文章表現トレーニングジム 佳作「仕事の適性」ひよこちゃん
第16回 文章表現トレーニングジム 佳作「仕事の適性」ひよこちゃん
どの職業にも適性というものがあり、世の中の人はどれくらいそれを満たして働いているのだろうかとふと思う。例えば、知識も技術も高いものを持っているのに、血を見るのが怖いお医者さんとか。幼い頃から動物と関わる仕事が夢だったのに、動物アレルギーを持っているペットショップの店員さんとか。こういう人は残念ながら仕事を諦めざるを得ないのだろうか。
そういう私は、若い頃バスガイドをしていた。歴史を学ぶのは大好きだったし、それを伝えるのも好きだった。お客さんとのコミュニケーションもうまくいっていたし、自分で言うのもなんだが、同期の中では期待されていた方だったと思う。
しかし、私は強烈な『方向音痴』だった。
改札でお客さんを迎えても、駐車場まで辿り着けないことも何度もあった。自分でも場所が分からないのだから、お客さんに集合場所をうまく伝えることも出来ない。後輩の指導などどう考えても無理だった。結果、バスガイドの仕事は辞めた。「私、方向音痴ですから」などと説明しても分かってもらえず、周囲からはずいぶん引き止められた。それでも辞めざるを得ないほど、私の方向音痴はひどかった。迷惑をかけたことを二十年経った今でも申し訳なく思うと共に、私は今でも大原三千院で迷子になる夢を見てうなされている。