりのフレーズとなり、私はようやく自分が若く見られていることに気付いた。とはいえ、まさか小学生とタメに見えていたわけなかろうが、娘は次第に苛立ちを覚えるようになった。
「お母さん、いい加減、年相応になったら?」
簡単に言うけど、美容整形でもしないと無理だと思うし、医者も老け顔にするオーダーなんて受けないと思う。
娘から無理難題を言われ続けて二十年。娘はあの頃の私と同じ年になり、五十歳を過ぎた私はめっきり白髪が増えた。黒か茶色に染めて若作りしたいんだけど、いいよね?