文章表現トレーニングジム 佳作「どっちがどっち」渋谷史恵
第19回 文章表現トレーニングジム 佳作「どっちがどっち」渋谷史恵
中一の時の理科の試験。私はある問題に悩み、苦しんでいた。それは、
「どちらがイモリでどちらがヤモリでしょう」
というもの。
たった一文字しか違わないイモリとヤモリであるが、なんとかたや爬虫類、かたや両性類なのだ。当然その習性は異なり、この習性はイモリですか、ヤモリですかという設問が、確か五問くらいはあったような気がする。ということは、両者を取り違えてしまうと、五問全部間違ってしまうはめになる。これは大きい。絶対に負けられない戦いならぬ、絶対に外せない問題なのだ。
教科書には両者の写真が並んで載っていた。が、思い出そうとしても、浮かんでくるのは同じような二匹のトカゲもどきだ。こっちがイモリ? いやこっちか? 頭の中がイモリとヤモリで飽和状態になりそうだった。
試験が終わってすぐ、友達のA子にどう回答したか聞いた。すると彼女は、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりのこれ以上ない笑顔で、明るく言った。
「イモリは池、ヤモリはヤブって覚えてたんだ♪」
一瞬の間の後、私は心の中で叫んだ。そ、そうか! そう覚えればよかったのか! イモリは池で両性類、ヤモリは藪で爬虫類。その完璧な覚え方に衝撃を受け、私はA子の鮮やかな笑顔を見つめるばかりだった。同時に、自分の答えが全て間違ったことを知った。