文章表現トレーニングジム 佳作「宝くじ」樺澤早矢佳
第14回 文章表現トレーニングジム 佳作「宝くじ」樺澤早矢佳
私の祖父が脳腫瘍に罹ったのは、私が中学校一年生の時だ。
健康が自慢な人だったが、声が出にくいと耳鼻科に行ってから、悪性脳腫瘍と診断されて亡くなるまで一年もなかった。
脳腫瘍と診断を受けた年末に、祖父は宝くじを買った。ギャンブルとは無縁の人だったので、宝くじを買う姿を見たのは初めてだった。
――当たるといいね。久々に祖父の笑顔を見た。
私は、神に、仏に祈った。だが、三千円のバラ十枚は、三百円になった。
――上手くはいかないものだな。祖父は寂しそうに笑った。
祖父の三回忌、お寺さんが「人間は、大事なところはがんにならない。心臓や脳はがんにならないのです」と話した。
私は悔しかった。祖父は、脳のがんで亡くなったのだと、声を上げたい気持ちを堪えた。
神も仏もないものだと、子ども心に恨んだ。
生きた時間こそ平等ではないけれど、死は平等に私たちにやってくる。神も仏もないのだ、初めから。だからこそ人間は、救いを求め宗教を生み出した。救いを求める心は誰しもある。神も仏もないものだと嘆いても、縋らずにはいられない。
そして今日も、神に、仏に祈るのだ。
祖父が亡くなった日、病院の屋上から見上げた四月の空は、眩しいくらいの青空だった。