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文章表現トレーニングジム 佳作「手作業音痴」岩下欣弘

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作文・エッセイ
結果発表
文章表現ジム
第16回 文章表現トレーニングジム 佳作「手作業音痴」岩下欣弘

私は、機械を操作することや工作することが子どもの頃から不得手であった。とにかく手作業が苦手。手作業音痴である。

例えば、のこぎりで板を真っ直ぐ切ることができない。一度曲がりだした切り口はますます曲がっていく。「慎重に切れば大丈夫」、「引く時に力を入れろ」などとアドバイスを受けるが、必ず曲がる。くぎも真っ直ぐ打てない。これも必ず曲がる。

中学の時の技術家庭では、のこぎりや金づちなどの大工道具一式を使って実技の授業を受けたが、一番印象に残っている思い出は、先生がいないと思って作業中に大声で歌を歌いこっぴどく怒られたことである。先生がそっと後ろから近づいてきて、作業台に頭を何度も打ち付けられた。「石頭で良かった」と思ったのを覚えている。そんな有様だから、まともに授業を受けた記憶がない。元々、そういう作業をすることが性に合っていないのだと思って生きてきた。

その私が農業をすることになった。大百姓ではないが、その仕事で生業を立てようとしている。手作業と機械を操る日々の連続である。トラクタヤー田植機のマニュアルと首っ引きになってオイルやグリスを注し、排水桝の止め板を作るため、引く時に力を入れることを意識しながらのこぎりで慎重に板を切っている。

今まで自分は音痴と諦めて手を出さなかったことだったが、続けてみれば徐々にコツも飲み込めてきた。遠い昔の頭の痛みを懐かしく思いつつ、手作業に励む毎日である。