文章表現トレーニングジム 佳作「やっぱりここは」ミミ子
第18回 文章表現トレーニングジム 佳作「やっぱりここは」ミミ子
足の右膝を粉砕骨折して入院していたときのことである。手術した二日間は集中治療室にいたが、その後はむろん部屋代が無料の六人部屋に移った。
その部屋は、ほとんどが八十代の女性。家の中でつまずいたり、自転車で転けたり、段差で転倒したり、皆一様に足取りがおぼつかない結果だ。
この日、一つ空きが出たベッドに、個室から移ってきた八十三歳のおばあさんが、ベッドに寝かせるやいなや、大声で叫んだ。
「私はこんな雑居部屋に入りたくないの。雑居部屋は嫌いなのよ」
私は吹き出した。ここは雑居房か。我々は囚人か? やがて夕飯の時間になった。看護師が御飯を食べさせようと、かのおばあさんの体に触ろうとして、いやその前に、
「痛い! 痛い! 何すんのよ」と、悲鳴をあげる。
「いやいやいや、まだ触ってない」看護師が笑う。
「どうして食べる? 体を起こそうか。ベッドを起こす方がいいかな」
おおげさに痛みを連発してすったもんだの揚句、何とか食膳に向かわせたのはいいが、
「私はね。ちゃんと食事代払ってるのよ。こんな残飯食べられないわ」ときた。
真向いのベッドにいた九十六歳のおばあさんが、つと立ち上がって、
「あんたねぇ。ここはここのけじめちゅうもんがあるんよ。昔だったら切腹だよ。潔くしなさい」
凛とした声が空気を破る。牢名主の一撃で、かのおばあさん傷む腰がまた折れた。