文章表現トレーニングジム 佳作「食卓に肉汁を」水曜
第20回 文章表現トレーニングジム 佳作「食卓に肉汁を」水曜
我が家では食事の献立に関して、私の提案はなかなか通らなかった。それというのも、私は肉類が好きなのだが、他の家族は魚介類が好物であるからだ。
特に父は典型的な魚好きであり。
加えて大の肉嫌いでもあった。
肉好きの私などからすると理解しにくいところだが、したたる肉汁の匂いを嗅ぐだけで気持ちが悪くなるらしい。
一家の大黒柱がこのような調子なので、我が家は魚中心の生活にならざるを得なかった。
「何を食べたい?」
と、訊かれるたびに
「肉が食べたい!」
と、私は強硬に主張してきたが却下され続けた。
魚好きの面々の中において、肉好きは肩身が狭い。肉嫌いの父を筆頭に、我が家の他の面々も魚派であるために、味方は誰もいなかった。
毎日、毎日。
魚、魚、魚、魚……カレーはシーフードカレー、コロッケはカニクリームコロッケ、ソーセージはもちろん魚肉ソーセージ。
日に日に、私は肉に飢えていった。
肉。
肉が食べたい。
肉の油を身体が欲している。
そんな私を救ってくれたものがある。何であろう学校の給食である。家では滅多に肉を口にできなかった私にとって、給食の献立は唯一の希望だった。
文字通り目を血走らせて、牛肉豚肉鶏肉を必死になっていただいた。
ところが、悲劇は起こる。
なんと給食でハンバーグが出る日に、私は風邪をひいて寝込んでしまったのだ。諦めきれず、給食だけ食べに行きたいと、両親に訴えたが却下され。
その日、食卓には鯨のハムが並んだ。